「歯のケア」なぜ重要? ほとんど虫歯のない40代男性が診察で告げられた“悪夢”

国民全員に毎年の歯科健診を義務化する国民皆歯科健診の導入を検討することが、政府の「骨太方針」に盛り込まれ、注目を集めている。歯科業界からは歓迎の声が上がる中、健診による具体的な予防効果やその目的は何なのか。医療法人誠真会しげなが歯科医院事務長の重永応樹さんに聞いた。

政府の「骨太方針」に盛り込まれた国民皆歯科健診の導入、その目的とは(写真はイメージ)【写真:写真AC】
政府の「骨太方針」に盛り込まれた国民皆歯科健診の導入、その目的とは(写真はイメージ)【写真:写真AC】

歯はQOLに直結、健診には2つの目的

 国民全員に毎年の歯科健診を義務化する国民皆歯科健診の導入を検討することが、政府の「骨太方針」に盛り込まれ、注目を集めている。歯科業界からは歓迎の声が上がる中、健診による具体的な予防効果やその目的は何なのか。医療法人誠真会しげなが歯科医院事務長の重永応樹さんに聞いた。(取材・文=水沼一夫)

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 今回、閣議決定された政府の方針について、重永さんは「国民全員が歯科健診を受けてくださいということです。日本では大人になってから定期的に歯科健診を受ける人の割合は1割にも満たない」。ではなぜ今、皆歯科健診にかじを切るのか。「予防歯科が歯の保全はもちろん、さまざまな全身疾患の抑止力になることに国が大きな期待を寄せているのでは」と説明する。

 実際、歯科健診により、どんなメリットがあるのか。

 重永さんによると、大きく分けて2つの点があるという。

「まずは虫歯を予防し、歯そのものをしっかりと残すことで、咀嚼(そしゃく)機能を維持していくこと。もう一つは歯周病予防です」

 言うまでもないことだが、虫歯が大きくなると、歯の神経を取ったり、場合によっては、歯そのものを抜くことになる。歯を少しでも老後に向けて残すことは、QOL(生活の質)に直結する。

「お口の中で食べ物をかむ中心となる場所は、健全な歯列であれば大臼歯(だいきゅうし)と呼ばれる奥歯のあたりです。例えば、奥歯を1、2本失うだけで咀嚼機能の大半が失われてしまう。食べ物の健全な咀嚼ができなくなると、十分に栄養がエネルギーとして吸収されにくくなります。そうすると、胃や腸といった臓器にも負担をかけることになってしまう。定期的に健診を受け、小さい状態で虫歯を発見して除去すれば、歯の寿命を長くできます。一方で、虫歯が悪化すると、入れ歯やブリッジと呼ばれる歯を削る治療をしなければならない。インプラントのように歯科の中では高額な治療に転換せざるを得ない場合もあります」

 インプラントの自己負担額は歯1本につき、30~40万と言われる。さらに年に数回、メンテナンスで診察を受けることが必要だ。

 また、歯周病もあなどれない。「歯周病対策はとても大事な予防の中心をなすもの。歯茎がやせてくると、歯そのものの維持が困難になります」と重永さんは訴える。

 歯周病菌が歯を支える骨を溶かし、知らないうちに、歯の機能を著しく低下させる。ある日、重永さんの病院に、40代の男性が訪れた。診察を受けると、驚きの結果が出たという。

医療法人誠真会しげなが歯科医院事務長の重永応樹さん【写真:ENCOUNT編集部】
医療法人誠真会しげなが歯科医院事務長の重永応樹さん【写真:ENCOUNT編集部】

重永さんが取り入れている歯を守る方法

「虫歯はほとんどなく、歯そのものに深刻なダメージはなかったのに、全体が根元からグラグラに揺れている状態。かなり重度の歯周病でした。来院時にはほとんどの歯が残っていましたが、診断の結果、大半の歯を抜かなければならない状態でした。こうなるとQOLが一気に低下し、その後の生活にも大きく支障をきたします」

 歯の維持については、日本歯科医師会が「8020運動」として啓発を行っている。80歳まで20本の歯を残すことがよいとされている。

 重永さんは「これからは人生100年時代に突入していく。早い段階で日々の生活に予防の意識と歯科検診の習慣を取り入れることで、100歳までに歯を20本以上残すことも十分可能になります。長い人生を健やかに生きるためにも、歯やお口の健康は『大切な資産、財産』だと思って、人生の最期まで自分の歯を使い切ることを考えてほしいですね」と“健口習慣”を推奨した。

 ちなみに、重永さんが普段取り入れている歯周病予防は、1日3度の歯磨きに加えて、舌の掃除をすることだという。

「歯と歯茎の間のポケットと言われるところ、そこが歯周病菌の温床となっていることはよく知られていますけど、じつはベロの上にも多数存在することが確認されています。タングワイパーや舌ブラシを使って、ベロのクリーニングを行うことが歯周病対策に有効です。週に2、3回で構いません。強くゴシゴシやるのではなく、ベロを痛めないように優しく丁寧に行うのがよいでしょう」と、アドバイスした。

「虫歯は例えるならば火事のようなもので、部分的に侵食が進行していきますが、歯周病が怖いのは、骨や歯ぐきを吸収してしまい、歯を根こそぎやられてしまうことです。進行すると最終的には抜かなくてはならなくなる。そこから選択できる治療は限定的です。骨がやせてグラグラになり歯そのものを失ってしまうと、インプラントや入れ歯など、費用や治療期間、治療範囲などの負担が大きくなってしまいます」と指摘した。

 重永さんの病院では、歯周病の程度にもよるが1~3か月に1回の定期健診をお勧めしている。

 これから国主導による歯科健診が実施されることは、大きな意味を持つという。

「健康にかめることの重要性を認識して、歯科健診を受けていただくことが大切。お口は食物の入り口であるのと同時に、病気の入り口でもある。お口の健康を守り、全身疾患につながるようなリスクを排除しなければいけない。そのためにも国や医療機関が主体となって、予防の重要性を啓発していかなければならない」と力を込めた。

□重永応樹(しげなが・まさき)1977年2月1日、鹿児島生まれ。愛知学院大学歯科技工士専門学校本科専修科卒業。国際デンタルアカデミーラボテックスクール卒業。SBI大学院大学経営管理研究科・アントレプレナー専攻。MBA(経営学修士)取得。医療法人誠真会しげなが歯科医院事務長・技工室長。

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