無観客試合だからこそできた試合の数々 WWEの底力を見せつけた2日間の「レッスルマニア」

無観客だからできた試合形式が展開された今年のレッスルマニア/(C)2020 WWE, Inc. All Rights Reserved.
無観客だからできた試合形式が展開された今年のレッスルマニア/(C)2020 WWE, Inc. All Rights Reserved.

無観客試合を逆手に取った試合形式が行われる

 14年4・6「WM30」、ワイアットはシーナとの一騎打ちに敗れた。当時のワイアットはカルト集団ワイアット・ファミリーの教祖として君臨、異彩を放ちまくっていた。ワイアットは祖父にブラックジャック・マリガン、父に“IRS”マイク・ロトンドを持つレスリング一家の出身で、WWEにはハスキー・ハリスのリングネームで初期NXTに登場した。当時のNXTは現在とは違い新人育成番組。その2期生として一軍昇格をめざしていたのである。

 血統からは考えられない怪奇派と化したワイアットは、WWE昇格後、何度もシーナとの抗争を展開。その中で代表的なのが、「WM30」での対戦だった。結果的にワイアットはシーナに敗れたまま抗争を終えたイメージがある。そんな過去を払拭するため、悪霊の力を借りたワイアットがシーナへの復讐に打って出たのだろう。

 試合がスタートするや、シーナはリング上ではなく、いつの間にかファンハウスの部屋にいることに気づく。するとビンス・マクマホンらしきパペットや、カート・アングル、ハルク・ホーガン、WCWのエリック・ビショフらの幻(?)が次々登場。ワイアットも過去から現在に移行し、シーナ自身の過去もフラッシュバック。シーナはワイアットの世界に翻弄されるばかりである。そして背後から現われた“ザ・フィーンド”。悪霊はシスター・アビゲイルからのマンディブルクローを決め、シーナからのフォール勝ちをゲットした。カバーしたのが“ザ・フィーンド”のワイアットで、3カウントをいれたのはファンハウスの住人ワイアットだった。映像が場内に切り替わると、唖然とした表情のタイタス・オニールの姿があった。「私はいま、いったいなにを見たのでしょうか…」。タイタスは、NXTシーズン2の出身、ワイアットの同期である。

 完全ピンフォールで6年前の雪辱を果たしたワイアット。とはいえ、これがシーナにとって1年3か月ぶりの試合として記録されるべきなのか。その是非は、自身の目で判断していただきたい。それにしても、完敗を喫したシーナの立場は、これからいったいどうなるのだろう。“現住所”の映画界では彼の出演作も公開が軒並み延期されている。今後の撮影も延期は避けられない情勢だ。

 2日間にわたり無観客でおこなわれた前代未聞の「WM36」。シーナ VS ワイアットを筆頭に、ジ・アンダーテイカー VS AJスタイルズのボーンヤードマッチ、エッジ VS ランディ・オートンのラストマンスタンディングマッチは無観客ならではの特異性を最大限に活かした試合形式だった。ボーンヤード戦は墓場を舞台にしたホラースペクタクル。これはこれで立派な大規模短編映画だ。ラストマンスタンディング戦はエニウェアルールを利用したパフォーマンスセンターツアーになっていた。リングを飛び出しトレーニングジム、プロダクションスタジオ、オフィス、倉庫に至るまで、滅多に見ることのできない施設の内部が2人の戦いによって案内されたのだ。

 そして2日間のメインを締めたのはWWE王座戦、ブロック・レスナー VS ドリュー・マッキンタイアの真っ向勝負だった。1・26「ロイヤルランブル」、難攻不落のレスナーを蹴落とし快進撃をストップさせたマッキンタイアの勢いはホンモノだった。得意のクレイモア(ランニング・ワンレッグ・ドロップキック)で先手を取ったマッキンタイアは、2発目をかわされジャーマンとF5を3連発ずつ食らうも、ここをしのぐとクレイモア3連打。すべてを顔面にクリーンヒットさせたことが功を奏したか、レスナーは返せず。スコットランドのインディー団体からのし上がったマッキンタイアが、悲願のWWE王座取りをついに現実のものとしたのである。この結果、昨年のベッキー・リンチ(アイルランド)、につづき2年連続で欧州勢が「WM」のメインを締めくくったことになる。ベッキーは1年間ベルトを守り抜いている現王者だが、ここから始まるマッキンタイアのストーリーはどう展開されるのか。エンディングではコーナーに上がり堂々と勝利をアピール。こんどは超満員の大観衆が見守るいつもの状態で、この光景を見たいものである。

 そして翌日、なにかが起こる「WM」直後の4・6ロウではビッグショーが久々に登場、新王者を挑発し、初防衛戦の相手に名乗りを挙げた。それでもマッキンタイアは前日の勢いそのままに、大巨人をクレイモアからピンフォールしてみせる快勝。レスナー、ビッグショーという超大型スーパースターの連破はより大きな自信を植え付けたのではなかろうか。スコットランドからつかんだアメリカンドリーム。WWEに新時代が到来する!(日付はすべて現地時間)

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