別所哲也、60代でも「守りに入らない」 還暦の実感なし「年齢で自分の位置を決めない」

池井戸潤氏の小説『民王』が、初めてミュージカルの舞台(9月6日開幕、東京・シアタークリエ、演出・永井誠)になる。現職総理大臣とその息子の心と体が入れ替わる、おなじみの政治コメディーだ。総理大臣・武藤泰山を演じるのは別所哲也。息子の翔役は有澤樟太郎が務める。還暦を迎えてなお、別所の好奇心は衰えていない。新たな挑戦に向かう現在地を聞いた。

インタビューに応じた別所哲也【写真:藤岡雅樹】
インタビューに応じた別所哲也【写真:藤岡雅樹】

ミュージカル『民王』で初の総理大臣役

 池井戸潤氏の小説『民王』が、初めてミュージカルの舞台(9月6日開幕、東京・シアタークリエ、演出・永井誠)になる。現職総理大臣とその息子の心と体が入れ替わる、おなじみの政治コメディーだ。総理大臣・武藤泰山を演じるのは別所哲也。息子の翔役は有澤樟太郎が務める。還暦を迎えてなお、別所の好奇心は衰えていない。新たな挑戦に向かう現在地を聞いた。(取材・文=平辻哲也)


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 今回は、ツバキミチオが脚本を手がけ、角野隼斗が初めてミュージカルの音楽を担当する。別所にとっても、総理大臣役は初めてだ。ベテラン俳優の前に、いくつもの「初」が並んだ。

「まず、僕にとっては初めての内閣総理大臣役ですし、池井戸先生の小説が初めてミュージカル化されるという部分と、角野さんが初めてミュージカルの楽曲を作るとか、そういうものが全部重なっていくので、とても新鮮です。これまでいろんなミュージカルに出てきたんですけど、こういう初めて尽くしの作品は、改めて新鮮だなと思います」

 別所はそう言って、顔をほころばせた。取材が行われたのは、本格的な稽古に入る前のタイミング。ポスター撮影などで顔を合わせていた有澤とも、この日はあらためて作品に向き合う場となった。台本を読み、音楽を聞き、作品の輪郭が立ち上がってきたところだという。

「原作も何度も読んで、台本にはそのエッセンスみたいなものがちゃんと描かれているんですけど、ミュージカルとして音楽と構成自体が新しいものになっているので、そこも見どころだと思います」

 小説、テレビドラマ、そして舞台ミュージカル。同じ『民王』でも、表現の形が変われば、見え方も変わる。別所もそこに面白さを感じている。

「原作の小説、それからテレビのドラマ、そして今度はミュージカル。全く三者三様というか、違ったものになっているけど、でも同じ『民王』の物語がそこにある。何と言っても音楽のキラキラ感というか、多様な美しさ、面白さが素敵なんです。それがミュージカルとしての魅力です」

 別所が演じる武藤泰山は、就任したばかりの内閣総理大臣。しかし、ある日突然、息子の翔と心と体が入れ替わってしまう。政治家としての威厳を持つ父と、遊んでばかりいた大学生の息子。その落差が、物語の笑いと推進力になる。

「これは二重三重の構造の面白さです。内閣総理大臣になるけれども、中身が息子になってしまって対応するという部分と、父親としての泰山が息子の翔に入ってくるという面白さを、本当に楽しんでほしいですね」

 政治を扱う作品ではあるが、説教くささはない。むしろ、政治の世界を外側から眺める庶民感覚と、内側で必死に生きる政治家たちの姿を、笑いの中で浮かび上がらせる。

「現実の政治の世界でありそうな権力闘争とか、僕らから見えている外側から見る政治の世界と、政治の内側に入って演じて、彼らの持っている一生懸命さとか、涙ぐましい必死さとか、そういうものも面白おかしく見せられたらいい。最後は政治家って敵じゃなくて、政治そのものが僕らの生活じゃないですか。そこに住んで、生活をしている民の側から、ちゃんと届けられたらと思います」

 この言葉には、作品の根幹がにじむ。総理大臣と息子の入れ替わりという奇抜な設定の奥にあるのは、政治を遠いものにしない視点だ。笑いながら見ているうちに、政治は誰かのものではなく、自分たちの生活そのものだと気付かされる。

60代の生き方を語った【写真:藤岡雅樹】
60代の生き方を語った【写真:藤岡雅樹】

60歳になった実感なし「元気だし意欲もある」

 別所は昨年、還暦を迎えた。だが、本人に「60歳」の実感は薄い。

「正直、実感がなかったんですね。もちろん還暦だという事実は事実なんですけど、感覚的にはよく冗談で言っているんですけど、気持ちは36歳。自分の思っていた60歳って、もう人生第4コーナーというか、定年退職みたいなイメージを昭和的に持っていたけど、いざ自分がなってみると、いや、まだまだ元気だし、意欲もあるし、やりたいこともある。こういう好奇心とやりたいことがあれば、まだ青春でいけるんじゃないかなと思います」

 還暦は人生の終盤ではなく、もう一度ゼロに戻る節目。別所はそう捉えている。

「1つの節目としては理解しているんですけど、年齢も自分で決めるものかなって、よく言われますけど、ここから先、還暦になって1周回ったので、0歳になって楽しくやっていこうかなと思います」

 60代をどう生きるのか。別所の答えは明確だ。

「守りに入らない。もう60代だからとか、よく30代、40代の人でもそういうことを言う人がいるんですけど、世代論とか年齢で自分の位置を決めない。自分が本当にやりたいこと、守りに入らずに、やりたいことをやりたいように、仲間を作ってやっていく」

 そのために必要なのは、若い世代に学ぶ姿勢だという。共演の有澤とは、ミュージカル『ジョジョの奇妙な冒険 ファントムブラッド』でも共演している。

「有澤さんとは『ジョジョ』でも一緒だったんで、すごく真っすぐでピュアで、僕の10年前を見ているような(笑)。あのキラキラした、真っすぐな若さとか、新しい若い発想とかって、すごく価値のあること。逆に僕らが積み上げてきたものを、とてつもなくすごいことと思わずに、それを全部捨てて脇に置いて、新しいチャレンジをしていきたい」

 キャリアを重ねるほど、人は経験に頼る。別所は、その経験を大切にしながらも、いったん横に置く。だからこそ、新しい作品に飛び込める。

 総理大臣役も、池井戸氏自身によるミュージカル脚本も、角野の音楽も、別所にとっては初めての刺激に満ちている。還暦を迎えた俳優が、守りに入るどころか、また新しい扉を開けようとしている。

□別所哲也(べっしょ・てつや)1965年8月31日生まれ、静岡県島田市出身。慶応大法学部法律学科卒業。87年に俳優デビュー。同年、ドラマ『あぶない刑事』でドラマ初出演。92年には映画『波の数だけ抱きしめて』で日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞した。丸大食品のCMで「ハムの人」としても親しまれる。俳優業の一方で、ショートショート フィルムフェスティバル & アジアを立ち上げるなど、文化発信にも力を注いでいる。

【公演情報】
ミュージカル『民王』
原作:池井戸潤『民王』(文春文庫/角川文庫)
脚本:ツバキミチオ
音楽:角野隼斗
演出:永井誠
出演:有澤樟太郎、別所哲也、豊原江理佳、林瑠奈(乃木坂46)、山崎大輝、上川一哉、福田転球、一路真輝、竹中直人ほか

東京公演:2026年9月6日(日)~10月6日(火)、東京・シアタークリエ
大阪公演:2026年10月11日(日)~13日(火)、大阪・梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ
福岡公演:2026年10月17日(土)~19日(月)、福岡・博多座

衣装クレジット
Yohji Yamamoto POUR HOMME
お問い合わせ先:ヨウジヤマモト プレスルーム 03-5463-1500

ヘアメイク:森川英展(NOV)
スタイリスト:Ryo Chiba(AVGVST)

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