『SPY×FAMILY』『タコピーの原罪』…「少年ジャンプ+」ヒット作連発し続ける2つの要因

数ある漫画アプリの中で、オリジナルのヒット作を連発し、破竹の勢いを見せているのが「少年ジャンプ+」(集英社)だ。日本を代表する漫画週刊誌「週刊少年ジャンプ」とルーツを同じくしながらも、独自の路線でさまざまな作風の漫画を世に送り出している同アプリ。編集長の細野修平氏へのインタビューを通し、ヒット作連発の理由や、今後の展望に迫った。

アニメが人気爆発中の『SPY×FAMILY』も「少年ジャンプ+」発の作品だ【画像:(C)遠藤達哉/集英社】
アニメが人気爆発中の『SPY×FAMILY』も「少年ジャンプ+」発の作品だ【画像:(C)遠藤達哉/集英社】

他と一線を画す全話初回無料と新人作家の後押し

 数ある漫画アプリの中で、オリジナルのヒット作を連発し、破竹の勢いを見せているのが「少年ジャンプ+」(集英社)だ。日本を代表する漫画週刊誌「週刊少年ジャンプ」とルーツを同じくしながらも、独自の路線でさまざまな作風の漫画を世に送り出している同アプリ。編集長の細野修平氏へのインタビューを通し、ヒット作連発の理由や、今後の展望に迫った。(取材・文=片村光博)

 現在アニメ放送中の『SPY×FAMILY』(遠藤達哉)や、アニメを待望する声も大きい『怪獣8号』(松本直也)、『ダンダダン』(龍幸伸)など、最新話が更新されるたびに閲覧数100万超のヒット作を数多く抱える「少年ジャンプ+」。アクティブユーザー数はデイリーで215万人、週間で530万人、月間で1050万人を誇る(Web版含む)。漫画アプリの一つとしての“強み”について、細野編集長は「二つ大きいところがあると考えています」として、次のように分析する。

「一つは機能の部分で、オリジナル連載作品の初回全話無料です。例えば『SPY×FAMILY』をアニメで面白いと思ってくれた方が、初めてジャンプ+をダウンロードして読もうと思ったら、第1話から最新話まで、1回であれば全部無料で読むことができます。他のアプリでは『待てば無料』のような仕組みが多いと思いますが、最新話まで読もうとすると時間をかけて待たないといけない。そうなると、『連載最新話まで追いついて、一緒に盛り上がる』ということが難しくなるんです。2019年から始めた機能ですが、やってよかったなと思っています。

 もう一つが、『ジャンプ+』オリジナル漫画を作る、ヒットを出すという考え方でやってきたということです。他の漫画アプリでもオリジナル作品は多くなってきていますが、『ジャンプ+』ほど思い切れていない印象があります。広告でも、過去作でアプリに誘導していることが多い。初期の頃は『ジャンプ+』も過去作での誘導を試みていましたが、それだと読者が定着しないんです。当たり前ではありますが、『DRAGON BALL』で呼んできた読者は、オリジナル作品を読まないですよね。オリジナル作品で呼んで、オリジナル作品を読んでもらおうという形に変えたんです」

 今では前述のような看板となるオリジナル作品が人気を得ていることに加え、2021年12月から22年3月まで連載された『タコピーの原罪』(タイザン5)は、最新話更新のたびにSNSのトレンド入りを果たすなど、大きな盛り上がりを見せた。軸となるヒット作がありながら、挑戦的な新連載・短期連載も話題をさらっていく。漫画媒体として理想的なサイクルが生まれつつある理由は、どこにあるのだろうか。

「すごくシンプルに言うと、多くの新連載を継続的に出していることがあるのかなと。全ての作品が常にヒットするとは限らない中、試行回数を増やすことによって、うまくヒット作を出せているのではないでしょうか。僕らの中では、タイザン5先生の『タコピーの原罪』がエポックメイキングな部分があったんです。ジャンプ+に持ち込みに来た、あるいは投稿しにきた新人作家さんから新連載が出て、ヒットにつながるのが一番いいサイクル。『タコピーの原罪』では、それが成し遂げられたと思っています」(細野編集長)

『タコピーの原罪』は社会現象とも言える大ヒットとなった【画像:(C)タイザン5/集英社】
『タコピーの原罪』は社会現象とも言える大ヒットとなった【画像:(C)タイザン5/集英社】

SNSの盛り上がりは「本当にありがたい」 一方で戦略的な“バズり”は意識せず

 タイザン5氏は漫画投稿・公開サービス「ジャンプルーキー!」で賞を獲り、「ジャンプ+」の読切で高評価を獲得。編集部内でも「感情表現のうまさ、明るさ、強さ」を評価されていたが、『タコピーの原罪』はネームの段階から「暗いイメージもあり、『少し違うな』とは思いました」と細野編集長は明かす。しかし、それまでとは一味違う作風で『タコピーの原罪』は大ヒットを飛ばすこととなった。

「あそこまでのヒットになるとは思っていなかったというのが、正直なところです。最初から全2巻で行くというのも決まっていましたし、期待している新人作家さんなので、『まずはやってみよう』というところでした。

 その前に出した読切2本があることも含め、新人作家さんをどんどん出していくというスタイルが、うまく当たったのかなと思います。『ジャンプ+』では今、年間300本ほどの読切を載せています。作家さんのチャレンジの場として、良いものになっているのではないでしょうか」

 新人作家の“やりたいこと”に蓋をせず、可能性を信じてトライさせる精神が空前のヒット作を生み出した。作品ジャンルを限定することもない「ジャンプ+」は、日々さまざまな“色”を持った新連載がスタートする。こうして、名作が「ジャンプ+」から世に送り出される素地が作られているのだろう。

 また、『タコピーの原罪』は単なるヒットにとどまらず、SNSでの反響も凄まじかった。作中のワンシーンがインターネットミーム化し、作品を読んだことがない人にも届く流れが発生。SNSと親和性の高い漫画アプリだからこその、爆発的な拡散力だった。「ジャンプ+」の人気作品はいずれも、最新話が更新される午前0時過ぎにトレンド入りする傾向にあるが、こうした盛り上がりを細野編集長はどう見ているのか。

「まず、連載を追いかけてほしいという気持ちがあるんです。連載の最新話を読んで、みんなで盛り上がってほしい。それは、僕らが若い頃に『週刊少年ジャンプ』を読んでいたときの気持ちでもあります。今だと、同時に楽しむことが盛り上がりにつながると思っていますし、SNSでの盛り上がりは本当にありがたいです。

『ジャンプ+』の中にもコメント欄があるんですが、日付が変わって作品が更新される0時を過ぎた瞬間に読者の方々が、みんな一番に『面白い!』という感想を書き込んでくれる場所になっています。そういう盛り上がりが漫画への愛も生むし、媒体への思い入れも生んでくれるのかなと思っています。

 一方で、「(媒体の)初期とは違い、『バズらせよう!』としてもうまくいかないことは編集部でも理解しています」とも。SNSでの“バズり”を意識して作るのではなく、面白い漫画を真摯に届けていった先に、自然と読者の盛り上がりが生まれ、SNSでもコンスタントに話題を呼ぶ結果につながっている。

目指すのは「ジャンプ+だけ抑えておけば面白い漫画に出会える」という場所

 その他にも「ジャンプ+」では、「ジャンプルーキー!」の「連載争奪ランキング」で読者に選ばれた作品を「インディーズ連載」として掲載するシステムもある。編集者を通さない特殊な形態で、読者に読まれるほどボーナス金が支払われ、作者の応援につながっている。細野編集長は「今の作家さんは成功したい、お金を稼ぎたいというのもあるかもしれないけれど、『みんなに読んでほしい』ということが一番強いと感じたんです」ときっかけを明かし、経緯を説明する。

「その思いと、『編集者と話をして作品を良くしたい』ということは、必ずしも一致しないことがあるとも感じていました。編集者と一緒に組まなくていい作家さんにも場を提供できれば面白い、ということでインディーズ連載を始めました。

 僕らのメリットは作品数が増えることですが、作家さん側にもメリットはあって、『ジャンプ+』という多くの読者に見られる場所で、言ってしまえば編集にあれこれ言われずに漫画が発表できる。これを大きなメリットだと捉える方も増えてきているのだと思いますし、この路線は続けていきたいですね」

 従来の形にとらわれず裾野を広げ、面白い作品を掲載する可能性も広げていく。「ジャンプ+」のさまざまな施策に通じる理念にも感じられた。今後の展望も、ベースとなる部分は変わらない。

「各曜日に100万閲覧を超える作品を作りたいと、ずっと考えてきました。今は100万閲覧を超える作品も増えてきたのですが、次の数字的な目標はWAU(週間アクティブユーザー数)1000万人です。そのためにはヒット作、面白い連載を作るしかないので、今まで通り、今まで以上にさまざまな作家さんの新連載を送り出していく。そのためにも新人作家さんをどんどん集めていきたいと思っています」

 さらなる“発掘”のために「少年ジャンプ+漫画賞」も新設し、勢いはまだまだ止まらない「ジャンプ+」。これからアプリに触れる読者に向けて、細野編集長は呼びかける。

「ジャンプ+の目標の一つは、読者の皆さんにとって『ジャンプ+だけ抑えておけば面白い漫画に出会える』という場になることです。面白い漫画に会いたい方は、ぜひ読みに来てもらえれば、絶対に損はさせません。特に初めての方は『SPY×FAMILY』も全話無料で読めるので、ぜひ読みに来てください」

 既存の人気連載はもちろん、次々と生まれるハイクオリティーな新連載からも目が離せない。

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