親子鹿が生命の危機も「どうすることもできない」 ボランティア訴える野生動物へのルール変更

出産中に子宮脱となり、お尻から子鹿の死体をぶら下げたまま衰弱している母鹿がいる――。今月中旬、広島・宮島の鹿を巡るショッキングな内容の投稿が拡散、波紋が広がっている。背景にはどんな問題があるのか。投稿を行った、宮島で鹿の給餌ボランティアをしているYouTuberの岡本貴晶さんに話を聞いた。

出産途中で子宮脱を起こしたという宮島の鹿の情報が拡散
出産途中で子宮脱を起こしたという宮島の鹿の情報が拡散

出産中に子宮脱となり、お尻から子鹿の死体をぶら下げたまま…ショッキングな投稿が拡散

 出産中に子宮脱となり、お尻から子鹿の死体をぶら下げたまま衰弱している母鹿がいる――。今月中旬、広島・宮島の鹿を巡るショッキングな内容の投稿が拡散、波紋が広がっている。背景にはどんな問題があるのか。投稿を行った、宮島で鹿の給餌ボランティアをしているYouTuberの岡本貴晶さんに話を聞いた。

「緊急! 宮島の杉之浦という地域にお尻から赤ちゃんを半分ぶら下げてるお母さん鹿がいるそうです」「赤ちゃんは産まれる途中で死んでしまって腐ってハエだらけ お母さんも弱ってもう動けない」「観光協会からは『どうすることもできない』と言われたと」

 今月17日、宮島の鹿の悲惨な状況を訴える内容の投稿が各種SNS上で拡散。ネット上では「かわいそう」「誰か何とかしてあげて」という悲鳴の声があふれた。宮島の鹿は野生動物という扱いで、治療のための島外への移送許可を巡り、行政との交渉が難航。投稿が拡散したことで最終的には広島県が特例を認め、発見から8日後に他県の獣医師のもとで手術が行われたが、その後に死亡が確認されたという。母鹿の死体は再び宮島に戻され、火葬された。

 一連の投稿について、岡本さんは「行政からは『野生動物なのでどうすることもできない』『ルールとして手は出せない』と言われ、このままだと間違いなく死ぬと思い、何とかしたいという気持ちで投稿しました」と意図を説明。「あのまま何もできず母鹿さんが腐敗していくのを見るのは、僕らもつらいし、行政の方も本当は何とかしたいと思っていると思うんですよね。それでも、ルールがあるならそれを守らなければならない。誰かが悪いというわけではない。今回、現場で頑張ってくれた方たちに対しては感謝しかありません。最終的には残念な結果となってしまいましたが、現地で協力してくれた方を特定したり、責めたりすることがないようにお願いします」と訴える。

 その上で「僕としてはルールを変えていくのが必要なのではないかと思っています。野生動物でも助けたいという気持ちが結集したおかげで、今回はルールに一部特例が出た。まずは多くの人がそのルールはおかしいんじゃないかと気づくこと、そして声を上げる人がたくさんいれば、より良いルールに変わっていくのではないかなと思います。良いルールは残せばいいし、もし今の時代に合わないルールがあるならそれはより良い方向に変えていけばいいこと。野生動物について考えてくれるきっかけになればうれしいです」と思いを語る。

 宮島の鹿を管理する広島・廿日市市の「宮島地域シカ保護管理計画」によると、宮島では古くから鹿が大切に扱われ、住民による給餌が行われており、現在では島の北東部を中心に600匹以上のシカが集中して生息している。一方で個体数の増加による生活環境への被害や観光客への危害も報告されており、また給餌に起因する過剰な人馴れによって、交通事故の危険性や誤って食べたビニールなどの異物が胃に蓄積する健康被害といった問題も起きている。

 廿日市市や旧宮島町では、1980年頃から個体数調査を始め餌場や鹿柵の設置などの対策を行ってきたが、生息個体数の抑制効果はみられず、98年には「宮島町鹿対策協議会」が発足。現在では餌やりの禁止を柱とする鹿の野生復帰の方針が示されている。

次のページへ (2/2) 【写真】「赤ちゃんは生まれる途中で死んでしまって…」 拡散した別の投稿
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