元レースクイーン・30歳広報の“バイク出社”がきっかけ 社内でまさかの単車ブーム

過熱するバイクブームが企業にも広がりを見せている。兵庫の三陽工業株式会社では、1人の“バイク女子”の行動をきっかけに、本社建屋の社員のうち、15%がコロナ禍でバイクの免許を取得した。ツーリングを楽しむだけでなく、社内のコミュニケーションツールとしてもひと役買っているというバイク。新風を呼び込んだ当事者である広報グループのグループリーダー・加賀史穂理さん(30)に聞いた。(取材・文=水沼一夫)

愛車ニンジャと加賀史穂理さん【写真:三陽工業提供】
愛車ニンジャと加賀史穂理さん【写真:三陽工業提供】

3密避けるバイク 通勤の景色が変化

 過熱するバイクブームが企業にも広がりを見せている。兵庫の三陽工業株式会社では、1人の“バイク女子”の行動をきっかけに、本社建屋の社員のうち、15%がコロナ禍でバイクの免許を取得した。ツーリングを楽しむだけでなく、社内のコミュニケーションツールとしてもひと役買っているというバイク。新風を呼び込んだ当事者である広報グループのグループリーダー・加賀史穂理さん(30)に聞いた。(取材・文=水沼一夫)

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 加賀さんが普通自動二輪車の免許を取得したのは2021年のことだった。元レースクイーンとして長年、レースの現場にはなじみがあったが、自ら免許を取ることは考えてもいなかった。

「レース関係で関わっているんですけど、バイクに興味が湧かない中で、10年ぐらいたちまして。ただ、コロナ禍になり、バイクは1人で乗れるものでありますし、3密を避けれるということで、ちょっと免許を取ってみようかなと思ったのがきっかけですね」

 ちょうどコロナ禍で混雑を避けるため、通勤や休日の足として、バイクの人気が高まっていた。

 実際にバイクで出社すると、通勤の景色が変わった。

「もう入社して6年になるので、毎日のように通っていた道なんですが、楽しさがありましたね。車ですと外の空気に触れないですし、操作もオートマです。バイクは自分で操作して、風や四季も感じられる。同じ道でも全く違うように見えました」

 お目当ての大型バイクが復刻されたことから、大型自動二輪車の免許も取得した。現在の愛車はカサワキのニンジャZX-25RとメグロK3だ。

「好きなアニメがあって、その主人公が乗っているようなバイクに乗りたいって思ったことも一つのきっかけなんですね。そのバイクは海外のバイクで買えないんですけど、そのバイクに近しいバイクがメグロでした。もう中型免許を取ってすぐですね。3日後に大型免許、そしてメグロを買うっていう流れになりました」と2台持ちの理由を明かした。

野球部の応援にはこれだけのバイクが集結【写真:三陽工業提供】
野球部の応援にはこれだけのバイクが集結【写真:三陽工業提供】

社内レンタルバイク導入 GWは予約殺到

 面白いのは、加賀さんに触発されるように、社内でもバイクへの関心が急速に広がっていったことだ。明石市の本社建屋内では約50人の社員のうち15%が、加賀さんに続いてバイクの免許を取得した。今も2人の女性が教習所に通っている。

 創業43年目の三陽工業は、バイク部品の研磨を軸とする会社で、もともと川崎重工業と太いつながりがある。しかし、それまでバイクに乗って通勤する社員はいなかった。

「自転車はいたんですけど、バイクはいなかったですね。今、私も含めて結構な方がバイクで通勤してます。0からスタートしてるので、増えた感覚はすごくあります」

 バイク熱の高まりを感じた同社では4月、福利厚生としてレンタルバイクを開始した。社員を調査したところ、実は二輪免許を持っている社員は多かったものの、バイクを所有している人よりも、所有していない人が多いということが分かった。

「バイクは持ってないんだけど、中型(免許)は持ってるよとか、結構多いなと。ただ、バイクを買うかってなると、例えば奥さんからそれは駄目って言われてるとか、今ちょっと自分の小遣いで買えないとか(事情がある)」

 そこで一人の社員の発案から、展示用の車体などを利用して2台を社員向けに貸し出している。「ゴールデンウイークとか予約は全部埋まりました」と評判は上々だ。

 バイクが通勤やレジャーの一環としても社内で普及した結果、意外な発見もあった。

「バイクの話を通じて、やっぱり普段話せないような方とも話すようになったので、コミュニケーションを取る機会はすごく増えたんじゃないかなと感じています。普段関わることもないような部署の方ともバイクを通じて関わる機会になっています」

 つい先日も社内の野球部の応援をするため、バイクで向かった。声をかけると、約15台が参加した。

レンタルバイクのW175と広報グループ社員【写真:三陽工業提供】
レンタルバイクのW175と広報グループ社員【写真:三陽工業提供】

社内の盛り上がりに驚き 「ここまでとは」

 レースクイーンやモデルの仕事をしていた加賀さんだが、三陽工業に入社したのは偶然だった。前職の引退を考え始め、就職活動をスタート。バイクのパーツを研磨している会社とは知らずに採用された。2016年からは、加賀さんの仲介で、会社としてバイクのレースにも参戦している。

 国内バイク市場はコロナ禍もあって、活況を見せている。新車販売台数が伸び、旧車は高騰している。加賀さんも「バイクブームだと思ってます。このバイクが欲しいと思っても、バイクがないですね。売れているんだろうなと思っています。例えば中古車の値段が新車に近くなっちゃったりとかするので、これはちょっとバイクブームの到来と言ってもいいんじゃないかな、という意見をすごい聞きますね」と、その波を実感している。

 社内の盛り上がりについて、加賀さんはどう思っているのか。

「広がるといいなとは思ってましたけど、ここまでとは思っていなかったですね。通勤する姿や、乗っている姿を見て楽しそうだなと思ってもらえたんじゃないかなと思ってます」

 レンタルバイクは人気の福利厚生の一つになったが、まだまだ通過点との思いだ。

「レンタルバイクを作っただけで止まるのではなくて、どうやったらみんなに楽しく活用してもらえるかを考えたり、また別の面白い福利厚生を作ったり、現状で満足せずに、進化していけるような形でこれからも進んでいきたいなと思っています」と、笑顔で語った。

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