「自分にはキャラがないと思っていた」錦鯉・渡辺がテレビ進出でつかんだ“最強のキャラ”とは

M-1グランプリ2021王者として、今やテレビで見ない日はない人気お笑いコンビ・錦鯉。2022年にはテレビ番組の出演本数が400本を突破、今年52歳を迎える長谷川雅紀、45歳の渡辺隆という“中年の星”が見事なブレークを果たした。6月4日から初の単独ライブツアーを迎える錦鯉の2人に、ブレーク後の1年と“笑いのキャラクター論”について聞いた。

M-1優勝後のブレークについて語った錦鯉【写真:山口比佐夫】
M-1優勝後のブレークについて語った錦鯉【写真:山口比佐夫】

2022年にはテレビ番組の出演本数が400本を突破するなど、“中年の星”として大ブレーク

 M-1グランプリ2021王者として、今やテレビで見ない日はない人気お笑いコンビ・錦鯉。2022年にはテレビ番組の出演本数が400本を突破、今年52歳を迎える長谷川雅紀、45歳の渡辺隆という“中年の星”が見事なブレークを果たした。6月4日から初の単独ライブツアーを迎える錦鯉の2人に、ブレーク後の1年と“笑いのキャラクター論”について聞いた。【前編】(取材・文=佐藤佑輔)

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――まずはM-1優勝から1年を振り返って。

長谷川「去年1年間は本当に休みがなくて、何をやっているのか分からないまま終わったような感じです。1日3本撮りとか、出演本数400本以上とか、単純計算でも毎日何かしらの番組には出ていて、それ以外にも打ち合わせや雑誌などの取材とかもあったので。今までの人生の中で間違いなく一番忙しかったですし、この先もこれ以上忙しくなることはないだろうなと。とにかく忙しい1年でした」

渡辺「人生が変わるには遅すぎたなというか、体がついていかないんです。乗り越え方なんてないです。(次の現場が)来ちゃうんだから。ちょっと待ってくれって思っても、勝手に来て勝手に通り過ぎていく。乗り越えたというより、忙しさに引っ張り回されていたという感じ。忙しさが僕らの上を通過していくような感じでした」

長谷川「M-1優勝したら1日3時間睡眠で次の現場とか、起きられるように床で仮眠取ってとか聞かされていて、さすがにそこまでではなかったけど、それでも歴代の優勝者は、20代30代。僕らは年齢が年齢なので、仮に6時間寝られたとしても疲れがとれないんです」

渡辺「体のケアをする余裕もない。ようやくだいぶ落ち着いてきましたけど、本当によく生きてきたなっていうくらいです」

――今やテレビで見ない日はないが、現場での手応えは。

長谷川「手応えなんて、僕は一切感じたことないです(笑)。収録後に、今回は少しウケたかなとか、これは使われるんじゃないかなというのも一切なくて、毎回何もしゃべれなかったなとか、オウム返ししかできなかったなとか、そんなのばっかりの繰り返し。このままじゃダメだと思っても、終わった後に『ああいうときってどうすればいいんですか』と話を聞く時間もなくて、これはもう時間をかけて解決するしかないと毎日自分に言い聞かせていました。それでも共演者の方、スタッフの皆さん、編集の力でオンエアではちゃんと面白くしていただいている。本当に感謝しています」

渡辺「自分はもう途中から開き直っていました。この歳になってから初めてのことが多すぎて、脳の処理が追い付かない。反省してもしょうがねえかなって。雅紀さんと2人での反省会とかっていう時間もなかったです」

「錦鯉のネタは、文字に起こしても面白くない」2人が語る“笑いのキャラクター論”

長谷川「あの、ウケた言葉を繰り返すやつ、『天丼』って言うんですか? ああいうのもやってみたいんですけど、なかなか出来ないんですよね。いつも『そういえばさっきも同じこと言ってたな、ここでまた言うのかー』って感心しちゃって。もう少しで芸歴30年なんですけど、いまだにできる気がしない。自分でもやってみたいな、でもできないなって悩んでいたときに『いやいや、あんたにそんなこと求めてないから』『うまいこと言って笑いを取るなんてできるわけないじゃん』って隆に言われて。そういうことをできるようになるのを期待されて番組とかに出させてもらってるものだと思っていたから、それを聞いてだいぶ楽になりました」

渡辺「遅いよ、気づくのが……。ただ、偉そうなことを言っておきながら僕も自分の立ち位置ってものをよく分かっていなかったなと。テレビで見て初めて自分の役回りというか、周りからはこういう風に見られているんだというのが分かるようになった。その場でイジられているときより、テレビを通して見た方がこういう風にイジられとておけばいいんだというのが分かりやすかったですね。客観視というか。

 僕、正直自分にはキャラがないと思っていて、自分は『雅紀さんを連れてきた人』くらいの感じだと思っていたんですけど、テレビに出るようになって『平均的な究極のおじさん』『おじさんの偶像』みたいなキャラを周りがつけてくれた。それからは自分でもちょっと意識するようになって、いかにもおじさんが言いそうなことって何だろうなと考えて、自然体で生きるという結論にたどりつきました。さまぁ~ずの三村さんには『ただのおじさんでテレビ出てるやついねえよ! お前、最強のキャラ手に入れたな!』と言われてますけど(笑)」

――長谷川さんは強烈なキャラが売りだが、お笑いにおけるキャラクターの重要性とは。

渡辺「確かに、この人を初めて見たときは例えようのない衝撃を受けました。うちらに関してはネタうんぬんというより顔と大声。あらたまって『キャラクターの重要性とは』とかは考えたことがなかったですけど、確かに雅紀さんのキャラは前面には押し出してきましたね」

長谷川「錦鯉のネタって、文字に起こしても面白くないって隆がよく言ってるんですけど、それってけっこう本質的だなと思っていて。ネタ作りに関していうと、僕らは最初に出てきたネタを改良していくということがあまりなくて、『このボケはないだろ』と思ったネタでも、やってみたら意外とウケたりする。それは表情だったり言い方だったり間だったり、それこそキャラクターの面白さみたいなものなのかもしれない。ただ、僕は自分自身では何がウケるのか全然分かってませんけど。隆の言うとおりに思いっきりやったらウケるみたいなのは割とあります」

渡辺「雅紀さんの面白さを意識してネタを作っているというわけでもなく、全部その場の思い付きですよ。結局“この人大喜利”ですからね。お題以外何も決まってない状態で舞台に出たこともありましたし、漫才なんてふらっと出ていって話すだけですから……。すごい大御所感? そろそろ名言でも出しておいたほうがいいかなと(笑)」

長谷川「細かい設定は学校の先生だったり工場長だったりいろいろあっても、結局やってるのは全部僕で、内容はバカをやっているだけなので、どれも似たようなものなのかも」

渡辺「正直、音を消してネタを見たらどれも一緒。うちらの漫才はテレビの音を消して見るのが一番面白いと思いますよ(笑)」

□長谷川雅紀(はせがわ・まさのり)1971年7月30日、北海道札幌市出身。お笑いコンビ「錦鯉」のボケ担当。北海道の専門学校を中退後、94年にコンビ「まさまさきのり」(その後『マッサジル』に改名)でデビュー。解散後、ピン芸人「のりのりまさのり」を経て、12年に渡辺と「錦鯉」を結成。21年に初の自叙伝「くすぶり中年の逆襲」を出版。M-1グランプリ2021王者。

□渡辺隆(わたなべ・たかし)1978年4月15日、東京都江戸川区出身。お笑いコンビ「錦鯉」のツッコミ担当。大学中退後、01年にコンビ「ガスマスク」でデビュー。解散後、コンビ「桜前線」を経て12年に長谷川と「錦鯉」を結成。21年に初の自叙伝「くすぶり中年の逆襲」を出版。M-1グランプリ2021王者。

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