大日本プロレスには、デスマッチ部門と通常のプロレスルールのストロング部門（ストロングBJ）があるが、野村は「今のストロングBJには殺伐さが足りない」と憂慮している。「俺も、か？　俺も殺伐さが足りないのか？」と、立ちはだかった橋本大地をレフリーストップで破り、中之上靖文の持つ王座に挑戦の名乗りを上げた。若手の頃から「ゆるい試合はしたくない」と言い放ち、最近では「俺なりの闘魂」という言葉も口にするようになった。

　栃木県出身の野村は、源平合戦で船上の平家の扇を一矢で射抜き、源氏の士気を高め勝利をもたらしたという弓矢の名手・那須与一ゆかりの武門の家系。その魂には、闘いのDNAが組み込まれているのだろう。

　現在、阿部史典との「アストロノーツ」で大日本のタッグ、プロレスリングBASARAのタッグとタッグ二冠王の野村。ストロングヘビーのベルトを取れば三冠王だ。

　普段は温和で優しいが、リングに上がると豹変する野村。負けん気の強さは群を抜く。対戦経験のある選手は団体問わず「野村選手はヤバい」と口をそろえ、「人間、あんなに変われるものなんですね」とボヤク者もいる。野村本人は「よくそう言われますが、自分としては変わってないと思う」と平然としているが、そのギャップには驚かされる。

「子どもの頃、よく息を吹きかけてタンポポの綿毛を遠くに飛ばした」という。耳に入ったらどうするのと親に怒られても、かまわず続けたという。「なるべく空高く、遠くまで飛ばしてあげたい。どこまでも行けるように」。行った先で根を下ろし、そこでまた花開いてほしいと幼心に願ったそうだ。

「強くなりたくてプロレスラーになった」という野村の「闘魂」はどこまで行くのだろう。

　優しいが、強情で頑固。何とも魅力的な野村卓矢の、ストロング・クエストともいうべき闘いの道を見守りたい。