現在のプロレスに疑問を投げかけた元“野獣”の提言 藤田和之の真意はいかに

「元・野獣」藤田和之の改心は本物なのか?

「緑の紳士」藤田和之から目が離せない【写真:柴田惣一】
「緑の紳士」藤田和之から目が離せない【写真:柴田惣一】

毎週金曜日午後8時更新 柴田惣一のプロレスワンダーランド【連載vol.96】

「元・野獣」藤田和之の改心は本物なのか?

 2019年9月にノアを主戦場にして以来、さまざまな波紋を巻き起こしてきた藤田。21年3月にはGHCナショナル王座、22年2月にはノアの至宝・GHCヘビー級王座を獲得するなど実力を発揮した。

 リング上での大暴れに加えて、会見や試合後のインタビューでビールを飲み干すなどの蛮行も繰り返していたが、ノアの頂点に立ちノア入団を果たすや、すっかり心を入れ替えた様子で、野獣らしさを封印。リングコスチュームにも緑を取り入れ、緑色のネクタイを着用するなど、ノアの一員としての意識も高まっていた。

 とはいえ、公式会見が終わるやいなや、アルコールを口にするなど、完全には脱・野獣とはいかなかった。藤田の人間宣言に疑惑の目が向けられていたのも仕方のないところだった。

 ところが、痛恨のアクシデントが事態を変えた。GHCヘビー級防衛戦を控えて、コロナ陽性の判定が下ったのだ。王座は返上し4・30東京・両国国技館大会を欠場するしかなかった。

 これにはさすがの藤田も思うところがあったのだろう。復帰戦が組まれた5・21東京・大田区総合体育館大会には、スタッフや若手選手とともに午前8時に会場入り。リングの組み立てなど熱心に会場設営に勤しんだのだ。これには周囲もビックリ。

 1996年に新日本プロレス入りしてから、この26年間、対戦相手を鉄柱に叩きつけ、逆にぶち当てられたことはあっても、鉄柱を運んだ経験はなかったであろう藤田である。さらには、大会後の撤収作業にも加わったというから、今度ばかりは人間宣言も信用できるかもしれない。

 この日の第1試合で岡田欣也に胸を貸したが、逆片エビ固めで仕留め、いつになく真摯な顔でアドバイスを送った。「もっと元気が欲しい。上の人とやると気を遣うのだろうけど、俺なんかにそんなことは無用」とズバリ。「気を遣わずに体を使え!」との激である。

「若い人は、打つところはしっかり打って、魅せなくちゃ」とエールを送る。「プロレスでしょう、ではなくプロレスなんだ!」の気概を前面に打ち出してほしいというのだ。

 もちろん若手だけに向けた言葉ではない。「上にも責任があるのかも。今のプロレスはどうか知らないけど、もっと体を使って、もっと前に出て、もっと気持ちを出してほしい」とキッパリ。ノアだけでなくプロレス界全体への藤田提言と言っていいだろう。

 藤田はレスリングで名を成し、プロレス入りしてからも、総合格闘技でも大活躍してきた。2000年には猪木事務所に移籍し、PRIDEでも大暴れした。IWGPヘビー級王者として“外敵”との闘いに打って出ている。06年には藤田事務所を興し、格闘技イベント、プロレスの二刀流での活躍を続けてきた。

 今回のノア参戦は、身をもってプロレスラーにプロレスの原点をあらためて考えてほしかったのかも知れない。

「プロレスがなめられないように」と力説。輝かしい実績を残してきた「元・野獣」の言葉はとてつもなく重いのではないか。

 ただ、真面目な藤田がいつまで続くのか、懐疑的な見方もある。本性は変わらないという声もある。このまま「緑の優等生」でいるのか、はたまた封印していた野獣の本能が目覚めるか。いずれにしろ、藤田から目が離せない。

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