元ひきこもりで「無気力ファイター」と呼ばれた真琴が11月1日、東京・後楽園ホールで「真琴デビュー15周年記念興行～僕たちは萌え盛る旅の途中で出逢い、～」を開催する。10周年では当時所属のREINAで記念試合（16年10・28後楽園、真琴＆TAKAみちのく組VSさくらえみ＆TAJIRI組）を行ったが、自身プロデュースの自主興行となると今回が正真正銘初めてだ。「私ってホントは自主興行の大会とか絶対やりたくないタイプなんですけど…」と恥ずかしがる真琴（わかる！）。ではなぜ、プロレスの聖地・後楽園で、しかも平日開催の自主興行を行うというのだろうか？

「やっぱり、15年に一度くらいは主役になってチヤホヤされたいので。ウフフ」

　真琴は、プロレス界に入ってからさまざまな意味で画期的、先駆けになるようなことを実現させてきた。それは狙いでもなんでもないが、極度の内気にもかかわらず自分の好きなもの、やりたいことをはっきり口にするタイプでもある。ある意味怖いもの知らずなその性格をリング上に反映できるのが、彼女のたどり着いたプロレスだった。

「学校一暗い」と距離を置かれていた真琴は中学時代、「人と会うのが怖くなり」登校拒否。高校も1年ほどで中退してしまったという。自宅にひきこもると、テレビばかり見る毎日だった。するとスカパーで見つけたWWEにハマり、ディーバのトリッシュ・ストラタスに会いたいと思うようになる。「どうしたら好きな人に会えるのかなと考えたときに、私も同じ道を進めばいいんだと思って、プロレスラーになろうと思ったんです」。スポーツ経験がほとんどないにもかかわらず…。

　人には会いたくないけれど、大好きな人には会いたい。真琴はある日、全日本女子プロレスに「さくらえびキッズ」なる子どもたちを多数引き連れて入場するさくらえみを目にした。女子プロレスは母親が好きで、一緒に見ることが多かったという。その入場に衝撃を受けると、選手名鑑で「この人はなんなんだ？」とチェック。「団体を旗揚げして選手募集中と書いてあったんですよ。ここだ！　と思って運命を感じました」

　世界のWWEから、マットプロレスの元祖とも言える小劇場・千本桜ホールへ。さくらから紹介された真琴は、それこそ「巨人の星」の星明子のように柱の陰から半分だけ顔を出し、こちらを様子見するような女の子だった（当時16歳）。デビューしたのはいいものの、リストロックで手をひねられるだけでギブアップする衝撃といったらない。本来なら決してデビューできるレベルではなく、リング（この場合はマット）に上がるなど間違いなく論外。デビューまで何年もかかるだろう。

　しかし、彼女は逃げなかった。ついたニックネームは「無気力ファイター」。無気力なのにファイターとはなんなんだ？　史上最弱と言われた弱さがかえって評判となり、リングデビュー後も最弱街道をまい進した。が、これこそがプロレスラー真琴の個性。しかしながら、本人はそれに気づいていないようで…。

「さくらさんには不登校だったこととか絶対に秘密にしてほしいと事前にお願いしていたんですけど、デビュー戦を迎えた直後に、『あの子は引きこもりで』みたいなことをみんなの前で話し出して、ホントに号泣しました。言わないでって言ったのに…」

　たとえ周りからどう見えようと、本人は一生懸命やっていたのだという。やめなかったのは「プロレスしかない」と決意していたから。「いま思えば世界最弱も分かりますけど、私はディーバを目指していて、頑張ってるつもりだったんです」。弱さを自覚していないこともあってか、真琴は次第に自己主張を始める。新人の立場や実力からしても本来なら抹殺されるべき事項だが、彼女は強引に自分の好きなもの、やりたいことを押し通すようになる。それにはさくらも、周りもバカ負けして面白がった。