朝倉未来は引退? 現役続行? 挫折で分かれる格闘家としての真価

「引退」から一転して「現役続行」へ!?

 言わせてもらうと、この段階まではなんの問題もなかった。しかしながら一つだけ気になった点があるとすれば、未来が試合後に発した「引退」の言葉だろうか。

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 確かにあらゆる準備と精神状態を作り上げて、その結果がうまくいかなかったことに対して「引退」と口にしたくなる気持ちは分からないではない。だが、実を言うとその方向で話が進んでも、いいことは一つもない。リングとはたった一つの挫折でくじけてしまうほど、弱い人間が上がっていい場所ではないはずだからだ。

 リングとは常人が踏み込んではいけない神聖な場所。裏を返せば、選ばれた者のみがその足を踏み入れることを許される絶対的な聖域。「遺書」を残してリングに上がっている朝倉未来なら、それは十分承知しているはず。

 だからこそ、たった一つの挫折が「引退」なのだとしたら、そんな楽な仕事はない。

 仮の話、それが横綱や世界王者にまで登り詰めたファイターが口にするならまだしも、朝倉未来はまだ、志なかばの「道の途中」にいるはず。

 さらに言えば、リング上は非日常の極地であってほしい。だとすれば、一度入ったら骨の髄までしゃぶられる。毒をくらわば皿まで。それが今日まで脈々と続いてきた、格闘技界の縮図であるはず。

 もっともっとぶざまな格好を晒(さら)しながら、それでも諦めない姿勢や意識が醸し出す覚悟…。そこに人々は共感して行くのではないか。でなければ、そもそも伝説になどなって行くはずがない。

 それでも「引退」に進んでいくのだとしたら、おそらくそこが朝倉未来の潔さであり、賢さなのだろう。「自分の中で自分に対する幻想が打ち砕かれた」とも話していた。賢いがゆえに、朝倉未来は自身の実力をすでに見極めてしまった、とも言える。だとしたら、格闘技と出会ってほしくはなかった。

 なぜなら、朝倉未来に魅入られた人間にとってそれは罪でしかないからだ…。

 と、ここまで書いて、どうやら本人は一夜明け、SNSで現役続行を示唆したもよう。ああ、だから言わんこっちゃない。ともあれ、なぜかこうやっていつの間にか朝倉未来を熱く語っているのだから、やっぱり朝倉未来の手のひらで踊らされているのだろう。

 表現者である限り、罵詈雑言を浴びせられたとしても、語られないより数億倍はマシ。どこまで行っても「語られてナンボ」の世界なのだ。例えばの話、いくらカネや自由を手にしたところで、語られなかったらもうその時点で表現者でもなければ、単なる過去の人でしかない。

 よくも悪くも語られた者勝ちの世界。そう思うと、18年ぶりの東京ドームには、朝倉兄弟の残した「攻防」と「場面」が刻まれたこと。さらに、そこに「引退」を口にしたという若気の至り(スパイス)を込みで語られて行くことは間違いないのである。

次のページへ (3/3) 【写真】朝倉海が見せた、フィニッシュにつながる強烈なパウンド攻撃
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