個性的な「声」認めてくれた 友の言葉が転機に 心を閉ざしていた経験は、大観衆に支持される歌詞に

4人組ロックバンド、フレデリックが、昨年9月から続けている全国ツアー中に制作したミニアルバム『優游涵泳(ゆうゆうかんえい)回遊録』を2月22日にリリースした。初回限定盤には、昨年6月に東京・代々木で行ったバンド史上最大規模のワンマンライブで披露したアンコール含めた全18曲をまとめた映像も収録。代々木のステージで自身が過去に抱えていた“痛み”を明かしたボーカル・ギターの三原健司に新作と、初めて弱音を告白した背景について聞いた。

「フレデリック」ボーカル・ギターの三原健司(左から2番目)
「フレデリック」ボーカル・ギターの三原健司(左から2番目)

「僕らの音楽を居場所と思って」 最新作を22日にリリース

 4人組ロックバンド、フレデリックが、昨年9月から続けている全国ツアー中に制作したミニアルバム『優游涵泳(ゆうゆうかんえい)回遊録』を2月22日にリリースした。初回限定盤には、昨年6月に東京・代々木で行ったバンド史上最大規模のワンマンライブで披露したアンコール含めた全18曲をまとめた映像も収録。代々木のステージで自身が過去に抱えていた“痛み”を明かしたボーカル・ギターの三原健司に新作と、初めて弱音を告白した背景について聞いた。(取材・文=西村綾乃)

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 昨年9月に幕を開けた全国ツアー「FREDERHYTHM TOUR 2022-2023~ミュージックジャーニー~」は、バンドが誕生した神戸(兵庫県)や京都、北海道など28公演を終え、3月10日のオリックス劇場(大阪市西区)、同月29日のNHKホール(東京都渋谷区)を残すのみ。新作に収録した7曲は、この旅の最中に制作したという。

「作品のテーマが『旅』だったので、ツアーで旅をする中で目にした景色や、夜中に車で移動するときに生まれた曲。あとは、1コーラスだけ出来ていて、ライブで披露しながら成長して行った曲もあります。オリジナル曲を持っていなかった昔の自分たちだったら、曲をかけらの状態で見せるなんて、やっちゃいけないことだと思っていましたけど、出来上がっていく過程も楽しんでほしいなって。ライブでは『まだ未完成だけど、新しい作り方だから聴いて』って説明して、『面白そうなことやっているな』っていう顔で見てくれていたので、ミニアルバムを聴いて答え合わせをしてほしいです」

『♪はなれられないの』というフレーズから膨らませた曲は、『虜』という楽曲に成長した。2020年にリリースしたEP『ASOVIVA』以降は、コロナ禍でリモートでのやり取りが中心だったが、全国を巡りリスナーの反応を確かめながら続けた制作は、自分たちの殻を破ることにもつながった。

「ライブの延期や中止が相次いだコロナ禍は、閉じて行く社会を見つめながら『マイナスをプラスにとらえることで、乗り越えよう』とメンバーと話し合いました。逆境を乗り越え、同じ方向を向けるようになったことで成長できたと感じています。今回の制作は、聴いてくれるお客さんの様子をステージで見ることが出来たので、歌詞の表現についても追求することが出来ました」

 ミニアルバムの冒頭を飾る『MYSTERY JOURNEY』は、「いまのフレデリックに必要な曲」と思いを込める。

「『♪退屈がくたばる歌』という歌詞は、考えに考えて使おうと決めた言葉。人によっては、ネガティブな印象を持つ強い言葉だから。この表現を持って来ても、大丈夫と思えたのは(歌詞を書いた、ベースで弟の)康司が、ライブで聴いてくれる人の存在をはっきり確認することができたから。コロナ禍のときのように人を見ないで歌詞を書いていたら、もっと丸い表現にしていたと思うけれど、顔を見ながら作っていたことで、この言葉を持って来ても聴き手がギョッとしないと自信を持つことが出来た。(弟の)康司とお客さんの距離が近くなったなと感じました」

 浮遊感ある『FEB』は、声で季節感を出したいと試行錯誤した。白い息で曇った窓ガラスの情景が浮かぶ繊細な表現に驚かされる。

「まだ寒い2月の空の中に、ほがらかな太陽が上がっていく様子を声で表現したいと探っていきました。地声が8割、ファルセット(裏声)が2割くらい。うまく歌うだけではダメで、吸い込む空気の冷たさも感じてもらうためには、どうしたら良いのか考えました。ヒントにしたのは光。その感覚を見つけるまで苦労しました」

 SE(音楽効果)も駆使し、誕生月でもある大好きな2月を声で表現したいと苦心した三原。伸びやかで力強く、ときに色気もある唯一無二の歌声は、バンドの魅力のひとつでもあるが、コンプレックスに思っていた時期があったと振り返る。

三原健司
三原健司

心を閉ざしていた経験が大観衆に支持される歌詞に

「中学時代は、身体が小さくて声もキンキンしました。『強くなりたい』と思っていたけど、自分が考える理想の真逆にいました。部活は陸上部に所属していましたが、高跳びも短距離もそつなくこなせるけれど県大会に選ばれるほどじゃなかった。抜きんでるような才能はなく、何が得意なのか分からずにいました。上級生の女の子から高い声を笑われて、情けない気持ちでいっぱいだったとき、カラオケでポルノグラフィティを歌ったら『うまいじゃん!』って友だちがほめてくれた。自分がマイナスに思っていた部分を認められたことは大きな自信になりました。この一言で『プロになる!』と決めたんです」

 高校卒業後は音楽の専門学校に進み、技術を磨いた。双子の弟・康司は、芸学系の大学に進学。違う道を選び、最も離れていたという2年間を経て、将来を模索した2009年6月に「フレデリック」を結成した。14年9月にミニアルバム『oddloop』でメジャーデビュー。中毒性のある楽曲がリスナーの心をとらえ、同ミニアルバムに収録した『オドループ』のミュージックビデオは、配信から7年後に累計再生回数が1億を突破。現在もその数を伸ばし続けている。

 順風満帆に見えるが、デビュー2年目の2016年、三原は大きな壁にぶち当たっていたと明かす。

「デビューをして、もう一皮むけないといけないと感じていたけれど、変わることが怖くて殻に閉じこもっていました。歌い方を変えて『粗削りでも、昔のままの方が良かった』とか言われることが怖かった」

 1枚目のフルアルバム『フレデリズム』(16年)に収録した『ナイトステップ』は転機になった曲。『♪スーツを脱ぎ捨てるんだ紳士』という歌詞を歌いながら、「自分を動けなくしている思い込みは『捨ててしまって良いんだ』と自分自身に言い聞かせていた」と語った。

 力強い歌声で聴き手を鼓舞する三原だが、迷うことも悩むこともあった。22年6月29日に東京・国立代々木競技場第一体育館で行ったライブ「FREDERHYTHM ARENA 2022 ~ミュージックジャンキー~」では、抱えていたコンプレックスをファンに告白する時間があった。

「ファンに自分の弱みを見せたのは初めてでした。誰でも内緒にしておきたい闇はあるもの。自分だけかもって思いがちだし、それが自分を苦しくしてしまう。オレの場合は、声を認めてくれた中学の同級生がいて自分の道を決めることができたし、バンドを始めた後に『フレデリックは声が好かん』と言われたときも、『オレの声が必要だ』と言葉や行動、鳴らす音で示してくれたメンバーがいて乗り越えることができた自分のカッコ悪いことをさらけ出すことで、認め合うことの大事さを知ってほしかった」

 大観衆を前に堂々としたパフォーマンスを見せるフロントマンが初めて見せた弱音。4人の絆を感じさせるエピソードに、客席には涙を見せるファンの姿もあった。

「来てくれた人にとってフレデリックが、居場所だと感じてほしいと思って話をしました。個性に悩まされたけれど、その個性に助けられていまがある。一番悩んでいたときの、痛みが分かるから、いま痛い気持ちを抱えている人に曲を届けたい。曲を送り出すときは、つらい思いをしていた自分のことを思い出して『大丈夫か? この曲かっこ悪くないか?』と問いかけています」

 24歳でデビューし、今年33歳になった。9月にはデビュー9年目を迎える。

「10代でデビューするバンドも多いですし、そういうアーティストたちに対して先輩面をすることだってできます。でも僕らはそうじゃなくて、新しい才能に気付いたら、相手が幾つでも嫉妬できるようなギラギラしたバンドでいたい。コロナ禍を経て、1本1本のライブの大切さを思い知らされましたし、毎回『今日が最後だ』という気持ちで『今日が1番最高だった』と思えるようなライブをしたいと(ステージに)向かっています。ライブに来てくれる“みんな”じゃなくて、一人一人に歌を届けていきたい」

□フレデリック 三原健司(ボーカル・ギター)、三原康司(ベース・ボーカル)、赤頭隆児(ギター)、高橋武(ドラム)の4人組。 代表曲『オドループ』のミュージックビデオは1億2千万回の再生回数を記録。2021年には歌手の和田アキ子に『YONA YONA DANCE』を楽曲提供するなど豊かな才能を見せている。最新ミニアルバムに収録した『スパークルダンサー』は、歌舞伎役者の中村獅童や俳優の神尾楓珠らが出演するボートレース2023年のCMシリーズ『アイ アム ア ボートレーサー』の主題歌として年明けから起用されている。

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