【映画とプロレス #10】映画主題歌からプロレス入場曲になった「スカイ・ハイ」は失恋ソングだった(後編)

映画「スカイ・ハイ」/(C) 2010 Fortune Star Media Limited. All Rights Reserved.
映画「スカイ・ハイ」/(C) 2010 Fortune Star Media Limited. All Rights Reserved.

「スカイ・ハイ」のメロディと歌詞のギャップ

 劇中で2度流れる「スカイ・ハイ」。スケールの大きいドラマチックな曲調で、さぞかし勇ましい歌詞なのかと思いきや、“真相”を知るとあまりの落差に驚愕する。

「僕は君にすべてを捧げたんだ。天にも昇る気持ちだったのに。だけど君の嘘によって、僕の心は粉々に打ち砕かれてしまったのさ」

 この曲の“主人公”は、なんとガールフレンドにフラれていたのである。「スカイ・ハイ」とは失恋を歌った曲だった。大空で優雅に羽ばたくのではなく、彼のハートが大空で無残にも砕け散ってしまったのである。

 映画でもプロレスでも、「スカイ・ハイ」は雄大なイメージで使われている。しかし実際の歌詞は正反対。マスカラスは歌詞を理解こそしているだろうが、母国語がスペイン語のメキシコ人だったから良かったのだろう。マスカラスが失恋した男には見えないし、「スカイ・ハイ」のアップテンポなメロディが彼の若々しさに一役買っていると思いたい。

 この曲を書いたのは、クライブ・スコット(ボーカル、キーボード)とデス・ダイヤー(ボーカル、ドラムス)だ。バンドは英国コベントリーで結成され、68年にデビュー。「スカイ・ハイ」は75年に誕生し、日本でマスカラスの入場テーマ曲に採用されると、大ヒット。世界的にもヒットしたが日本はまた特別で、その後、野球選手の登場時やCMにも使われるようになる。カバーも多く、すべてはマスカラスの影響と言っても過言ではないだろう。

 81年に解散したジグソーにはワンヒットワンダー(一発屋)のイメージがあるものの、実際には9枚のアルバムを発表している。解散後、スコットはプロデューサーのイアン・レヴィーンと組んで、ニッキー・フレンチ、バッド・ボーイズ・インク、ボーイゾーンら多くのアーティストに楽曲を提供した。しかし09年5月、事故により64歳の若さで亡くなった。それでも「スカイ・ハイ」はマスカラスとともに永遠の輝きを放ち続ける。個人的には、映画で流れるシーンもBGM代わりのヘビーローテーション。70年代アジア映画特有のダサカッコよさがまた、大きな魅力にもなっている。ジグソーが生んだ「スカイ・ハイ」には楽曲の良さ以外にも、“映画とプロレス”、2つの楽しみ方があるのだ。
(文中敬称略)

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