「楽屋弁当一番人気」――。いつしか芸能人やテレビ関係者からそんな呼び方をされているお弁当がある。鳥久弁当がそれだ。バラエティー番組でも頻繁に取り上げられることから、特にテレビ業界に携わっている人間なら知らない人はいない。現在、創業から93年と老舗ではあるものの、言ってしまえば街にある単なるお弁当屋さんのはず。にもかかわらず、近隣住民の方はもちろん芸能界を含め、幅広い層から根強い人気を誇る。その理由は何か？　今回は鳥久弁当こと「鳥専門の弁当屋」蒲田 鳥久の小原秀之社長に人気の秘密とコロナ禍での対策を伺った。（取材・文＝“Show”大谷泰顕）

「現在の販売形式になったのは1972年頃なのですが、そのころはまだ普段『弁当を食べる』という習慣がほとんどなく、野球場やイベント会場で食べるものでした。だからお弁当というカテゴリーは一般的ではなかったんですよ」

　小原社長いわく、令和の今では一般的に存在する弁当屋も、今から50年ほど前に当たる1970年代、つまり昭和40年後半辺りから、徐々にその名を知られるようになったという。

「まずは1973年頃にできたコンビニですが、最初はおにぎりに力を入れていて、弁当には力を入れていなかったんです。そして1980年頃からはほっかほっか亭が大きなインパクトとなり、それにコンビニが反応し、温かい弁当ブームとなりました」

　小原社長は懐かしそうにその当時を振り返った。

　鳥久弁当が一般的になったのは、72、73年頃。まだ国鉄時代、東京大田区の蒲田駅ビル（民間経営）と交渉して、国鉄蒲田駅の構内にお弁当を売るスペースを確保できたあたりから。当時国鉄は場所貸しができず、商売をしてはいけなかった。

「そのころは、国鉄から民間の駅ビルが場所を借りて、駅の構内でお弁当の販売をさせてもらったのです」

　しかし冒頭で述べた通り、最近はバラエティー番組でたびたび取り上げられる、もしくは芸人やタレントの口から「鳥久弁当」の名前が出てくることがある。つまりロケ弁としての知名度が他の追随を許さない。そんな印象がある。

「テレビ局には一度も営業をしたことがないんです。これは偉そうに言っているのではなく、ウチは店頭販売の店だから、そういう発想がなかった。ただ、今はなくなってしまったけど、以前は川崎球場にお弁当を出していたし、三浦海岸や大磯ロングビーチに出店してお弁当を売ることもあったんです。だから注文を受けて配達するベースはあったんですね」

　そして今から40年ほど前、1人の著名な芸人からのご指名がかかる。

「その頃、TBSの番組に出演されていた横山やすしさんがどこで食べたのか。『あそこで食べた弁当がうまかったんや。あれを置いといてくれへんか』と言ってくれたそうなんです。それでその頃に楽屋にお持ちしたと。いや、リハーサル室だったかな。それが1つの始まりだと思います。その辺から番組の制作の方が使いたいという話が徐々に出てくるようになりました」

　だが、その当時はTBS以外のテレビ局からの注文は全て断っていたという。

「その頃、ウチは蒲田の駅ビルに店を出していたため、非常に店売りの比率が高かった。もちろん、いろいろな会社の方からいただいた注文、例えば野球大会とか運動会とかそういった注文もお受けしていました。それだけでかなり手いっぱいだったんです。だからそれらを優先すると、他を断らざるを得なかったんですね。それでも、横山さんが『どうしても…』とお声をかけていただいた番組がTBSさんだったので、基本的にはTBSさんの注文だけ。それ以外はお断りさせてもらっていました。だから決してマスコミを使って人気を出そう、なんてことは全くなかったんです」