盗撮犯“私人逮捕”動画が波紋 ネット公開はやりすぎ? 投稿YouTuberに聞く意図

「盗撮の瞬間です。この男は立件されていないので今日もどこかで盗撮しているかもしれません。皆様お気をつけ下さい」。新宿駅で盗撮の現行犯とされる男性を私人逮捕する内容の動画が拡散、波紋が広がっている。投稿者は痴漢盗撮駆逐プロジェクトとして痴漢や盗撮などを取り締まる動画をYouTube上に公開しているパトロール系YouTuberのガッツ氏。痴漢や盗撮の手口、冤罪(えんざい)のリスク、検挙率の実態など、身近にあふれながらもあまり知られていない性犯罪の実情をガッツ氏に聞いた。

新宿駅で起こった盗撮犯逮捕が話題に(写真はイメージ)【写真:写真AC】
新宿駅で起こった盗撮犯逮捕が話題に(写真はイメージ)【写真:写真AC】

新宿駅で盗撮の現行犯とされる男性を私人逮捕する内容の動画が拡散

「盗撮の瞬間です。この男は立件されていないので今日もどこかで盗撮しているかもしれません。皆様お気をつけ下さい」。新宿駅で盗撮の現行犯とされる男性を私人逮捕する内容の動画が拡散、波紋が広がっている。投稿者は痴漢盗撮駆逐プロジェクトとして痴漢や盗撮などを取り締まる動画をYouTube上に公開しているパトロール系YouTuberのガッツ氏。痴漢や盗撮の手口、冤罪(えんざい)のリスク、検挙率の実態など、身近にあふれながらもあまり知られていない性犯罪の実情をガッツ氏に聞いた。

「お姉さん、お姉さん、盗撮されてます」「はい、警察行きますよ」「すみません! 通報をお願いします! 通報、盗撮です」。先月中旬にSNS上に公開された動画では、盗撮の現行犯とされる男性にガッツ氏が声をかける場面に始まり、制止を振り切り逃げる男性を追いかけ取り押さえる様子や、その後警察に引き渡すまでの一部始終が収められている。

 動画はSNS上に公開されると程なくして拡散。「犯行現場が映像で残ってれば言い逃れできない。どんどんやるべき」「こうやって世の中全体で痴漢を許さないというメッセージを発していけば被害を減らせる」という賛同や「盗撮は許されないけど犯人にも人権がある。ネットで公開するのはやりすぎ」「もし冤罪だったら大変なことになる」という慎重論など、賛否両論を呼んでいる。

 投稿者のガッツ氏は、「人の役に立つ仕事をしたい」と今年2月から痴漢・盗撮撲滅をコンテンツとしたパトロール系YouTuberの活動を開始。駅や電車内を巡回し、2か月あまりで50件を超える痴漢や盗撮の現場に介入している。

「件数が多いのは、単にパトロールの時間が長いからと、常習犯の挙動が分かってきたから。被害が多いと言われる駅や路線を中心に1日8時間以上パトロールして不審な人をマークし、犯行の瞬間をカメラで抑えて、現行犯で警察まで連れていき刑事手続きを行うところまでやっています。もちろん1日回って見つからない日もありますが、満員電車ではその車両の中で必ず起こっていると断言できるほど、痴漢や盗撮はありふれている。中には痴漢用語で『囲み』といって、満員電車で集団で1人の女性を取り囲んで、助けを呼べないようにして行為に及ぶ……そんなことが現実に行われています」

介入し犯人を警察まで引き渡した50件のうち、立件まで進んだのは8件のみ

 介入した現場ではほぼ全員を警察に引き渡しているが、立件まで進んだのは50件のうち8件のみ。うち6件が物的証拠のある盗撮で、痴漢の立件はわずか2件に留まるという。冒頭の新宿駅での盗撮も、最終的には物的証拠や犯人の自供もあったが、結局立件には至らなかった。被害女性が時間や手間などの負担が大きい刑事手続きへの同行を拒むことが多く、犯人が野放しとなっているケースも多いのが実情だという。

「痴漢や盗撮は迷惑防止条例違反や強制わいせつにあたり、本来は非親告罪で被害届がなくても立件ができるのですが、発生件数が多く手続きが煩雑なため、警察も被害届のある事件を優先せざるを得ない。被害女性がもっと声をあげるべき、という見方もありますが、それは被害者に強要すべきことでもありません。現実問題として、仕事や学校があるなか何時間も調書につきあえるのか。被害者への捜査協力、刑事手続きのハードルの高さが、痴漢や盗撮の被害が減らない一因であることは間違いありません」

 ガッツ氏のようなパトロール系のコンテンツには賛否両論あり、YouTube上で公開する動画では、相手の顔や声には加工を施し、特定ができないよう一応の配慮も行っている。本来は警察が主体となって積極的に捜査し、厳罰を与えるのが理想だが、なかなかそうなっていないのが現状だとガッツ氏は言う。

「女性から『ここで被害に遭いました』という情報提供や、男性から『自分も協力したい』という声をいただくことも多く、新宿や池袋など大きい駅の駅員や警察官には顔なじみの人も増えてきました。一方で批判の声も多いですが、自分の動画では冤罪は100%ないと断言できます。モザイクはYouTubeの規約に引っかかるのと、名誉毀損(めいよきそん)に問われる可能性があるのでかけていますが、被害者は許可なくプライベートな場所まで撮影されている。本来はすべて公開されてしかるべきだと考えています」

 痴漢や盗撮の被害をなくすためには何が必要なのだろうか。ガッツ氏は立件に関わる法改正、鉄道会社による環境整備、社会の関心を高めることの3点を挙げる。

「まずは何よりも、刑事手続きの簡略化と厳罰化です。次に、鉄道会社も女性専用車両だけでなく、男性専用車両、家族連れなどのための共用車両を設け、風呂やトイレと同じように男女で完全に分けることを基本とすべきです。その上で、見て見ぬふりをする人をなくし、男性の協力者を増やすこと。ネット上では『痴漢なんてほとんど冤罪』『痴漢扱いされた時点で人生おしまい』『どうせ捕まるなら殴ってでも逃げたほうがマシ』など、間違ったイメージばかりが広がっている。自分の活動を通して痴漢・盗撮を許さないというメッセージを発信していきたいと思っています」

 長く社会問題とされてきながら、一向に抜本的な対策が講じられていない痴漢・盗撮被害。加害者を許さず、被害者を泣き寝入りさせないための具体的な取り組みが求められている。

次のページへ (2/2) 【動画】波紋が広がっている新宿駅での“私人逮捕”動画
1 2
あなたの“気になる”を教えてください