1990年代前半に燃え上がった女子プロレスの団体対抗戦ブーム。全日本女子プロレス、JWP、LLPW、FMWなどが激しい火花を散らしたが、ブームの先陣を切ったのは92年11月26日、全女・川崎市体育館で行われた豊田真奈美＆山田敏代組（全女）VSダイナマイト・関西＆尾崎魔弓組（JWP）だったと言っていい。このカードでなかったら、あれほどまでの盛り上がりと広がりを見せたかどうかは分からない。当時、「全女が一番」と信じ、「他団体をバカにしていた」豊田と山田は、後発団体JWPの意地と実力に舌を巻いた。また、老舗全女でデビューした豊田＆山田も、タッグチームであると同時に、個人としても敗者髪切りマッチを行うほどのライバル同士だった。豊田、山田とも全女から離れた後にはGAEA　JAPANでも活躍、ライバル関係はリングを去るまで続いたのだった。2人ともすでに引退しているが、今回はOG山田敏代に話を聞いた。“やまさん”はいま、なにをしているのだろう？（取材・文＝新井宏）

「ある会社に所属していて、週に何回か車で障がい者の方の送迎をしているんですよ。ブログには、お誕生日カードやいろいろ作り物をしているところを載せているので、幼稚園とかで働いていると思われる方もいるかもしれないんですけど、いまはその会社の一環として福祉関係の仕事もしています」

　山田の言うブログには最近、空手の稽古姿を載せている投稿も見かけられるが…。

「空手は清心館という道場でやらせてもらっています。きっかけは、ナンシー久美さんが私の店に遊びに来ていただいて、『身体の不調があるならリハビリがてら動いてみない？』と声をかけていただいたことですね。いま、週に2回くらい行かせていただいています」

　大会があれば手伝いにも出かけるという山田。彼女の言う「店」とは、ブル中野の「中野のぶるちゃん」を引き継いだ「中野のぱわすぽ」である。全女時代から「居酒屋やまさん」を経営していたが、13年4月に閉店。その後、ブルを手伝い、19年5月に引き継ぐ形で「中野のぱわすぽ」をスタートさせたのだ。が、新型コロナウイルスの影響により、昨年4月、撤退を余儀なくされてしまう。

「閉店はオーナーの決定でしたが、早めの判断でよかったと思います。私だったらダラダラやっていたかもしれないし、そうなれば負債が増えたと思うんです。ただ、やめた後にどうするかはなにも考えていませんでした。そんななかで声をかけていただいて、すごくありがたいですね」

　コロナ禍で行動は制限されているものの、仕事に加えて空手で身体を動かすことも閉店後の生活を充実させている。実は今年4月、現役時代の古傷である首の手術を行った。いまだに右手でチョキを作ることができないが、手術によって悪化の抑制、進行を遅らせることは可能だそうだ。

　全女時代には首の負傷で2回の長期欠場を強いられた。全女でやめる選択肢は一切なかったが、GAEAでは「次に痺れがきたらやめるとき」と心に決めていた。そして、翌年4月の団体解散がすでに決定していた04年12月、山田は頸椎負傷によって17年のプロレス生活にピリオドを打った。

　そもそも山田は、長与千種に憧れ全女の門を叩いた。当時はクラッシュ・ギャルズが女子レスラー志望者の大きなモチベーション。山田はプロレスよりも、大スター長与のそばに行きたいと思い、レスラーになることを決めたのだった。激しい競争を勝ち抜いた山田は、長与の付き人も務めた。「長与さんが好きで入ったプロレス界」は、彼女の目にどう映ったのだろう？