高速道路で追い越した車に一目惚れ→その週に購入 わずか“数秒の出会い”が27歳男性の人生変えた

欲しい車との出会いは、必ずしも中古車店やネットの検索画面にあるとは限らない。毎日の通勤路で、たまたま前を走っていた1台……。ほんの数秒の光景が、その後のカーライフを変えることもある。

象徴の唐獅子エンブレム、流麗なデザインが目を引く名車だ【写真:ENCOUNT編集部】
象徴の唐獅子エンブレム、流麗なデザインが目を引く名車だ【写真:ENCOUNT編集部】

【愛車拝見#386】 高速運転中に衝撃的な出会い

 欲しい車との出会いは、必ずしも中古車店やネットの検索画面にあるとは限らない。毎日の通勤路で、たまたま前を走っていた1台……。ほんの数秒の光景が、その後のカーライフを変えることもある。

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 9月20日に群馬県内で行われた旧車イベント。数々の名車が並ぶ会場で、深みのあるマルーンのボディーが目を引いた。1980年式いすゞ117クーペだ。

 オーナーは群馬県高崎市に住む設楽さん、31歳。購入したのは27歳のときで、今年で所有5年目になる。

 117クーペといえば、流麗なスタイリングで知られるいすゞの名車。設楽さんの車両は80年式の後期型だ。現在はいすゞが国内で乗用車を生産していないこともあり、若い世代にとっては街中で見かけること自体が珍しい1台だ。

 そんな車を20代で選んだとなれば、幼少期から117クーペに憧れていた……と思いきや、購入のきっかけは全く違った。

 ある日の通勤中だった。

「高速道路で通勤中に、一番左の車線をすごいゆっくり走ってたかっこいい車がありまして、それがこの車で一目ぼれをして、もうその週に車を見に行って購入しました。一瞬で、即決で」

 人生を変えた117クーペは、展示場に置かれていたわけでもなければ、SNSで偶然見つけたわけでもない。

 高速道路を走っていた“見ず知らずの人の車”だった。

 設楽さんは通勤中、その117クーペを追い越した。速度は80キロほど。左車線をゆったりと走る姿が、妙に目に焼きついた。

「本当80キロでゆっくり走ってる、すごく優雅な車がいて、それがこの車だったんですよ。それを追い越して一目ぼれでしたね」

 あまりに気になって、追い越した後には思わず減速した。

「かっこいい! って思って見てたんですけど、それがこの車とのきっかけでした」

 そのとき走っていたのは水色の117クーペ。そして設楽さんの心をつかんだのは、車だけではなかった。

 瞬時に刻まれたのは、ハンドルを握っていたドライバーの姿。

「帽子を被った女性の方だったんですよね。バンダナを巻いた女性の方で。その方が、すごくゆっくり運転してて、その姿もかっこよくて、『ああいう大人になりたいな』って思いました」

 女性は高齢で60~70代ほど。当時20代だった自身よりずっと年上で、長年その車に乗り続けているように見えた。

 車を飛ばすのではなく、左車線をゆっくりと流していく。その姿に「味があって、かっこよかった」と憧れた。

若きオーナーのセンスが光る【写真:ENCOUNT編集部】
若きオーナーのセンスが光る【写真:ENCOUNT編集部】

旧車は部品代が高い!? 「これは大変だ」と覚悟したが…

「自分も早くそうなりたいんですけど、なかなか歳を重ねさせてくれないので(笑い)」

 思い描く理想の姿を目指し、歩み続けている。

 旧車は気に入る車を探すまで、時間がかかる印象がある。だが、設楽さんは、すぐさま117クーペを探し始め、専門店を発見。在庫を問い合わせると、気に入った一台があった。その週のうちに店へ足を運んだ。

 当時の愛車は日産180SX。平成初期を代表するスポーツカーから、昭和の117クーペへ。年代もキャラクターも大きく異なる乗り換えだったが、迷いはほとんどなかった。

「すぐでしたね。もう、早かったです」

 商談時に試乗すると、その気持ちは決定的になった。

「すごく乗り味がよくて。僕もあんまり飛ばすタイプじゃないので、ゆっくり走るのが好き。それにすごく適した車だったんですよね」

 マニュアル車でありながら、内装は上品。ゆったりとした乗り味も自分の好みにぴったりだった。

「全てが自分の感性に合ってたって言うんですかね」

 高速道路で見た、数秒の光景が、設楽さんのカーライフを大きく変えた。

 もともと旧車には興味があった。フェアレディZやハコスカにも引かれていたが、価格や部品代を考えるとなかなか手が出なかった。その点、117クーペは意外にも維持しやすかったという。

 それを象徴する出来事がある。

 ある日、運転席の内側にあるメッキのドアノブが「ボキッ」と真っ二つに折れた。

 40年以上前の車だ。「これは大変だ」と覚悟した。そもそも交換部品が見つかるのか。見つかったとしても高額なのではないか。

 ところが、いすゞのディーラーに勤める知人に相談すると、翌日には予想外の返事が来た。

「あ、部品出たよ」

 しかも価格は、わずか1500円ほどだったという。

「2万とか3万なのかなと思ってたんですけど、1500円で済みました」。拍子抜けするほどだった。

 ドア周辺のゴム製モールなども部品が出るといい、「雨漏りとかしても、最悪この部品買えばいいだけ」と見通す。旧車というと「壊れたら終わり」「部品探しが大変」というイメージもあるが、所有してみると想像以上に付き合いやすかった。

 もちろん、一番の魅力は維持費が安いことではない。

“ブルドッグ”こと1984年式ホンダシティターボ2も所有【写真:ENCOUNT編集部】
“ブルドッグ”こと1984年式ホンダシティターボ2も所有【写真:ENCOUNT編集部】

4台所有、パン屋に行く時は…愛車を使い分ける意味

「こういう古い車のスタイルなのに、いつでもエンジンがかかってくれて、当たり前のように乗り出せる。で、なおかつ、乗り味はレクサスみたいな、すごくフワフワした、すごく優雅な乗り心地なんです」

 4台の車を所有。仕事には別の車を使い、117クーペの出番は休日だ。

 特別な目的地があるわけではない。

「休みの日にパン買いに行くとか。そういう特別な時間を過ごしたい時に、ちょっと乗ってるぐらいですよね」

 パンを買いに行くことは、何げない日常の1シーンだろう。しかし、この車に乗ることで、その意味ががらりと変わる。

「同じ目的地に、電気自動車で行くのと、こういう古い車で行くのって、すごく感じるものが違うと思うんですよ」

 旧車は「五感で運転するもの」だと表現し、「音もそうだし、匂いもそうだし、手に伝わる感覚、振動、全部そう。そういうのがあるとないとじゃ、やっぱり目的地に着くまでの過程が違うと思うんですよね」と、設楽さんは続けた。

 効率だけを考えれば、わざわざ40年以上前の車でパンを買いに行く必要はない。しかし、その“わざわざ”の時間こそが最高に楽しい。

 通勤用の車を避けるのは、リフレッシュを図る狙いもある。

「休みの日に仕事の車を乗っちゃうと、仕事モードになっちゃうんですよね。仕事に行くっていう感覚になっちゃうんで、やっぱりこういうセカンドカーっていうのは、自分にとって大事な存在なんだなって思っています」

 ちなみに群馬のお勧めドライブコースを聞くと、「いっぱいありますね。やっぱり上毛三山って言われている赤城、榛名、妙義、これはマスト。『頭文字(イニシャル)D』っていうアニメにも出てくるコースなので、すごいお勧めです。峠道なので、気持ちいいところですよ」とのことだ。

 高速道路で偶然見かけた1台に心を奪われてから4年。今では設楽さん自身が、117クーペのハンドルを握る側になった。

 いつの日か、かつての自分と同じように、設楽さんが運転する117クーペを見た若者が「こんな車に乗ってみたい」と思うこともあるかもれしない。

「そうですね。なんか憧れてくれる方がいれば、それはもう至極の極みなんですけど(笑い)」

 愛車との出会いは、中古車情報サイトを何時間も検索した末に訪れるとは限らない。通勤途中、左車線をゆっくり走る1台を追い越した、その一瞬かもしれない。

 あの日、設楽さんの目に飛び込んできた水色の117クーペと、それを優雅に走らせていた一人の女性。名前も知らないその人は、自分が一人の20代のカーライフを変えたことなど、おそらく知らない。

 そして今、マルーンの117クーペをゆったり走らせる設楽さんもまた、知らない誰かの目に留まっているかもしれない。

 次のオーナーが生まれるきっかけは、案外そんなところに転がっている。

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