自宅が美容室に…高齢者だけでない需要 不登校、精神疾患「外出増えた」 業者にやりがい

美容師を自宅や指定の場所に呼び、髪をカットしてもらう訪問美容が注目を集めている。利用者にとっては自宅にいながら散髪や洗髪などのサービスを受けることができるため、美容室や理髪店に足を運ぶ必要がない。コロナ禍で需要が拡大しているが、一方で、サービスを提供する側は意外な働きがいも見いだしている。

高齢者の自宅で髪を洗う門脇直也さん【写真:本人提供】
高齢者の自宅で髪を洗う門脇直也さん【写真:本人提供】

自宅で髪をカット 訪問美容の実態と仕事としてのやりがい

 美容師を自宅や指定の場所に呼び、髪をカットしてもらう訪問美容が注目を集めている。利用者にとっては自宅にいながら散髪や洗髪などのサービスを受けることができるため、美容室や理髪店に足を運ぶ必要がない。コロナ禍で需要が拡大しているが、一方で、サービスを提供する側は意外な働きがいも見いだしている。(取材・文=水沼一夫)

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「この仕事を始めるとき、一応介護の資格を取得しているんです。ご高齢の方がメインだと思っていたんですけど、いざ始めてみると、ご高齢の方のほかにも、妊婦さんだったり、けがされちゃった方、精神疾患や不登校の子とか、僕が思っていたよりも幅広いお客さんの層があるなというのは思いましたね」

 2020年に訪問美容に参入したyouth has no age.の門脇直也さんは、率直な驚きを口にした。

 月に40~50軒を回る。20歳のときから美容師をしており、師匠の病気もあって20年に独立した。キャリアは9年目。偶然コロナ発生の時期と重なり、先行きは不透明だったが、予想以上の反響があったという。

「コロナ以前のことは正直分からないんですけど、一応新事業として始めたものなんです。僕の中では3年とかで結果が出るのかなと思ったんですけど、始めて数か月でどんどん申し込みをいただけるようになった。やっぱり無理してお店に行かなくていいんだという部分と、1回店が密になるってフューチャーされたことがあるんですね。それもあって、ハードルが低くなったというか、ご予約とかお問い合わせをいただけるケースが増えた傾向にあります」

 実際に訪問するのは門脇さん1人。マスク、消毒のほか、希望があればフェースシールドも着用する。用意してもらうのは、コンセントと洗髪用のお湯だけ。カラーやパーマも対応している。カットだけの場合は、場所を選ばず、玄関やベランダも可能だ。

「専用のいすがあるんですよ。リクライニングするとシャンプー台になる。その空間だけ美容室にします。僕の荷物が大きいので家の造りによってはなかなか入りづらかったりするので、玄関先でということもありますし、コンセントがあって、例えば2畳分ぐらいのスペースがあれば、お客さんが指定されたところでやります」。和室でもシャンプーを始め美容院さながらのサービスを提供している。

“幅広い客層”からは、感謝の言葉が尽きない。それが、門脇さんにとっても新たなモチベーションにつながっている。

「やりがいが一番あるなと思うのが、例えば不登校の方も施術が終わった後、次の日とかに外出が増えるらしいんです。その声がすごくうれしいですよね。ご高齢の方も足が不自由になってきて自宅にこもりがちになっちゃうんですけど、きれいになれたということで、買い物でも行こうかとか、ご家族との接触が増える。それが一番手応えとしてはあるかなと思います。ただ髪を切る、お金をいただいて施術するだけじゃなくて、その一歩二歩先が見えてくるようになったなと思いますね」

 それは、訪問美容を始める前は全く予期しないものだった。

「現代病かもしれないですけど、うつ病とかパニック障害って結構聞くじゃないですか。急に発作が起きてしまうけど、自宅に来てくれたらパニックの発作が起きないというお声をいただいて。そういうパニック障害とか精神障がいを抱えている方に対する施術がすごく印象に残っています」

掲げるのは「輪」を作ること 家族の笑顔が広がるきっかけに

 実際、ネット上でも門脇さんのサービスの利用者から口コミによる称賛が並ぶ。

「パニック障害で、美容室に行けず困っていた所でしたが、快く承諾して頂きました」「アトピー性皮膚炎が悪化して、美容室に行けなかったのですが、丁寧にカットしていただき、さっぱりすることができました」「ワンルームでとても狭い中、椅子まで持ってきて頂き涙が出そうでした」「発達障害で強迫性障害持ちの息子が自分で切って失敗した髪を修復していただきました」「何より素晴らしいお人柄に母も私も大ファンになってしまいました」「3ヶ月に及ぶ入院・手術からの退院で身体が思うように動かない中での対応は、気持ち的にも軽やかになりました」

 門脇さんは、たった1人の仕事にもかかわらず、11月に行われた「くらしのマーケットアワード2022」で賞を獲得。それはネット上の口コミに押された形だった。

 訪問美容で特に意識していることがある。

「僕が掲げているのが、輪を作りたいということです。僕がまず施術で呼んでもらって、ご高齢の方だったらその方を施術で楽しく笑顔になってもらう。それを見てご家族が笑顔になってもらう。僕もそれを見てうれしい。そういう笑顔の循環を一番目指していて、それがやっていくにつれて実現できているなというのはありますね」

 東京全域に千葉や埼玉、神奈川の一部にも足を伸ばす。移動範囲を広く取っているのも理由があるという。

「このサービスはまだまだ認知度が低くて、もっと早く知っておけばよかったとか、あとは知っていても(範囲的に)来てくれないというパターンがあります。金額はこれ以上じゃないと、みたいなのも結構あるみたいで、範囲を広くすることによって、そういう方たちの問題を解消できるのかなと思っています」

 料金はカットで5000円と、決して高額ではない。

 門脇さんが訪問美容を始めたきっかけは、20歳のとき、最初に勤めた美容室にあった。老舗ゆえに、「高齢の方と接することが多かったので、すごくかわいがってもらえていたんです」。仕事を学ばせてもらうだけではなく、時に粋のいいサービスを逆に受けることも。「恩返しじゃないですけど、今まで支えてきてくれた人たちにできるだけ何か施術で応えたい」。足腰が悪くなっても、美容というサービスを求める高齢者がいる。そんな気持ちにより身近な形で、応えようと決意した。今は、さまざまな理由で外に出られない人の課題にも寄り添っている。

限られた施術時間の有効活用 一段上のサービス提供を検討

 今後について聞くと、思い描いていることがあるという。

「介護業界は保険制度があって、保険の適用外のサービスが僕らのサービスなんですけど、やっぱり限られた時間だと思うんです。施術だけじゃなくて、それより上のもの、例えば気分を上げることだったりとか、ちょっとしたお手伝いだったりとか、そういったものを少しずつできたらなと。あとはもうちょっとアンテナを伸ばして、介護業界のニュースじゃないですけど、そういったものを収集して、僕がこう発信して、そういうのもあるんだよねという状況を作っていきたいなと思います」

 門脇さんは現在、認知症ケアの資格を取得中。これも、美容から一歩踏み出したサービスの拡充を見据えてのものだ。

「いただく料金を増やすというわけではないですけど、今まで以上に満足していただける状況を作りたい。介護は調べたり、聞いたりしないと出てこない情報がたくさんある。でも、なかなか見つけられないこともあって、それを美容の施術をしている最中に情報提供できたら一石二鳥、三鳥になると思うんです。それこそ先に言った輪のことで、お客さんには施術をご提供、ご家族には情報の提供。そうすると肩の荷がもっともっと降りてきて、ご家族での時間もよりハッピーになれるんじゃないかと思います」と結んだ。

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