レストア重ねて「ポルシェと同じ感覚」に “便利じゃない”50年前の旧車はへこみも愛おしい

最初は「超カッコ悪い」と感じた1台の修復・カスタムを重ねるうちに、大事な人生訓を教わった。63歳の男性オーナーが乗っているのは、ドイツの世界的メーカー、フォルクスワーゲン(VW)のタイプ181(1973年式)だ。もともとは軍用車がルーツで、イカつい独特なフォルム。ユニークな愛車物語に迫った。

珍しいフォルクスワーゲン タイプ181が愛車だ【写真:ENCOUNT編集部】
珍しいフォルクスワーゲン タイプ181が愛車だ【写真:ENCOUNT編集部】

カルマンギアが忘れられず タイプ181をLA風に、自己流カスタム

 最初は「超カッコ悪い」と感じた1台の修復・カスタムを重ねるうちに、大事な人生訓を教わった。63歳の男性オーナーが乗っているのは、ドイツの世界的メーカー、フォルクスワーゲン(VW)のタイプ181(1973年式)だ。もともとは軍用車がルーツで、イカつい独特なフォルム。ユニークな愛車物語に迫った。(取材・文=吉原知也)

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 人生の後悔が、レアカーとの出合いを引き寄せた。

「もともと56年式のVW カルマンギアを持っていたのですが、訳あって、売ってしまったんです。そのお金でアメ車を買ったのですが、アメ車はアメ車で楽しいですが、ずっと後悔していました。(VWの)空冷エンジンのバタバタな感じ、操作する時もガチャガチャしていて。『人車一体』のあの感覚が忘れられなかったんですよ」。

 いつかまたカルマンギアを、と思っているうちに高騰化してしまい、「自分の収支では考えられないぐらいの値段になっちゃって」。途方に暮れていた。

 10年ほど前、知人の業者から、米国から輸入されたこのタイプ181の存在を聞いた。「手入れが行き届かなくて困っている、という話でした。その時に、自分の中で今までくすぶっていた思いが、一気に出まして。『この子の面倒を見させてください』と。それで譲ってもらったんです」。こうしてめぐりあった。

 一定期間放置されていた分、レストアは一筋縄ではいかなかった。男性オーナーには信念がある。「ロサンゼルスの海岸線を走っているようなクルマに興味があるんです。向こうの人は、古いワーゲンをポルシェスタイルにちょっとカスタマイズして楽しんでいる人が多いんですよ。それに憧れているんです」。

 元の形を再現するというより、「残すところは残す」。そのうえで、「あたかもカリフォルニアのラグナビーチを走っているようなテーマ」を据えて、自己流スタイルのカスタムを続けている。

 ほろが付いていたが、思い切って処分。完全オープン仕様に生まれ変わった。「晴れの日のドライブ専用です」。ボディーカラーは、お茶をイメージしたグリーンの色合いに塗り替えた。

 きれいに磨きをかけており、後部座席のシートの裏側にある鉄の部分は、メッキ加工を施してピッカピカに。「それに、ランニングボードを磨いたら光ってきたんです。プラスチックも、アルミも、磨いていると輝きを取り戻すんですよ」とのことだ。リア部分に設置されたエンジンにも、ちょっとした工夫を。「アメリカのドラッグレースでよく使われる、MSDと呼ばれるシステムを搭載しています」という。

「私の中では、ポルシェと同じ感覚で乗っているんです」

 こうして「超カッコ悪い」という印象から、どんどん愛着がわいてくるように。「へこみやひずみ、それがいとおしく思えてくるんです。交換する部品もありますが、今あるものを残して磨いていく。その自分と向き合う時間も楽しいんですよ」と笑顔を見せる。

 次第に、人生観も変わってきた。

「私はちょっと仕事に厳しい面があって、部下に対して『あいつは仕事ができない』『飲み込みが悪い』と怒ることもあったんです。50代でこの非力なタイプ181を手に入れました。ちょっとずつ古い車をレストアしていくうちに、そうやって怒る自分は間違っていたんだ、と気付くことができました。このクルマに教えられたんですよ」。

 それに、「私の中では、ポルシェと同じ感覚で乗っているんです。ホイールは、ポルシェ911のオプション用パーツを付けています。オマージュです」。誇らしさを感じながらのドライブだ。

 座高の低い運転席からの眺め。「屋根がなく、パノラマが広がってね」。自分だけが知っている、最高の景色だ。

 これからも、自分流のカスタムをちょっとずつ。それに、YouTubeチャンネルを立ち上げ、クルマ愛の発信にも取り組むようになった。「このクルマには、オートクルーズコントロール機能も、自動ブレーキもありません。ラジオはうるさくて聞こえません。便利じゃない、そこがいいんです。免許返納まで、あと10年ぐらいかなあ。このクルマと、一緒に成長していきたいですね」と語った。

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