adieu(上白石萌歌)が語った言葉と丁寧に向き合う理由 歌詞を書き写す習慣、SNS発信への真摯な思い
2017年のデビュー以来、透明感のある歌声で聴く者を魅了し続けてきたアーティスト・adieu(上白石萌歌)が、今年で活動9年目を迎えた。7月29日には、読売テレビ・日本テレビ系アニメ『本好きの下剋上 領主の養女』(土曜午後5時30分)第2クールエンディングテーマとなるニューシングル『Wanna me』をリリース。ENCOUNTでは、adieuにインタビューを実施し、その世界観と表現の原点に迫った。

ニューシングル『Wanna me』をリリース
2017年のデビュー以来、透明感のある歌声で聴く者を魅了し続けてきたアーティスト・adieu(上白石萌歌)が、今年で活動9年目を迎えた。7月29日には、読売テレビ・日本テレビ系アニメ『本好きの下剋上 領主の養女』(土曜午後5時30分)第2クールエンディングテーマとなるニューシングル『Wanna me』をリリース。ENCOUNTでは、adieuにインタビューを実施し、その世界観と表現の原点に迫った。(取材・文=福嶋剛)
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adieuの魅力は澄み渡るような歌声と、俳優として培ってきた繊細な表現力が、楽曲一つひとつに豊かな物語性を与えている。その片鱗は、17歳でリリースしたデビューシングル『ナラタージュ』(作詞・作曲=野田洋次郎)の頃からすでに見せていた。
「『ナラタージュ』は、当時の自分にとってはすごく大人びた曲でした。今思うと、一生懸命歌っているという感覚があって、でもそんなふうに背伸びした感じのまなざしも、それはそれですごくすてきだったと我ながら思ったりもします」
忘れてはならないのが、adieuの音楽を形作る強力な作家陣だ。アレンジメントのYaffleを筆頭に、小袋成彬、カネコアヤノ、君島大空、柴田聡子、塩入冬湖、澤部渡、川谷絵音らが、それぞれの視点からadieuという表現者と向き合ってきた。ある楽曲では一人の主人公として、またある楽曲では歌声そのものを楽器のように扱うなど、発想は実にさまざま。その自由なクリエーションが、唯一無二の音楽世界を築き上げている。
「作家さんからの曲は自分をイメージして書いてくださったのか、それともまったく別の人物を思い描いていたのか、最初は私にも分からないこともあって。でも私は曲の中の主人公をすべて自分自身のこととして受け止めながら、『私ならこの歌詞をどう届けるだろう』と一つひとつかみ砕いて、歌い方や表現を考えていきます。その過程で自分でも知らなかった一面に出会えることがありますし、聴いてくださる方も、それぞれの受け止め方や気付きを見つけてくださると思っています。そういうところも、このプロジェクトの面白さですね」
adieuという存在を本人はどう捉えているのか。その問いに返ってきたのは、意外にも「分からない方が面白いのかもしれません」という答えだった。
「何も知らない10歳くらいの頃からお芝居を始めて、役を通して今の自分にはない要素を自分なりに想像して演じることが多いんですけど、adieuとして歌う時は、役という鎧(よろい)のない状態で、自分の中にいる主人公と近い部分を呼び覚ましながら、受け身の自分で歌うという感覚なんです。そこに面白さが隠されている気がしていて。だから『adieuとはこんな存在です』と決めつけずに、いつまでも分かりきらない方が面白いのかなって」
7月29日にリリースされた新曲『Wanna me』は、これまでのadieuにはなかった新たな表情を見せる1曲だ。作詞・作曲は、これまでも数々の楽曲を共に生み出してきた柴田聡子が担当。本人も「意外性があった」と語る。
「柴田さんとご一緒するのは今作で4作目です。柴田さんの音楽は、日常の風景や身近な人の心の機微を丁寧に描く作風が印象的なのですが、今回は『本好きの下剋上 領主の養女』のエンディングテーマということもあって、物語に寄り添った世界観が描かれていました。歌詞もメロディーもこれまで以上にキャッチーで、新鮮な驚きがありましたね。主人公が物語全体を真上や遠くから見つめているようなスケール感も感じられたので、私もアニメの主人公・ローゼマインを意識しながら、いつもとは少し違うアプローチで歌いました」
では、adieuはどのように楽曲を自分のものにしていくのだろうか。その制作過程についても明かした。
「私は毎回、曲をいただくと、レコーディングの前に歌詞を自分の手で紙に書き写しながら、想像力を膨らませるんです。文字をそのまま追って歌うよりも、自分の字で書くことで景色や登場人物の姿が自然と浮かんできて、その世界に入り込める気がするんです。adieuの楽曲は、暗闇や影、夜を思わせる世界観のものが多いのですが、『Wanna me』は夜明けの光のような明るさがあって、これまでにない主人公の強さも感じました。フレーズごとにさまざまな情景が広がる曲だと思ったので、一つひとつの場面を大切に思い描きながら、ブライトな声を意識して歌いました」
音楽を愛する一人のリスナーとして、adieuは楽曲とどう向き合っているのだろうか。返ってきたのは、音楽と「香り」「記憶」を重ね合わせる、彼女らしい感性にあふれた答えだった。
「個人的に、音楽って香りに近いものがあると思っていて、『この匂いを嗅ぐと、あの頃を思い出す』というように、香りと記憶ってすごく結び付いていますよね。音楽も同じで、私にとっては記憶を呼び起こす装置のような存在なんです。幼い頃、家族でメキシコに住んでいたんですが、その頃に聴いていた音楽を今聴くと、当時の景色や空気、香りまで鮮明によみがえってきます。そんな感覚で『Wanna me』を聴くと、私たちの日常にはない、もっと遠い世界や時代の空気をまとったような香りを感じます」

ファンに愛される『よるのあと』をセルフカバーした理由
カップリングには、ファンの間でもadieuの原点として愛される『よるのあと-another night in chamber-』を、弦楽器を主体としたアレンジでセルフカバーした。なぜ今、あえてこの楽曲を歌い直そうと思ったのか。
「長く愛されてきたこの曲をセルフカバーをしたら面白いんじゃないか、と思ったのがきっかけです。初めて歌ったのは17歳の頃で、当時は背伸びをしながら精いっぱい向き合っていたことを覚えています。それからこの曲は私の手を離れ、長い時間をかけて、聴いてくださる皆さんそれぞれの思いに寄り添う一曲へと育っていきました。だからこそ、『今の自分が歌ったらどんな表現になるんだろう』という興味が湧いたんです。今回は厳かだけれど、モダンなアレンジで、できる限りシンプルに歌うことを意識しました」
新曲のタイアップ作品にちなみ、話題は読書へと及ぶと、adieuは「本は大好きです」と目を輝かせた。
「『本好きの下剋上』は、主人公が希少な環境から一冊の本を生み出そうと奮闘する物語ですよね。何もないところから何かを創造していく、その情熱にはすごく共感しますし、私自身が大切にしている“アナログ愛”にも通じるものを感じました」
読書へのこだわりについても続ける。
「小説やエッセーを読むことが多くて、気になった作家さんがいると作品を片っ端から読みたくなるタイプなんです。この前は綿矢りささんの作品をほぼ読み終えました。最近は短歌にも夢中で、ちょっとした隙間時間の楽しみになっています。特に現代短歌の歌集がお気に入りで、装丁がきれいなものも多いので、つい手に取ってしまいます。音楽でいう“ジャケ買い”みたいな感覚ですね(笑)。短歌はその日の気分で好きなページを開いて楽しめるところも魅力だと思います。決して何かを身に付けるためではなく、純粋に活字が好きなんです。時間があればずっと本に触れていたいですし、そこから生まれる新しい発見や体験がたまらなく好きです」
本を愛し、言葉を大切にするadieu。だからこそ、SNSで発信する一言にも強い責任を感じているという。
「やっぱりコロナ禍は大きかったと思います。あれ以来、人と人が顔を合わせて話す機会が少しずつ減ってしまったように感じています。SNSを見ていると胸が痛くなるような言葉に触れることもあるので、自分が何かを発信する時は、『この言葉で誰かを傷付けないだろうか』と一度立ち止まって考えるようにしています。2019年に出演したドラマは、まさに言葉や誹謗中傷と向き合う作品でした。劇中には合言葉があって、発信する前に一度グッとこらえ、自分の中で言葉を吟味することの大切さを教えてもらいました。簡単なことではありませんが、自分の言葉にはきちんと責任を持ちたいと思っています。だからこそ、私が発信する言葉は、誰かの気持ちが少しでも明るくなったり、ほっとできたりするものであってほしい。そんな思いを大切にしながら届けています」
□adieu(アデュー)上白石萌歌のクリエイティブコンソーシアム。2017年秋、映画『ナラタージュ』の同名主題歌でデビュー。19年に正体を明かし、本格始動。以降、Yaffle、小袋成彬、カネコアヤノ、君島大空ら豪華な作家陣が参加する作品が続き、『よるのあと』はロングヒットを記録。ライブも初ワンマンからツアーまで人気を集め、ソールドアウトが続いた。2026年4月にアルバム『adieu 5』を、7月29日にニューシングル『Wanna me』をリリース。
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