グーグルの口コミ評価に“ケタ違い”の嫌がらせ 発信元は海外 法的手段は取れるのか、弁護士に聞いた

「まさか青森のこんな小さなお店が狙われるとは」。先月、グーグルの口コミに突然、「低評価」を大量につけられ、困惑する居酒屋関係者のツイートが大きな話題となった。グーグルへの通報により、評価は元に戻ったものの、低評価を消す見返りに金銭を要求する悪質な手口が波紋を広げた。ネット上には同様の被害を訴える声がほかにもあり、泣き寝入りする経営者もいる。架空の評価により、恐喝や営業損害を受けた場合、法的手段に訴えることはできないのか。弁護士法人・響の古藤由佳弁護士に聞いた。

1時間に40件超の最低評価がつけられた(写真はイメージ)【写真:写真AC】
1時間に40件超の最低評価がつけられた(写真はイメージ)【写真:写真AC】

イスラエルから突然…悪質投稿にぼう然

「まさか青森のこんな小さなお店が狙われるとは」。先月、グーグルの口コミに突然、「低評価」を大量につけられ、困惑する居酒屋関係者のツイートが大きな話題となった。グーグルへの通報により、評価は元に戻ったものの、低評価を消す見返りに金銭を要求する悪質な手口が波紋を広げた。ネット上には同様の被害を訴える声がほかにもあり、泣き寝入りする経営者もいる。架空の評価により、恐喝や営業損害を受けた場合、法的手段に訴えることはできないのか。弁護士法人・響の古藤由佳弁護士に聞いた。(取材・文=水沼一夫)

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 被害を訴えたのは、青森市の櫻庭里穂(@shiibasusuzuki)さん。

 5月22日、「旦那のお店が詐欺に巻き込まれました。内容は、Googleレビューで低評価1をたくさんつけられ、後でそのレビューを消して欲しかったらお金を払えと要求して来るものです。払わなければ、低評価のままの店にさせられます。小さいお店なので、気に入った方が評価くださってて4.8とかだったのですが、突然海外のアカウントから1時間40件以上のペースで評価1を付けられました。その結果2.6まで下げられました。集客に影響します」とつづり、問題解決のための情報提供を求めた。

 櫻庭さんによると、夫が青森で営む「青森居酒屋いい友」の口コミに大量の低評価が届いたのは21日の夕方。だが、それより数週間前に、単体の低評価をつけられたことがあった。
 
 その後、「毎日のようにグーグルのレビューを消せたり、高評価にできるグーグルサポートというサービスがある」という主旨の営業の電話を受けた。櫻庭さんが要求を断ると、ツイートにあるようなケタ違いの嫌がらせ行為を受けた。

 グーグルの問い合わせ先を探すも見つからず、攻撃は続いた。口コミの低評価をカムフラージュすることは困難だった。さらに、投稿先を調べたところ「イスラエルからの投稿」と分かった。「海外なので警察に相談もできない」と悩み、SNSを利用してのトラブル公表を決めた。

 今回、ネット上の協力もあって、被害は数日で収まった。しかし、櫻庭さんは、「コメントなどで自分も同じような被害に遭ったという方や、使っていなかったアカウントが乗っ取られてそれを使って口コミしているようだなどの情報も寄せられました」と、懸念する。櫻庭さんはニューヨークタイムズ紙の報道を紹介し、海外でも同様の事例があることに触れ、注意喚起のメッセージも発信した。

 たとえ問題が解決したとしても、深刻な営業被害を受ける可能性もある。口コミの発信元が「海外」とはいえ、悪質な手口に、法的手段を検討することはできないのだろうか。

 古藤弁護士は、「本件について、どこかのタイミングで『低評価の口コミを消してほしければ金を払え』というような要求をされていた場合には、『恐喝罪』が成立しえます。ニューヨークタイムズで紹介されている、『低評価を消す条件としてギフトカードを要求する』というのは、まさにこれに当たります」と、話す。

 さらに大量の低評価が、組織的に行われていたことを証明できれば、「威力業務妨害罪」や「電子計算機損壊等業務妨害罪」が成立する可能性もあるという。

 どのような手順を踏めばよいのだろうか。

「『大量の低評価の口コミ』全体をひとつの行為としてみた場合、インターネット上の口コミを不当に操作して、結果として対象となる店舗に対する評価を実際よりも低く表示させたことになります。この行為は言うまでもなく、当該店舗に対する営業妨害に当たり、『威力業務妨害罪』(234条1項)『電子計算機損壊等業務妨害罪』(234条2項)が成立する可能性がありますが、具体的に責任追及を検討する場合に最も難しいのは、これらの低評価の口コミが、特定の個人や団体によって一体としてなされた行為であることの証明だと思います」

 発信者情報の開示請求が、最初のステップとなる。

発信元が海外であっても法の裁きは可能か?

「各口コミの発信者を割り出すことになります。このとき、インターネットの口コミにある情報だけでは発信者が誰なのかが分かりませんので、インターネットサービスプロバイダー(ISP)に対して、低評価の口コミを書いた人の個人情報の開示を求めることになります。ただ、ISPは、プロバイダーの契約者に対して個人情報を保護する義務を負っているため、当然には個人情報の開示を行わない場合がほとんどです。このため、まずは、情報開示の手続きをしている間に発信者情報が消えてしまわないよう、プロバイダーが保有する発信者情報を保全したうえで、プロバイダーに対する発信者情報開示の訴訟を提起することになります」
 
 情報開示が認められる要件には、「権利侵害の明白性」「発信者情報の開示を受けるべき正当な理由」の2つがあり、「大量の低評価について、まとめて申立をする必要があります」と、古藤弁護士。

「まず、ウェブページを運営するコンテンツプロバイダーに対してIPアドレス・タイムスタンプ等の情報開示を求め、次に、開示されたIPアドレスから、発信者の実際の住所・氏名等の個人情報を保有しているISPを割り出して、当該ISPに対して発信者の個人情報開示を求めるという2段階での請求になります」と、続けた。

 正当な手続きを踏み、裁判所経由で発信者情報を入手する。そして、発信者が特定の個人や団体であれば、犯罪が成立する。たとえ、発信者が海外であっても日本の法律を適用させることが可能という。

「本件のように、犯罪の行為者が海外から日本(や日本国内の個人)に特定して犯罪行為を行っている場合に日本法を適用できるかについて、判例・通説は、これを可能と考えています。これは日本の刑法が、一次的には『属地主義』(犯罪地が日本国内にある場合に日本法を適用する)を取っており、当該『犯罪地』の範囲について、刑法上の構成要件の一部が生起した地はいずれも犯罪地とする説(普遍説)が判例通説と解されているためです」

 これらの作業を、個人が進めることはなかなか困難な印象もある。またかなりの時間もかかりそうだ。古藤弁護士もこの点については、「ハードルはかなり高い」としつつも、「理論上は、本件について日本法の適用による処罰をすることは可能です」と、力を込めた。

 なお、攻撃が日本国内からだった場合は、「解釈を挟むまでもなく、日本の刑法が直接適用されます」とのこと。

 架空の不当評価を受け、悩んでいるのであれば、法の力を借りるのも一つの手。海外だからといって、犯罪が許されるわけではない。

 櫻庭さんは「こういうのは本当に悪質なのでやめてほしい」と、迷惑行為の撲滅を願っている。

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