橋本愛、逆風こそ「理想的」 安定求めず挑戦を続ける理由「必ず衰退や崩壊する」

俳優の橋本愛が、DC映画『ザ・フラッシュ』(公開中)で、自身初めてとなる日本語吹き替えを務めた。すでに“最高傑作”とうたわれる超大作で日本語版声優に挑戦した際の役作りやアフレコ現場を振り返るとともに、今後の夢を打ち明けた。

映画『ザ・フラッシュ』でスーパーガールの日本語吹き替えを務めた橋本愛【写真:ENCOUNT編集部】
映画『ザ・フラッシュ』でスーパーガールの日本語吹き替えを務めた橋本愛【写真:ENCOUNT編集部】

映画『ザ・フラッシュ』スーパーガールの日本語吹き替えを務める

 俳優の橋本愛が、DC映画『ザ・フラッシュ』(公開中)で、自身初めてとなる日本語吹き替えを務めた。すでに“最高傑作”とうたわれる超大作で日本語版声優に挑戦した際の役作りやアフレコ現場を振り返るとともに、今後の夢を打ち明けた。(取材・文=猪俣創平)

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 本作は、俳優のエズラ・ミラー演じる地上最速のヒーロー、フラッシュ/バリー・アレンの活躍を描いたDCシリーズのヒーロー映画。両親を救うため、タイムループして過去を改変してしまったフラッシュが、マイケル・キートン演じる伝説のバットマンや、スーパーマンの“いとこ”スーパーガール/カーラ・ゾー=エルと出会い、自らの行動によって起こった世界の危機に、もう一人の自分やヒーローたちと共に立ち向かうストーリーだ。

 橋本は、フラッシュが改変した過去で出会うスーパーガールの吹き替えを担当。主人公・フラッシュを声優の細谷佳正、改変された過去に登場するマイケル・キートン演じるバットマン(ブルース・ウェイン)を山寺宏一が吹き替えを務めた。今回の日本語吹き替えキャストに橋本は、「そんなすごい人たちとご一緒するんだってことに戦慄(せんりつ)して……。でも、カーラには自分だって思ってくれた人が一人でもいるなら、その期待にお応えしたいなって思いました」と意気込み、アフレコに臨んだ。

 一方でプレッシャーもあった。「アフレコが終わった後に、本当につき物がとれたような感じになって(笑)。それぐらい自分の中で気を張っていたというか、この作品の期待値の高さとか、皆さまがつないできたバトンを受け取らなければならないっていう責任感もあったので」と当初の心境を明かす。

 これまでにアニメ映画の声優経験はあったが、以前から俳優としても「普段のお芝居でも声はすごく大事」だと意識している。そのきっかけは、ある映画監督との出会いだった。

「成島出さんが役者さんの声にすごくこだわる方で、ご一緒した映画で昔の日本女優さんみたいな声を出してほしいというオーダーをいただいたんですけど、全然できなかったんです。そこで、まずはボイストレーナーの先生と一緒にメカニズムから理論的に考えながら、体の使い方を覚えていきました」

 声帯をコントロールして思い通りに声が出せるよう努力すると、ボイストレーニングをその後も継続した。「今回も応用が利きましたし、役に立ちました」と成果を実感している。

 今作での役作りは「いつも通りの工程」だったとして、「声だけ。むしろ声だけだから、カーラ自身の核となる部分が自分の中にないと、どんな声を出していいのか分からないのでお芝居と同じでしたね」。具体的にどのような声を出そうと意識したのだろうか。そこには、日本語吹き替えならではの難しさもあったようだ。

「迫力のある声を出したかったんです。でも、英語ならではの“響き”があって、どうしても日本語だと消えてしまうものがありました。だから、ちゃんと自分の中にその“響き”を作ったうえで発声しないと英語のニュアンスに近づけないので、できるかぎりの準備をして臨みました。それまでは声を低くしようと思えば思うほど、苦しい声になっちゃってたんですね。でも、今回はリラックスした状態で発声することができるようになって、出したい“響き”が出せました」

声の仕事で叶えたい夢も明かした【写真:ENCOUNT編集部】
声の仕事で叶えたい夢も明かした【写真:ENCOUNT編集部】

アフレコ現場は「すごく新鮮で、すごく楽しかった」

 さらに、アフレコを通して確かな手応えもつかんでいる。「声の使い方の幅が広がったことがすごくうれしくて、今まで自分がやりたくてもできなかったことができたっていう実感を得られました」と喜ぶとともに、「実際にお芝居されている役者さんの演技から自分がヒントをもらって、声を演じるという体験がすごく新鮮で、すごく楽しかったんですよね」と振り返る。

 今作での成長はその後の仕事にもつながっているようで、「今回のカーラを通して、聞きなじみのいいトーンで、低さを保ったまま圧をかけられる声を出せるということを達成できたので、収録後のお芝居の現場でも『あ、出せるようになってる』と体感できました」と明るく話す。

 初挑戦となった日本語吹き替え声優。これまで何度も“初めて”の仕事に挑んできた橋本だが、意外にも「逃げたい」と思うことがあると告白する。一方で、その感情は「むちゃくちゃポジティブなんです」と笑う。

「初めてということが、どこかのタイミングでご縁として偶然巡ってくる感じで、怖いと思うものほどやりたい、という気持ちになるんですよね。だから、今回もめちゃくちゃ怖かったですし、本当に逃げたいって思うこともあったんですけど、逃げたいと思うことこそ、自分のやるべきことだという認識があるので、すごくありがたかったですね。安心できる環境にいると、いつか必ず衰退や崩壊すると思うんです。だからこそ、常に自分にとって逆風みたいな、圧力がかかっている状態は自分としては理想的なんですよね。自分が苦しみながらも頑張る、みたいな感じでした」

 苦境も前向きに捉えながら、俳優としてのキャリアを前に進め続けている。今後の“声の仕事”について問われると、「声優さんは声優さんとして、ものすごい研さんを積み上げてこられた方々だから、わざわざ自分がする意味を見いだせないと、簡単にやりたいと言えないなって気持ちがありますね」と謙遜する。

 しかし、「でも、夢があって……」と言葉を紡ぐと、長年の目標を打ち明けた。「ある映画の声優をやりたいなとずっと思っています。子どもの頃から見てきた作品のシリーズで、いつか、と思っています。だから、自分にはいろんな声が出せるんだってことを知っていただけたらいいなって」と、さらなる自身の可能性に夢を描いている。

□橋本愛(はしもと・あい)1996年1月12日、熊本県出身。2010年『Give and Go』で映画初出演初主演。13年、映画『桐島、部活やめるってよ』で日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。同年NHK連続テレビ小説『あまちゃん』の出演で話題に。22年、日本テレビ系『家庭教師のトラコ』で民放連続ドラマ初主演。近年の主な出演作は、NHK大河ドラマ『いだてん~東京オリムピック噺~』(19)、『同期のサクラ』(19)、『青天を衝け』(21)、映画『ホリック xxxHOLiC』(22)、アニメーション映画『僕が愛したすべての君へ』『君を愛したひとりの僕へ』(22)など。

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