メジャーデビューした「ゆいにしお」会社員と二刀流 「理由は2つあって…今はとても良い関係」

シンガー・ソングライターのゆいにしおが21日、メジャーファーストシングル『ワークライフアイランド』をリリースした。昨年末に話題の人物を表彰する「LINE NEWS AWARDS 2022」で、「NEXT NEWS賞」を受賞し、音楽プロデューサーの亀田誠治氏が「2023年のスタンダード」と評した新人だ。一方で、メジャーデビュー後も仕事と音楽を両立している。そんなネクストブレイク候補の素顔とは。

これまでを振り返ったゆいにしお【写真:冨田味我】
これまでを振り返ったゆいにしお【写真:冨田味我】

ゆいにしお 21日にメジャーファーストシングル『ワークライフアイランド』をリリース

 シンガー・ソングライターのゆいにしおが21日、メジャーファーストシングル『ワークライフアイランド』をリリースした。昨年末に話題の人物を表彰する「LINE NEWS AWARDS 2022」で、「NEXT NEWS賞」を受賞し、音楽プロデューサーの亀田誠治氏が「2023年のスタンダード」と評した新人だ。一方で、メジャーデビュー後も仕事と音楽を両立している。そんなネクストブレイク候補の素顔とは。(取材・文=福嶋剛)

 ゆいにしおの創作活動の原点は、子どもの頃に遡(さかのぼ)る。幼い頃から絵画やピアノに親しみ、学校では友達のノートにオリジナル漫画を描いていた。

「ちょっと恥ずかしい話ですが、小学1年生の時にお気に入りのぬいぐるみを私がプロデュースするという遊びをしていて、『デビューハート』というデビュー曲を作って家族の前でぬいぐるみコンサートを開いたんです(笑)。他にも友だちと『リレー小説』という交換日記みたいに1ページずつ順番に物語を書いていく遊びをやっていて、小さい頃から人前で何かを発表することが好きでした」

 音楽は家族の影響で始めた。

「兄が持っていたギターを中学1年から弾き始めて、大好きだったYUIさんを見て弾き語りを始めました。音楽的な影響は完全に父親です。父が好きな山下達郎さんやはっぴいえんどなど、シティーポップ、渋谷系の音楽を聴かされて育ったので、私も自然と好きになりました。大学に入るとシティーポップ好きが集まる音楽サークルに入って、最初に私が披露したのが、『風をあつめて』の矢野顕子さんが歌ったバージョンです。父親世代が好きな音楽を同世代のサークル仲間に認めてもらったことで、本格的にシティーポップの弾き語りをやってみようと思いました」

 大学に入り、ライブハウスで初めてオリジナルの曲を披露した。

「偶然、最初のライブが新人オーディションでした。最終審査まで進み、私みたいにシティーポップを弾き語りで歌う人はあまりいなかったので、『このまま続けていったら面白いかも』と自信を持ちました。それで『オーディション』とネットで検索して、受けられるものは片っ端から応募しましたが、何度挑戦しても決勝止まり。なかなかグランプリを獲れず、この世界の厳しさを知りました」

 扉が開いたのは2018年。レコード会社主催の「半熟オーディション2018」でようやくグランプリを獲得した。

「結果は後日発表でした。当日は全然手応えがなくて、客席後方で審査員の人たちが無表情で腕組みをしながら見ていたので、『今日もダメか……』とあきらめて名古屋に帰りました。そしたら、後日メールでグランプリの通知が届いて、『ウソでしょ!』って驚きました」

 東京のオーディション会場まで応援に駆けつけた家族も、一緒に受賞を喜んだ。

「家族みんなで応援してくれました。でも、両親は『好きで続けるのは良いけれど、ほかに自分で生活できるくらいの仕事もちゃんと見つけてね』と言って、決して『音楽だけで頑張りなさい』とは言いませんでした」

GP獲得も「育成枠」 CD手売り、コロナ禍でライブできず、行き詰まりに

 グランプリ獲得でもメジャーデビューの道が開けたわけではなく、プロ野球でいう育成枠からのスタート。1軍に上がれる保障など何一つない。しかし、覚悟を決めて上京を決意した。

「大学を1年間休学して上京し、1枚目のミニアルバム『角部屋シティ』を全国流通でリリースしました。今まで紙に入れたCDを手売りしていたので、ようやくスタートを切れたという感じです。その後、コロナ禍でライブ活動ができなくなり、行き詰ってしまったんですが、大学の授業もリモートに切り替わったので、そのまま東京で音楽活動を続けることになり、アルバイトではなくインターンとして都内の会社に通い始めました」

 上京してからインディーでの活動は3年間続いた。

「この3年間は、ひと言では言い表せない時間です。もちろん、楽しい瞬間もいっぱいありました。でも、コロナ禍とは関係なく、マネジャーやスタッフの方たちが、頑張って宣伝しても、すぐに反響をいただける訳でもなく、自分でも手応えを感じることがあまりなかったので、『このままで良いのかな』という迷いもたくさんありました」

 そんな彼女の心をつなぎとめたのはマネジャーだった。

「グランプリを獲ってから、ずっと粘り強く私を育ててくれた人で、『自分以外で頑張っている人が他にいる』と思えたことがとても大きかったです。同じようにコロナ禍で大変な思いをしながら、ステージに立っていたシンガー仲間たちからも、たくさんのパワーをもらいました」

 もちろん、家族の支えも大きかった。

「私は歌で感情を吐き出せるのに実際に感情を吐き出すのが苦手な人間です。私をよく分かっている両親は、私が辛そうにしていると大好物のウナギを送ってくれました。それを一人で黙々と食べながら、『おいしい、おいしい』と言って泣いていました。シュールな光景ですよね(笑)」

会社員との両立について語ったゆいにしお【写真:冨田味我】
会社員との両立について語ったゆいにしお【写真:冨田味我】

両立効果、会社員の目線で生まれた楽曲の数々「音楽と同じくらい仕事も好き」

 そして昨年、ワンマンライブで念願のメジャーデビューが発表され、10月にファーストフルアルバム『tasty city』をリリースした。

「家族に電話で報告したら『頑張ってきてよかったね』って言ってくれました。兄は今でもアマチュアバンドでギターを弾いていて、本当は私よりもプロになりたい気持ちが強かったのではと思いますが、兄は私の活躍を一番応援してくれる人です。新曲が完成すると今でも一番初めに聴いてもらいます」

 メジャーデビューして8か月。環境の変化はないが、意識だけは変わってきたという。

「この前、ボイストレーニングの先生に『今までは(スタッフに)支えられてきたけど、これからはゆいちゃんが支えていかなくちゃいけないのよ』と言われて、ちょっと背筋がピンと伸びました。『もっとハートを鍛えなくちゃ』って思いました」

 それでも、会社勤務を続けている。

「メジャーデビューしても仕事を続けている理由は2つあって、1つは『音楽と同じくらい仕事も好きだから』。もう1つが『音楽を一生続けていくため』です」

 音楽と仕事を両立することで相乗効果も生まれるという。6月21日にリリースしたメジャーファーストシングル『ワークライフアイランド』は、タイトル通り、会社員目線の曲が並ぶ。1曲目の『We Are Girls Forever!』は、社会人女子の切ない夏をユーモアたっぷりに歌い、2曲目の『SUMMER TUNE』は、会社員とシンガーという自身の心境をつづっている。3曲目の『アイスコーヒー』では、マッチングアプリを使った現代の悩める若者の恋愛事情を描いた。

「仕事仲間たちとのコミュニケーションは音楽とは違う刺激があって、音楽に戻ると会社員としての経験や同僚の恋バナが曲を作る上でのモチーフになっていたり、とても良い関係を保てています。いつも無意識に曲を書いているんですが、やっぱり、少しずつ大人になっている自分と曲が一緒に歳を重ねている感じ。それはあるかもしれません」

 最近は音楽フェスの出演も増え、自分の音楽を届けられている実感が徐々に湧いてきたという。

「地元の友達や仕事仲間から『曲を聴いたよ』とか『ドラマで流れていたね』という話をもらうことも多くなって、『少しずつ届いているのかな』と思うようになりました。昔はステージでも緊張してお客さんの表情を見ながら歌うことができなかったんですが、最近やっと慣れてきて、この前、出演したフェスの会場は、とても涼しくて、私の歌で“うとうと”しながら聴いてくれた方を見ながら、『あの人に癒しを届けられたぞ』って、そういう光景もうれしくなってきました(笑)」

 7月からは東京、名古屋、大阪のライブハウスを回る。これからの抱負を聞くと、『今までの距離感を大切に』と話した。

「私はリスナーと一緒に歳を取っていくようなシンガーになりたいんです。会場の大きさは関係なく、『辛いよね』とか『頑張ろうね』と近くで言ってあげられるようなライブをしたいですし、そんな距離感を大切にしながら曲を書いていきたいと思っています」

 その上で「お茶の間進出」への野望も明かした。

「真面目すぎる性格なので、真面目にならないで、今を思いっきり楽しみながら、音楽も仕事も続けていきたいと思います」

 音楽への情熱と冷静さを持ち合わせた新しいタイプのシンガー。この先の動きも見ていきたい。

□ゆいにしお 2016年から地元愛知県で弾き語りをスタート。18年、日本コロムビア主催「半熟オーディション supported by Eggs」でグランプリを獲得。19年、1st Mini Album『角部屋シティ』をリリース。22年10月、1st Full Album『tasty city』で日本コロムビアよりメジャーデビュー。12月、「LINE NEWS AWARDS 2022」の「NEXT NEWS賞」を受賞。趣味はサウナ、料理、飲酒。

ゆいにしお 公式HP:https://yuinishio.com/
インスタグラム:https://www.instagram.com/_yuinishio_/

次のページへ (2/2) 【動画】ゆいにしおがシュガーベイブの『DOWNTOWN』を弾き語りカバー「うまい」「ファンになったよ!」
1 2
あなたの“気になる”を教えてください