西川貴教、地元・滋賀でフェスを続ける理由 最愛の母の死で「辞めようと思った」過去

アーティストの西川貴教(51)が主催する大型ロックフェス「イナズマロックフェス 2022」が9月17~19日に、烏丸半島芝生広場(滋賀県草津市)で行われる。コロナ禍で3年ぶりとなる有観客でのフェスが目前だが、ENCOUNTが行ったインタビューで西川は最愛の母を亡くした翌年に、「辞めようと思っていた」と吐露。行政や地域住民と手を取り合い、14回目となった現在は「母という大切な存在を亡くしたけれど、140万人(滋賀県民数)の家族を手に入れたと感じています」と凱旋公演を心待ちにしている。

地元・滋賀でフェスを続ける理由を語る西川貴教【写真:ENCOUNT編集部】
地元・滋賀でフェスを続ける理由を語る西川貴教【写真:ENCOUNT編集部】

4年目までは赤字だったフェス「今は140万人の滋賀県民が家族」と笑み

 アーティストの西川貴教(51)が主催する大型ロックフェス「イナズマロックフェス 2022」が9月17~19日に、烏丸半島芝生広場(滋賀県草津市)で行われる。コロナ禍で3年ぶりとなる有観客でのフェスが目前だが、ENCOUNTが行ったインタビューで西川は最愛の母を亡くした翌年に、「辞めようと思っていた」と吐露。行政や地域住民と手を取り合い、14回目となった現在は「母という大切な存在を亡くしたけれど、140万人(滋賀県民数)の家族を手に入れたと感じています」と凱旋公演を心待ちにしている。(取材・文=西村綾乃)

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 2008年に地元・滋賀県から初代のふるさと観光大使に任命された西川。「地域活性化になれば」と翌年にフェスをスタートした。

「観光大使として『できるだけ早く動きたい』と考えましたが、準備期間は半年だけ。背伸びしても仕方がない。手が届く範囲で出来ることを考えた時、僕が続けている音楽で地元に貢献できればと発案しました。第1回目は滋賀県が全面的にバックアップをして下さいましたが、最初の4年間は赤字でした。僕は自分で会社を経営しているので、スタッフの生活を支えていかなくてはいけません。そして興行として地元の経済や地域の人たちに利益を還元していきたい。でも一朝一夕にはいかず。4年目までは、僕の会社が100パーセント出資をしていました」

 気持ちで何とかなるのは数年。ビジネスとして仕組みを確立しなければ継続できないと頭を悩ませた。華やかなステージに立つ裏で、「毎年、銀行とにらみ合っていた」と明かす。

「『滋賀の人間が地元でライブをして帰る』のではなく、地域のみなさんの中に入っていくことを心がけました。最初は『(フェスの会場がある)最寄りの駅に道路渋滞起きるのでは』、『たくさんの人が来て、出たゴミはどうするの』、『ライブって音がうるさいんでしょう』など、寄せられた声をひとつひとつ解決していきました。お互いに初めてのことですから、歩み寄りが必要ですよね」

 駆け抜けてきた14年の間には、台風などもあった。「心が折れそうになったことは何度もある」と本音を打ち明ける。

「振り返ったらそんなことばかり。東日本大震災が発生した2011年は、被災した方々など、危機的な状況に置かれている人がいらっしゃる中で、スポーツや音楽がどのように寄り添うことができるのかを考えました。そして20年には新型コロナウイルスの感染拡大がありました。これはもう手も足も出ない状況でした」

 20年はオンラインを活用。昨年は中止を決断した。今年は3年ぶりに有観客での開催が実現しようとしているが、1度だけ「辞めよう」と思ったことがあった。

「2017年に母が亡くなり、10年目を迎えた18年。『もう良いかな』と区切りをつけることが頭に浮かびました。最初にお話をした通り、僕ができることで地元に貢献したいという思いと、あともうひとつ。09年に体調を崩して入院した母親に会うために『地元に帰る理由』を作りたかったんです。母を亡くした10年目はもう燃え尽きてしまっていて。『もう(辞めても)良いんじゃないかな』という考えが頭をよぎりました」

「燃え尽きた」と振り返る西川の支えになったのは、帰りを待っていてくれた地元の人たちだったという。

「僕が帰ると、『おかえり』、『頑張って』と声を掛けてくださる方が増えていったんです。フェスを始めたころは、今のように応援してくれる人ができるなんて想像もしていませんでした。でもいまは、我がことのように考えて行動してくださる方がいる。そう感じたとき、『(フェスが)もう自分だけのものじゃないんだ』と思いました。母という大切な存在を亡くしたけれど、今の僕にとっては140万人の滋賀県民が家族です」

 3月から無料のBS放送局「BSJapanext」でスタートした情報番組「西川貴教のバーチャル知事」(毎週月曜、午後9時)では滋賀県にフォーカスを当て、抱えている課題を議論している。バーチャル知事として提案するアイデアは、机上のものではなく、フェスを通じて見聞きした説得力のあるものだ。

「今年は選挙があったので行われなかったのですが、選挙がない年には琵琶湖の清掃にも参加をさせていただいています。地域の人と一緒に汗をかいたからこそ見えること、感じられることがあるんです」

 スポットライトが当たらない活動に参加するその背中を、後輩たちも見詰めている。春のセンバツでは準優勝。今夏の全国高校野球甲子園ではベスト4を手にした近江高校の吹奏楽部員は、春夏の大会で西川のヒット曲「HOT LIMIT」を演奏しナインを鼓舞。全国から注目された。

「曲をリリースした1998年には、生まれていない子たちが演奏してくれていると思うと、本当に感慨深くてうれしかったです。僕の音楽がこういう形で誰かに寄り添うことができるのかと、胸が熱くなりました。芸人のミルクボーイが『特徴ないのが滋賀の特徴』とネタにしているなど、地味なイメージがあると思うのですが、もうそろそろ滋賀県が表舞台に立っても良いはず。未来を創っていく子どもたちが誇れるように。『びわ湖大花火大会』のように愛されるフェスに成長し、地元を盛り上げて行きたい」

□西川貴教(にしかわ・たかのり)1970年9月19日、滋賀県生まれ。96年にT.M.Revolutionとして活動をスタート。97年にリリースしたシングル「WHITE BREATH」は、自身初のミリオン突破作。ほか「HIGH PRESSURE」、「HOT LIMIT」などのヒット曲を持つ。2018年からは、西川貴教名義でも活動。俳優としての代表作はNHK連続テレビ小説「スカーレット」など。声優、ラジオパーソナリティー、MCなど多彩に活躍している。08年に故郷である滋賀県から、初代「滋賀ふるさと観光大使」に任命され、翌年から同県で初めてとなる大型野外ロックフェス「イナズマロック フェス」を主催。20年度の滋賀県文化功労賞受賞した。

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