「助かりたいなら死ぬ気で泳げ!」 海で流された男性、53歳サーファーが危険を承知で…紙一重だった救助
「助かりたいなら死ぬ気で泳げ!」――。秋田・にかほ市内の海岸で、台風の影響による高い波が押し寄せる中、海に入った男性が流された。テトラポッドの裏側へと迫る漂流者を救ったのは、サーフィン中の53歳男性。「頭の血管が切れるくらい」の力でパドルを続け、男性を岸まで連れ戻した。岸で待っていた漂流者の娘3人は、父親の無事を確認すると涙を流したという。緊迫の一部始終をつづった人命救助の投稿には大きな反響が集まった。救助した本人に、当時の状況や安全に海で遊ぶためのメッセージを聞いた。

波間の“黒い物体”に近づくと…「あれ、人じゃねえか?」
「助かりたいなら死ぬ気で泳げ!」――。秋田・にかほ市内の海岸で、台風の影響による高い波が押し寄せる中、海に入った男性が流された。テトラポッドの裏側へと迫る漂流者を救ったのは、サーフィン中の53歳男性。「頭の血管が切れるくらい」の力でパドルを続け、男性を岸まで連れ戻した。岸で待っていた漂流者の娘3人は、父親の無事を確認すると涙を流したという。緊迫の一部始終をつづった人命救助の投稿には大きな反響が集まった。救助した本人に、当時の状況や安全に海で遊ぶためのメッセージを聞いた。
「人生で初めて人命救助した」
一連の投稿は、そんな書き出しで始まる。海岸から沖方面の離れた位置に設置されているテトラポッドの裏側で発見したのは、離岸流に流されたとみられる男性。監視員もライフセーバーもいないサーフポイントで、投稿者自身も命を落としかねない救助の一部始終が生々しくつづられている。
出来事が起きたのは今年8月10日、同市両前寺の海岸。投稿者の53歳男性は朝からサーフィンを楽しみ、昼食を取った後、再び海へ入った。当時は台風の影響によるうねりが入っていたという。
海へ入った投稿者が遠くに見つけたのは、波間に浮かぶ黒い物体だった。当初は、どこかから流れてきたゴミだと思っていた。ところが、その黒い物体は次第にテトラポッド付近へ流されていった。さらに目を凝らすと、浮き輪のようなものが波に飛ばされる様子が見えた。
「あれ、人じゃねえか?」
違和感を覚えた投稿者は、一緒に海へ入っていた若いサーファーに「ちょっと気になるから見てくる」と声をかけ、約200メートル先へ向かう。
近付くにつれて、それが人であることを確信した。漂流していた男性は、複数のパーツをつなげたような浮き輪の一部を必死につかんでいたという。さらに体が浮き沈みする様子を見て、投稿者は男性が漂流していると判断した。
近くまで行き、「大丈夫ですか?」と声をかける。返ってきたのは、わずか一言だった。
「助けてください」

テトラの裏側へ流される男性…「死にたくなかったら死ぬ気で泳げ」
その時、漂流した男性はすでにテトラポッドの裏側(沖方面)へ流され始めていた。
投稿者は長年サーフィンを続けており、波の流れやそのポイントの地形もある程度把握していた。テトラポッド付近へ不用意に近付けば、自身まで波にのみ込まれる危険があることも分かっていたという。
男性に泳げるか尋ねると、すでに体力を消耗しており、「疲れて泳げない」という返事。投稿者は「死にたくなかったら、死ぬ気で泳げ」と声をかけるも、男性からは「もう無理です」との返答があった。
このまま見捨てて男性が命を落とせば、「あの時、助ければよかった」と後悔する。一方で、自分自身も危険な場所へ近付けば命を落とす可能性がある。投稿者は命懸けの選択を迫られた。
それでも、台風による波は周期が長く、その間隔をうまく読めば近付けるのではないかと判断した。波が来るたび、サーフボードごと波の下へ潜るドルフィンスルーでやり過ごしながら男性の元へ到達。サーフボードと体をつなぐリーシュコードを男性に渡した。
「死にたくなかったら絶対離すなよ! 引っ張るから」
そう伝え、岸を目指す。しかし、救助は想像以上に困難を極めた。
投稿者自身はドルフィンスルーで波をやり過ごせるものの、漂流している男性は波が来るたびに引き戻される。力が拮抗し、思うように前へ進めない。
「これはやばいぞ!」
危機感を覚えながら、投稿者は本人の表現で「頭の血管が切れるぐらい」のパドリングを続け、男性を懸命に引っ張った。
なんとかテトラポッド付近の危険な位置から横方向へと引き出し、今度は岸を目指した。しかし、その途中で事態はさらに悪化する。後ろから波が押し寄せ、男性が持っていた浮き輪が流されてしまった。その場で男性が沈みかけたため、投稿者は「これはダメだ!」とすぐさま引き返し、自身のサーフボードにつかまらせた。
さらに男性の体を持ち上げてボードに乗せ、自身は海へ入ったまま、ボードの後方をつかんで平泳ぎをしながら岸まで運ぼうと試みる。ところが、サーフボードに乗った経験のない男性は、どこに体重をかければいいのか分からず、何度もバランスを崩してしまう。
そこへ駆けつけたのが、最初に声をかけていたもう1人の若いサーファーだった。
2人は男性に再び浮き輪とリーシュコードを持たせ、力を合わせて浅瀬へ向かう。
普段からそのポイントでサーフィンをしていた投稿者は、海底の地形も把握していた。テトラポッドの正面側へ回り込むと砂がついて徐々に浅くなるため、そこを目指して男性を引っ張り続けた。
そろそろ足が届くのではないかと海底に足を下ろすと、胸ほどの深さで着底した。しかし、漂流していた男性はパニック状態から抜け出せず、足が届く深さになっても、もがき続けていたという。
投稿者は男性の腕をつかんで体を安定させ、「落ち着けって! 足届く!」と一喝。すると男性はハッと我に返り、自分の足が海底についていることに気付いた。
救助の末、2人はようやく岸へ戻ることができた。
「なんで通報しないの!」岸で待っていた娘3人が号泣
岸で待っていたのは、投稿者が当初から目にしていた3人。漂流していた男性の娘たちだった。
無事に岸へたどり着いた後、投稿者が警察などへ通報したのか確認すると、娘たちからは「通報してません」との答えが返ってきた。
これを聞き、投稿者は思わず怒りをあらわにした。
「親父が流されて漂流してるのになんで? 警察なり消防なり誰かに助けを呼ばないのよ?」
娘たちは当時携帯電話を持っておらず、父親だけが所持していたという。投稿者は、父親のスマートフォンだったためロックを解除できず、連絡することができなかったのではないかと考えている。また、投稿者によると、現場は遊泳禁止区域だった。約500メートル先には、ライフセーバーらがいる海水浴場がある。なぜ、あえてこの場所で海に入ったのか。投稿者は疑問に感じたという。
投稿者は男性に、海は楽しい一方で、ルールを守らなければ今回のような危険な目に遭うことを伝えたという。
自身も命を落とす可能性がある中で救助に向かった。それだけに、何の知識も持たず安易に海へ入ることに対する注意喚起の思いも大きかった。「助かった命を大切にしろ。粗末にするんじゃねえぞ!」。さらに、「海をなめるんじゃねえぞ」と男性を叱った。
岸で待っていた娘たちは涙を流しながら、投稿者に「ありがとうございます」と感謝した。一方で、投稿者自身も時間がたってから救助時の行動を振り返り、「すごい危ないことをした」と感じているという。
一歩間違えれば、救助する側まで命を落としかねない状況だった。そうした中で救助を可能にしたのが、長年にわたって自然と向き合ってきた経験と、日頃から積み重ねてきたトレーニングだった。
救助者は元プロスノーボーダー 現在も月100キロ走る53歳
今回、男性を救助した投稿者は53歳。若い頃にはハーフパイプのプロスノーボーダーとして活動し、全日本ランキング2位になった経験を持つ。
現在も月100キロを目標にランニングを続けるなど、日常的なトレーニングを欠かさない。サーフィンを始めたのは18歳で、一度は離れたものの、43歳で再開し、現在まで約10年間続けてきた。波が良ければ会社の有給休暇を取って海へ向かうほど、今もサーフィンに熱を注いでいるという。
こうした体力に加え、長年のサーフィン経験、海の地形や波に関する知識が、今回の救助では生かされた。ただ、本人はそうした経験や体力があるからといって、自身を過大評価することはない。
「普通の53歳よりはちょっと体力があるかなって。でも、そういう過信を持ってちゃダメだと思ってるので」
また、自身だけの力で成し遂げた救助ではないとして、周囲への感謝も語った。
「一緒に救助してくれた若いサーファーと、好きなことをさせてくれる家族に感謝です」
プロスノーボーダーとして雪山に向き合い、サーファーとして海にも向き合ってきた。だからこそ、今回の出来事を経て強く感じたのが、「自然を侮らないでほしい」ということだ。
波も雪も、その力は人間が簡単に抗えるものではない。人工的に管理されたものとは違い、危険を感じたからといって、人間の都合で止めることはできない。だからこそ、自然を相手にするレジャーでは、「自分なら大丈夫」と過信しないことが重要になる。
「『まさか自分が』っていうことが起きると思うんで。それは明日は我が身だよと思って。とにかく自然をなめないで、リスペクトして、レジャーを楽しんでほしいですね」
また、危険な目に遭えば、その影響は本人だけにとどまらない。投稿者は漂流した男性に対し、家で帰りを待つ家族がいることも伝えたという。投稿者自身にも、帰宅を待つ妻や子どもがいる。
そうした家族の存在も忘れず、自然の脅威を理解した上でレジャーを楽しんでほしいと願っている。
経験豊富なサーファーでも、風向きや潮の流れ、波の状態を見極めながら、その日の海に入るかどうかを判断する。「無理って思ったら、サーファーはやめるんですよ。もうちょっと自分に優しいポイントを探そうって」。無理をして挑むことが、勇気ではない。
「度胸があるのと無謀は違うので。そこを履き違えないでもらいたいですね。海では、建物や何かを目印にして常に自分位置を把握してください。離岸流は幅約10メートルほどなので流されてると思ったら落ち着いて流される方向に垂直に逃げてください。離岸流から脱出することができます。とにかく落ち着いてください。
あと、周りの方はすぐに助けを呼んでください。海の事故に遭わないためにも知識は必要です。安全に楽しんでください」
海のレジャーを楽しく終えるためにも、その危険性を決して忘れてはならない。
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