タイガー・クイーンを育てたジャガー横田 師弟対決実現へ「潰してやりたいと思った」

初代タイガーマスク佐山サトル率いるストロングスタイルプロレス(SSPW)が初めて女子の試合を組んだのは、2020年3月19日、後楽園ホールでのことだった。そのときは朱里&安納サオリ組vs松本都&彩羽匠組のタッグマッチで、この試合の好評価から女子のカードがレギュラーで組まれるようになり、翌21年7月29日には女性版タイガーマスク、タイガー・クイーンが衝撃のデビュー。初代タイガーさながらの四次元殺法に、観衆は時空を超えたような気分にさせられた。

育ての親であるジャガー横田がタイガークイーンについて語る【写真:新井宏】
育ての親であるジャガー横田がタイガークイーンについて語る【写真:新井宏】

クイーンの能力を絶賛「彼女の場合は完璧に近かった」

 初代タイガーマスク佐山サトル率いるストロングスタイルプロレス(SSPW)が初めて女子の試合を組んだのは、2020年3月19日、後楽園ホールでのことだった。そのときは朱里&安納サオリ組vs松本都&彩羽匠組のタッグマッチで、この試合の好評価から女子のカードがレギュラーで組まれるようになり、翌21年7月29日には女性版タイガーマスク、タイガー・クイーンが衝撃のデビュー。初代タイガーさながらの四次元殺法に、観衆は時空を超えたような気分にさせられた。

 以来、クイーンはSSPW女子の看板選手となり、現在もシングルでは負けなしの快進撃が続いている。女子の試合も増え、いまでは大会の半分を占めることも当たり前となっている。そんなSSPW女子の起爆剤となったクイーンを佐山とともに指導したのが、女子プロレス界の大御所、ジャガー横田だ。ジャガーはクイーンを育てる一方で、SSPW女子の統括としての手腕も振るっている。SSPWではジャガーの提案により、女子で初めてとなるタイトルを新設。SSPW女子タッグ王座の初代王者を決める8チーム参加のトーナメントが、6・8後楽園ホール大会で開幕する(6・8で1回戦4試合、8・31で準決勝、12・7で決勝戦。会場はすべて後楽園ホール)。

 このトーナメントはクイーンのチーム、ジャガーのヒール軍団CRYSIS(クライシス)、そしてクイーンをターゲットに出現した謎の覆面軍団DarkerZ(ダーカーズ)の3軍抗争が基本レイアウトになっている。それだけに、ある意味でクイーン包囲網と言っていいだろう。いまだフォールを取られたことのないクイーンに初めて土をつけるのは誰なのか、それともクイーンがこのまま優勝をかっさらい初代王者の称号を獲得するのか。トーナメント最大のテーマはそこにある。

 また、育ての親ジャガーがクイーンと対峙(たいじ)してみたいと考えるようになったのも、王座設立のきっかけになっている。クイーンはこのトーナメントでディアナのWWWD世界シングル王座を初奪取した梅咲遥とタッグを結成。梅咲は念願のディアナ最高峰王座にたどり着いたばかりか、他団体やほかの顔でも活躍するなど、女子プロ界の未来を担う若手のトップランナー。

 それだけに、優勝候補筆頭と考えていいだろう。一方、クイーンの首を狙うジャガーはベテランの薮下めぐみをパートナーに選んだ。クイーン&梅咲組とジャガー&薮下組。両チームが対戦するにはどちらも決勝に勝ち進む必要がある。ジャガーとしては最高の舞台で師弟対決を実現させたい思惑があるのだろう。

 クイーンのデビュー以来、両者が対戦したのはクイーンの第3戦となったディアナでのミックスドタッグマッチのみ。あのときはクイーン初のタッグマッチで、しかも男子との混合タッグ、さらには他団体参戦、そして師匠との対戦といった初めて尽くし。あらゆるプレッシャーが重なったことで、残念ながら過去2戦の衝撃とは程遠い内容になってしまったと言わざるを得ない。ジャガー自身、当時のクイーンを対戦相手として見ていなかったことも要因に挙げられる。

 しかしながら、初見からクイーンのポテンシャルを感じ取っていたのもジャガーだった。練習を任された当時をジャガーはこのように振り返る。

「クイーンは私が選んだわけではなく、女性版タイガーマスクになる選手を初代タイガーマスクの佐山先生と一緒に指導してほしいとの要望から引き受けたわけなんですが、最初から並外れた運動能力を持っているのが分かりましたね。運動神経だけでなく勘も鋭い。プロレスって身体能力が高いだけではダメだし、力が強いだけでもダメ。すべてを備えて一流になっていくもの。そのうえで今回は初代タイガーを継ぐ者を作らないといけない。となると、やっぱり最初はマネから入らざるを得ないんですよ。難しい課題ではあるんですが、彼女はいとも簡単に何でもできちゃうんです。ビックリしましたね。そういった意味では育てやすい選手ではありました。逆に欠点は何だろうと考えたくらいですし、欠点を探しました。完璧な人間っていないんだけど、彼女の場合は完璧に近かった」

タッグ王座決定トーナメント発表会見での1枚【写真:新井宏】
タッグ王座決定トーナメント発表会見での1枚【写真:新井宏】

タイガー・クイーンの伸びしろにも期待「また一皮むけると思うんです」

 佐山、ジャガー、そして本人の3人で初代タイガーマスクの再現という難題に取り組んだ。実際、動きの部分では予想以上にスムーズに進んだ。が、初代の単なるコピーではすぐ飽きられてしまうだろう。デビュー戦は大成功だったが、ここから先に本人の葛藤があった。

「いま思えば、最初の頃にはぎこちなさもあったと思いますよ。一発一発の動きはできるんだけど、それをつなげていくのにぎこちなさが感じられた。なので、初代の動きを自分なりに使いやすいようにしていく方がいいというようなことを言ったと記憶しています。プレッシャーはすごかったと思うし、実際、かわいそうでしたね。自分はSSPWのタイガー・クイーンだという意識がすごく強いので、愚痴を言ったことは一度もなかったです。それでも、入場前に不安で震えているのを見たことがあります。出たらガラッと変わるんですけど、そこは女性らしいなと思って、ちょっといじらしかったですね」

 初代タイガーの技は佐山直伝。動きに関しては、ジャガーは佐山との話し合いから本人に伝え調整していった。自身が重要視、伝えたかったのは技術面よりも、むしろ試合に臨む「イズム」だったとジャガーは言う。

「私が教えられたのは技よりもイズムですね。ストロングスタイルのイズム。もちろん初代タイガーは意識しないといけないとは思うのですが、私が伝えたイズムからタイガー・クイーンというものをもっと打ち出していけるようになれば、また一皮むけると思うんです。初代から継承した技はもうできますから、あとはタイガー・クイーンってこうなんだというものをプラスしていければ」

 このトーナメントは、自身をもっと打ち出していくための闘いにもなるのだろう。その先に、ジャガーはクイーンと対峙してみたいと願っている。師弟対決実現のためには自分たちのチームも勝ち上がらなければならない。条件は平等だ。

「(動きに関しては)なんの非の打ちどころもないからこそ、クイーンをつぶしてやりたいと思ったんですよ」とジャガー。まずはトーナメント1回戦でジャガー横田&薮下めぐみ組がダーク・パンサー&ダーク・チーター組、タイガー・クイーン&梅咲遥組が佐藤綾子&KAZUKI組と対戦する。ジャガー組の相手がクイーン狙いの覆面軍団なら、クイーン組が対するのがジャガー率いるCRYSISの別チームというのも興味深い顔合わせだ。

 現在のSSPW女子は3軍抗争が中心。それだけにタッグ王座新設は理にかなった動きと言っていいだろう。まずは将来のシングル王座新設も視野にいれながら、団体の底上げをはかる。ジャガー発案のタッグ王座決定トーナメント。無双状態のクイーンを破る選手が出てくれば、それもまたSSPW女子の活性化につながるだろう。

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