“超貴婦人”桜井麻衣が語るMARIGOLDでの2年半 挫折、覚悟…退団を決断したきっかけ

“超貴婦人”桜井麻衣が、プロレス団体・MARIGOLD(マリーゴールド)を退団する。10月24日、両国国技館で迎える最後の試合を前に、桜井を直撃。MARIGOLDで過ごした約2年半の日々と、退団を決断するまでの胸中を聞いた。

MARIGOLDを退団することを公にした桜井麻衣
MARIGOLDを退団することを公にした桜井麻衣

STARDOMを辞めた理由

“超貴婦人”桜井麻衣が、プロレス団体・MARIGOLD(マリーゴールド)を退団する。10月24日、両国国技館で迎える最後の試合を前に、桜井を直撃。MARIGOLDで過ごした約2年半の日々と、退団を決断するまでの胸中を聞いた。(取材・文=“Show”大谷泰顕)

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 2024年2月、ロッシー小川氏がSTARDOMを解雇されたことをきっかけに、新団体設立の動きが注目を集める。同年5月4日、MARIGOLDは後楽園ホールで旗揚げ戦を開催。STARDOMから5人の選手が参加するという衝撃的な船出は、女子プロレス界に大きなインパクトを与えた。

 その5人のうちの1人が桜井だった。

 旗揚げ戦は満員の観客で埋まり、期待は最高潮に達していた。しかしその熱狂は、桜井にとって必ずしも追い風にはならなかった。

「旗揚げ戦は注目度が高くて、満員御礼だったぶん、元STARDOMメンバーに対しての期待値ってものすごく高かったと思うんですけど、自分はその期待値を超えられなかったっていうか。『こんなもんかよ』っていう、期待していてくれたぶん、裏切られたみたいな感じで、お客さんが『なにやってんだよ、桜井!』みたいな声はすごく多かったように感じます」

 期待が大きかったからこそ、失望の声も大きかった。試合後には誹謗中傷にもさらされた桜井は、自身の未熟さを痛感したという。

「自分も試合後に、不完全燃焼っていうか、自分の未熟さを痛感して、すごいもう……泣きました」

 華々しい旗揚げの舞台で味わった挫折。それは、桜井にとって忘れられない出発点となった。

 しかしながら、そもそもなぜ桜井はSTARDOMを離れ、MARIGOLDに活路を求めたのか。

 決して、所属団体への不満が理由だったわけではない。桜井が求めていたのは、自分自身の可能性を切り開くための環境だった。

「会社に不満があったというよりかは、あの頃って選手も多い分、自分はまだまだ下の若手って言われるキャリアと立場にいたんですよね。そこからどう這い上がっていこうかと考えた時に、8人タッグとかがどうしても多くなってしまうなかで、シングルで闘える選手になりたいっていう気持ちがあったので、その可能性があるならシングルのベルトを巻きたいと思って」

 そう考えた桜井は「そしたら、この大人数のなかでいきなりそこまでいくのって難しいんじゃないか」と現実的な答えと向き合い、「年齢もあったので、そこは考えてしまったんですよね」と自らの立ち位置を変え、シングルプレーヤーとして上を目指す。そのための決断だった。

 だが、新たな環境で待っていたのは、思い描いたような順風満帆のスタートではなかった。それでも桜井は、旗揚げ戦での悔しさを無駄にはしなかった。

「もしあの日に、あそこまでの悔しい思いをしていなかったら、今の桜井麻衣はなかったとも思いますね」

 あの日の涙が、桜井を変えるきっかけになった。

 そして、その意識をさらに奮い立たせる存在が現れる。“太陽神”Sareeeの存在だった。

桜井麻衣によるMARIGOLD最後の試合は「ラヴェイアンローズ」での6人タッグ戦に
桜井麻衣によるMARIGOLD最後の試合は「ラヴェイアンローズ」での6人タッグ戦に

“太陽神”Sareeeとの一戦が突きつけた現実

 2024年6月16日、名古屋大会で桜井はSareeeとのシングルマッチに臨むことになった。

「それをきっかけにですよね。その日はUN王者決定トーナメントが組まれた日だったんですよね。でも私は所属選手なのに、メンバーに入ってもいないこともそうだし、お客さんからも『なんで入ってないの?』っていう声もないことにすごく悲しくて。あれを機に、この人に取って欲しいって思われるような選手にならなきゃって覚悟をした日だったと思います」

 自分は、まだ期待される存在にすらなれていないのではないか――。

 その現実を突きつけられたことが、桜井の意識を変えた。誰かに認めてもらうのを待つのではなく、自らの力で「この選手にベルトを巻いてほしい」と思わせる存在になる。そう腹をくくったのだ。

 結果はすぐに現れた。MIRAIとのタッグ「ミライサク」でツインスター初代王座決定トーナメントを獲得。桜井にとっては初のタッグベルトを腰に巻くことができた。

 さらに旗揚げから約3か月後の8月19日には、桜井にとって生涯忘れられない一戦が訪れる。WWE参戦を控えたジュリアとのラストマッチだった。

 ともに練習を重ね、互いを知り尽くした相手だからこそ、ぶつけられるものがあった。

「ずっと練習してきたっていうのはあるので、相手の空気感とか間とかテンポは分かるし、安心してぶつかっていける選手だし、普段から話しているので、すごく試合はやりやすかったっていったら変なんですけど。信頼している選手とやるのは、ちょっと普段とは違う感覚で、自分をさらけ出すことができました。最大限に」

 技術や勝敗だけでは語り尽くせない、2人の関係性が生み出した試合。桜井にとって、自分のすべてをぶつけることのできた一戦だった。

 その後、MARIGOLD初のリーグ戦「DREAM STAR GP」では決勝に進出。林下詩美に敗れたものの、準優勝という結果を残した。

「かなり自分の中では、ガーッていけたGPではありました。あの時はギラギラしていました。ジュリアさんが抜けた後、『大丈夫か?』っていう声があったんですよ。『MARIGOLDはどうなってしまうんだ?』っていう空気感はあったので、自分が頑張らなきゃってギラギラしてました、ホントに」

 ジュリアが去った後のMARIGOLDを支えなければならない。その思いが、桜井を突き動かしていた。

 やがてジュリアから託された団体への思いを胸に、桜井は少しずつMARIGOLDの中核を担う選手へと成長していった。

リング上では“超貴婦人”の異名通り、ゴージャスさが全身からあふれ出る
リング上では“超貴婦人”の異名通り、ゴージャスさが全身からあふれ出る

青野未来との激闘でむき出しになった「執念」

 年が明けると、桜井は青野未来の持つUN(ユナイテッド・ナショナル)に挑戦するチャンスを得た。

 両者の一騎打ちは、単なる技の応酬にとどまらない、女の情念がむき出しになるような激しい感情のぶつかり合いが「観る側」の心に刻み込まれるような闘いだった。

 桜井にとってはデビュー戦の相手でもある青野。互いに縁の深い存在でありながら、歩んできた道は違っていた。

「青野未来さんはデビュー戦の相手でもあるし、縁のある方でもありつつ、自分はアクトレスを辞めて、STARDOMにいる期間のほうが全然長い経歴になって、進んできた道は違うけれども、また縁があって。自分は自分でプロレスを本気でやってきたっていうプライドでも負けたくなかったし。でもMARIGOLDに来たら、片や順調に進んでいる人(青野)と、ホントになかなか実績が残せない自分と。その“執念”が試合に出たんじゃないかなって」

 青野が着実に実績を積み上げていく一方、自分は思うような結果を残せない。その焦りや悔しさ、そしてプロレスに懸けてきた自負が、リング上でぶつかり合った。

 当時、団体の最高峰と位置づけられていた「赤いベルト」ことワールド王座にはSareeeが君臨。一方、「白いベルト」と呼ばれるUN王座には、まだ十分な注目が集まっているとはいえなかった。

 だからこそ、桜井には譲れない思いがあった。

「私ならこうしていきたいっていう強い思いがあったんですよ。だから、そのぶつかり合いじゃないですかね」

 さらに桜井は、青野との試合に込めた狙いを明かす。

「(青野は)穏やかじゃないですか。なので、青野未来を怒らせてやろうと思っていました。そういう一面を、私が出してやるじゃないですけど……」

 普段は穏やかな青野の内側にある感情を引き出す。それもまた、桜井が青野戦に仕掛けた勝負だった。

 そして結果として、桜井はSTFで青野からUN王座を奪取。ついに念願のシングル王者の座をつかんだ。

「ここに来た目的はシングルチャンピオンになることだったので、諦めなければかなうんだなって思った瞬間でした」

 STARDOMを離れる時に掲げた目標。それを、桜井はMARIGOLDのリングで現実のものにした。

 さらに今年、MARIGOLDでは6人タッグ王座「3Dトリオス」が新設され、桜井、翔月なつみ、山中絵里奈によるユニット「ラヴィアンローズ」が初代王者に輝いた。

 旗揚げ戦での重圧に押しつぶされそうになっていた姿は、もうそこにはない。挫折を経験し、覚悟を決め、実績を積み上げた桜井は、いつしか団体を支える存在へと変貌を遂げていた。

無視できなかった林下詩美の退団

 シングル王座を獲得し、タッグでも6人タッグでも初代王座をものにした。いつしかMARIGOLDの中核を担う存在になった桜井。それでも退団を決断したのはなぜなのか。

「退団をハッキリ考えたのは今年に入って……。悩んでいることがすごく多かったんですよ」

 そう語る桜井の決断を考える上で、無視できない出来事がある。今年5月、団体を牽引してきた林下詩美がMARIGOLDを退団したことだった。

「もちろん、その件は大きい衝撃だったので……。結構、寝込みました、あれから。詩美さんが辞められたことがショックで……」

 団体の中心人物が去っていく。その現実は、桜井の心にも大きな影響を与えた。

 ただし、桜井が退団を考えるに至った背景には、さまざまな悩みがあったという。桜井は何を思い、どんな未来を選ぼうとしているのか。その答えは、これから歩む道のなかで明らかになっていくのだろう。

 最後に、MARIGOLDでの約2年半を振り返り、桜井自身が選ぶベストバウトを尋ねた。

 しばらく考えた後、桜井が挙げたのは、やはりジュリアとのラストマッチ(2024年8月19日、後楽園ホール)だった。

「やっぱり一番記憶にあるのはジュリアさんとのラストマッチ、うん。あの試合はホントに自分の理想な、あの時できることを全部した試合というか、ですね。一番自分をさらけ出せたと思います。あの試合は技の云々とかではなく、関係性とかもあったと思うんですよ。そういう意味では、トータルしたら、あの試合の印象が一番強いですね」

 技術や結果だけでは測れない、互いの信頼と積み重ねてきた時間。ジュリアとのラストマッチは、桜井にとって、自分のすべてを表現できた特別な一戦だった。

 では、退団後はどのような道を歩むのか。

「フラットです、今。休みたいです。海が好きなんですよ。海に行きたいなあって」

 そう言って笑った桜井。今後の方向性については、まだ何も決めていないという。

 旗揚げ戦での挫折から始まり、覚悟を決め、念願のシングル王座を獲得するまでに至った約2年半。その歩みは、桜井麻衣というレスラーが自らの力で道を切り開いてきた時間でもあった。

 MARIGOLDでの物語は、10月24日の両国国技館でひとつの節目を迎える。

 その先に待っているのは、休息なのか新たな挑戦なのか。それはまだ分からないが、だからこそ、まずは桜井麻衣がMARIGOLDで最後に何を見せるのか。その姿を、しっかりと見届ける必要がある。

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