「市川姓」を許された女性伝統芸能者・市川櫻香が「古典の日」に込めた思い

市川櫻香の弟子・柴川菜月【写真提供:日本の伝統文化をつなぐ実行委員会】
市川櫻香の弟子・柴川菜月【写真提供:日本の伝統文化をつなぐ実行委員会】

女性が演じる坊主、江戸後期の「絵日記」を再現した「哥宗論」

――続いて「哥宗論」。櫻香さんのお弟子さんの市川阿朱花さんと柴川菜月さんが出演されます。菜月さんに伺います。狂言には「宗論」の演目がありますが、「哥宗論」は初めて聞きました。狂言「宗論」では宗派の違う法華坊主と浄土坊主が宗論(討論)しますが……。

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菜月「『哥宗論』の内容は狂言『宗論』と同じです。狂言和泉流の佐藤友彦先生から、狂言の台本でお稽古していただいています。なぜ『哥宗論』かと言いますと、名古屋出身の高力猿猴庵(こうりきえんこうあん)という江戸後期の武士が当時残していた絵日記の中に、『女舞』として『宗論』が描かれているのです。その絵を再現したのが『哥宗論』です。内容は狂言の『宗論』ですが、女性のむすめ歌舞伎で演じるため、違いをつけて『哥(うた)』がついています」

――猿猴庵は、江戸後期の名古屋地域の様子を絵入り本に克明に描いていた、イラストレーターのような方ですね。その時代に名古屋では狂言「宗論」を女性が行っていたと。絵日記の再現はどのようにされているのでしょうか?

菜月「衣装も猿猴庵の絵を参考にしています。狂言のような衣装ではなく、坊主ですが華やかな女性っぽいイメージです。雰囲気的に“女性感”が出ています。『女性が演じている坊主』になっているのが特徴的です」

――内容は「宗論」と同じでも、「女性が演じる坊主」ということで大変なことはありますか?

菜月「狂言はせりふばかりです。歌舞伎なら唄をはさんで踊りもあり、せりふまわしも音楽のようですが、狂言は私の中ではイメージが違います。狂言のせりふの一つ一つの単語は昔の言葉なのに、今の歌舞伎よりも現代の会話の仕方に近いと感じています。せりふの間、強弱の仕方。長い文章の中で『ここを大きくしたり、小さくしたり』という感覚がわからなくて、難しいです」

――歌舞伎とも感覚が違う上に、「男性が演じているものを女性がやる」というのは、同じ物語でも難しそうですね。

菜月「男性の『宗論』をそのまま、まねるのはどうしても難しい。性別や年齢の違いもありますし、声質も違います。『ガミガミ言うせりふが女性に合うのか』などギャップも感じ、『どうしたらいいか、どうもっていたらいいか』を考えています。今は自分でできる1番やりやすい声の出し方で、自分に合った話し方をしています。基本的なことは教わった通りにやりつつ、『自分なりにできるようにやるのがいい』のかなと」

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