間宮祥太朗が挑んだ60年ぶり映像化「破戒」 30歳目前で挑んだ難役、部落差別への思い

島崎藤村が32歳のとき(1904年)に執筆にとりかかった小説「破戒」が60年ぶりに映画化された。被差別部落出身の小学校教員・瀬川丑松を演じるのは俳優の間宮祥太朗(29)。メガホンを取った前田和男監督は「間宮さん一本押しでした」と力を込める。決め手はその「美しさ」で、京都でのクランクイン当日から、明治時代を生きる人間と言う佇まいがあったと語る。差別に目を向け続けてきた前田監督のインタビュー後、日本外国特派員協会の会見に登壇した間宮にも話を聞いた。

映画「破戒」で主演を務める間宮祥太朗(左)と前田和男監督【写真:ENCOUNT編集部】
映画「破戒」で主演を務める間宮祥太朗(左)と前田和男監督【写真:ENCOUNT編集部】

前田和男監督との対談で見えた役作りへの思い

 島崎藤村が32歳のとき(1904年)に執筆にとりかかった小説「破戒」が60年ぶりに映画化された。被差別部落出身の小学校教員・瀬川丑松を演じるのは俳優の間宮祥太朗(29)。メガホンを取った前田和男監督は「間宮さん一本押しでした」と力を込める。決め手はその「美しさ」で、京都でのクランクイン当日から、明治時代を生きる人間と言う佇まいがあったと語る。差別に目を向け続けてきた前田監督のインタビュー後、日本外国特派員協会の会見に登壇した間宮にも話を聞いた。(取材・文=西村綾乃)

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 映画は被差別部落出身の小学校教員が、出自を隠すことに悩みながらも、下宿先で出会った士族の女性・志保(石井杏奈)に恋心を抱く物語。1948年に木下惠介監督、62年に市川崑監督がメガホンを取っており、今作は3度目の映画化になる。

前田「私はこれまでも人権や差別をテーマにした教育映画を手掛けてきました。『破戒』の映画化は、部落差別解放のために1922年に結成された団体『全国水平社』が、2022年に創立100周年を迎えることを記念した作品を作りたいと依頼をされたことがきっかけでした。映画化する中で知人から、『破戒ですか?』と声を落として聞かれたことがあって。部落差別を取り上げるということは、まだタブー感が強いのだなと言う印象がありました」

 原作を脚本化していく中では、その言葉遣いにも気を配ったという。

前田「穢多(えた)という言葉を使うかも悩みましたが、置き換えてしまうと意味が分からなくなるのであえて使いました。当時の差別の厳しさを表現するためです。作品の中では、身分を表すために使うのではなく、いかに差別が人を傷つけるのかということを分かりやすく伝えるために使っています」

間宮「お話をいただいて原作を読んだときは、その日本語の美しい響きに驚きました。台本のセリフもとても美しくて、自分が口にする時はその美しさを失わないように心がけました」

 美しさと共に欠かせなかったのは、間宮の中ににじむ孤独だった。

前田「間宮さんには美しさと、それをかたどってる寂しさみたいなものがあります。それが丑松のキャラクターと作品全体のキートーンとして深みを与えている」

間宮「監督と最初にお会いしたとき、レオス・カラックスの『ホーリー・モーターズ』(2013)の話をしました。『ホーリー・モーターズ』に登場するキャラクターは、それぞれが仮面を被っていて、真実を隠しているんです。丑松も、父親からもらった(素性を明かすなと言う)仮面を被って生きているというところがリンクしている。『美しいから』というのは後から聞きました」とはにかんだ。

 藤村が筆を取った明治から、令和へと時代は変わったが「差別」についての根本は変わらないと口をそろえる。

前田「差別は人間が持っている毒性のようなもの。LGBTなど少しずつ公表しても受け入れられる状況になりましたが、自分と違う属性のという人を抑圧する言動はずっとあります。以前、部落差別が根強く残っている日本のとある県で1週間、高校生と合宿をして人権や差別について考えるドキュメンタリーを作ったことがありました。街頭で『部落差別はあると思いますか?』と訪ねる高校生に、多くの人は『もうないよ』と答えるのですが、『では結婚差別はどうですか』と聞くと、『部落の人との結婚はあかんやろ』と返事が戻って来て、子どもたちは大人たちのまやかしに気付いていく。表面上はなくなったと思いたいけれど、心の中では残っているんです」

間宮「僕は知人の知人が、結婚する予定だった人が部落出身だったことから、破談になったと聞いて。その実感がありました。作品の中では被差別部落出身の思想家・猪子蓮太郎(眞島秀和)が『ひとつ差別がなくなっても、また新しい差別が生まれる』というセリフがあるのですが、昨年訪れたところで、最初に新型コロナウイルスに感染した方がひどい目にあったということを聞いたこともあったので、『新しい差別が生まれる』ということもすごく実感がわきました」

 静かな悲しみを称える丑松を、間宮は自らにどう落とし込んだのだろうか。

間宮「父から(出自を)『隠せ』と言われたときは、ピンと張った池の水を思い浮かべていました。猪子先生との交流など、見聞きした光景は小石や雨粒となって、池の水面を揺らしていく。大きな決断をした後、また静かな鏡面の状態に戻るのですが、最初の池とは違う。そのイメージを大切にしていました」

 衝撃的な事件は、丑松の心を大きく揺さぶった。

前田「猪子が暗殺されたの講演会の後の丑松のシーンは、2度撮りました。間宮さんには『産まれてから今までの悔やみ、悲しみ、絶望、』『出自を隠して生きてきたことへの怒り』など、ありとあらゆる感情が毛穴から噴き出してくるようにと伝えて。新しい自分の解放を、見事に表現してくださったと思います」

 悲しみを洗い流すような雨、心をざわつかせる風。約2時間の映画にはこだわりが詰まっている。映画を楽しみにしている人にメッセージを。

間宮「俳優になった理由は、映画が大好きで、映画の業界に少しでも携わりたいと思ったことがきっかけでした。30歳になる1年前、20代最後に主役としてこの映画に携われたことをとても幸せに感じています。世界はひとつの場所としてはあるけれど、それぞれの視点があります。そこにいる人数分の世界があると演じていて感じたので、(映画を見た人は)これまで生きてきた人生、そしてこれからの人生について、考えてもらう時間になれば僕は幸せです」

 映画「破戒」は興行通信社発表の「ミニシアターランキング」で2週連続1位を獲得。東京・丸の内TOEIなど、全国で順次公開されている。

□前田和男(まえだ・かずお)1956年生まれ。脚本家・大津皓一氏に師事し脚本技術を学ぶ。国際放映、東宝、大映、東映でテレビドラマの助監督を務めた後、1981年にCMで監督デビュー。映画、CM、ドラマ、大型展示映像、プロモーションビデオ、教育映画の監督、および劇画原作などを手掛けている。代表作は椎名桔平主演の映画「発熱天使」(監督・脚本、99年)など。

□間宮祥太朗(まみや・しょうたろう)1993年6月11日、神奈川県横浜市生まれ。2008年にテレビドラマ「スクラップ・ティーチャー ~教師再生~」で俳優デビュー。映画、ドラマ、舞台など多彩に活躍している。放送中のテレビドラマ「魔法のリノベ」(毎週月曜午後10時~、フジテレビ系)ではバツ2のシングルファーザーを演じている。大の阪神タイガースファン。179センチ、O型。

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