玉川太福、浪曲師として60余年ぶり老舗寄席でトリ 神田伯山「歴史の目撃者になりましょう」
人気浪曲師の玉川太福が、演芸史に金字塔を打ち立てた。21日に初日を迎えた東京・新宿末広亭夜席(30日まで)で、浪曲師として60余年ぶりとなる主任(トリ)という大役を無事に務めた。講談師の神田伯山がXで「浪曲主任興行。歴史の目撃者になりましょう」と呼びかけた10日間芝居。320の客席は、立ち見が出る熱気で、45歳の太福は「初舞台のような気持ちになった」と手応えを口にした。
演芸史の残る浪曲主任興行の初日「全部出したい」
人気浪曲師の玉川太福が、演芸史に金字塔を打ち立てた。21日に初日を迎えた東京・新宿末広亭夜席(30日まで)で、浪曲師として60余年ぶりとなる主任(トリ)という大役を無事に務めた。講談師の神田伯山がXで「浪曲主任興行。歴史の目撃者になりましょう」と呼びかけた10日間芝居。320の客席は、立ち見が出る熱気で、45歳の太福は「初舞台のような気持ちになった」と手応えを口にした。(取材・文=渡邉寧久)
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文化庁芸術祭新人賞(2017年)、浅草芸能大賞新人賞(20年)、令和3年度花形演芸大賞銀賞(22年)。6年の間に、由緒ある演芸畑の賞を立て続けに受賞した太福が登場すると、「たっぷり!」「待ってました!」の掛け声が上がった。強い拍手が鳴りやまず、前のめりになる観客を太福は「そんな頑張らないで。(この先)30分もありますから」と笑いでいなした。
上座には、曲師の玉川みね子が鎮座した。師匠・故玉川福太郎さんのおかみさん(妻)で、師匠亡き後は、弟子の太福の成長を、糸で支えて来た“演芸バディ”だ。
太福がまくらをしゃべっている段階で早くも鼻をすすり始め、「泣いていたと思います」(太福)。寄席を大切にしていた福太郎の思いを弟子がしかと受け継いでいることに、感情表現豊かなみね子師匠は、涙を我慢できなかった
太福は千葉大法政経学部卒。26歳で玉川福太郎門下に入門し、精進を続けてきた。初めて寄席の定席公演に出演したのが、18年5月。「確か代演(=休みの芸人に代わって出ること)でした。あれから6年半。ずいぶん早く、こんな機会を頂だいすることができた」と感無量で、満場の客席を見渡し「普段、独演会をやってもこんなに入らないですよ」と自虐気味に笑わせてから、本題に入った。
初日に選んだネタは「陸奥間違い」。金策のために江戸に出て来たばかりの男を使いに出した結果巻き起こる、“勘違い借金騒動”というめでたい噺で、師匠・故福太郎も得意にしていた。
普段の持ち時間は15分程度だが、この日はたっぷり40分。「時間を気にせずにやれるっていうのが寄席で初めてだったので、それがありがたい。時間に追われなくてやれるのは、浪曲には幸せで、ダイジェスト版にならずに済む」とゆったりとした尺に感謝し、「初舞台のような気持ちになった」と、初々しい感覚を味わったことを明かした。
「今回のトリは、何かを成し遂げたわけじゃない。襲名とか受章のごほうびではなく、普段の延長線上にあるトリ」と歴史的特別感がある一方で、あべこべに特別感のないことによる価値を認識し、「これまで浪曲師としてやってきたことが間違ってなかったのかなと思わせる時間でしたね。浪曲やっていてよかった」としみじみ伝えた。
太福の持ち味は、古典と銭湯などをテーマにした身辺雑記のような新作、映画会社の松竹や山田洋次監督の公認でうなっている映画「男はつらいよ」の浪曲版の3本の矢だ。初日には古典を選んだが、「(この10日間で)新作もかけたいと思います。18年間やってきている玉川太福だと言えるものを全部出したい。(ネタの)季節も関係なしでやっていきたいと思います」と意気込みを示した。なお、この日は座っての高座だったが、今後何日間かは、浪曲本来の姿でもある立ったままでうなる予定だという。