「映画監督も俳優も職業ではない」名バイプレーヤー利重剛の“肩書きを持たない”生き方
13年ぶりの長編映画の監督作『ラプソディ・ラプソディ』(5月1日公開)を完成させた利重剛。映画監督としてベルリン国際映画祭などで高い評価を受けながら、俳優としても数多くのヒット作に欠かせない名バイプレーヤーとして活躍し続けている。二つの顔を持つ彼にとって、「肩書き」とは何なのか。

母は名脚本家の故・小山内美江子さん
13年ぶりの長編映画の監督作『ラプソディ・ラプソディ』(5月1日公開)を完成させた利重剛。映画監督としてベルリン国際映画祭などで高い評価を受けながら、俳優としても数多くのヒット作に欠かせない名バイプレーヤーとして活躍し続けている。二つの顔を持つ彼にとって、「肩書き」とは何なのか。(取材・文=平辻哲也)
利重の母は、『3年B組金八先生』シリーズ、『マー姉ちゃん』、『本日も晴天なり』、『徳川家康』、『翔ぶが如く』など数々の名作ドラマを生み出した脚本家の故・小山内美江子さん(2024年5月死去、享年94歳)だ。しかし、映画作りにおいて母からの直接的な影響は「わからない」と語る。
「母も元々は映画監督になりたかった人で、女性が監督になれる時代じゃなかったからスクリプターから入った人でした。だから僕が監督をやった時に『正直嫉妬している』と言われましたし、映画のことでアドバイスを受けたり、こちらから相談したこともないので、そういう意味での影響はないです」
彼が「映画の師匠、人生の師匠」と断言してやまないのは、『独立愚連隊』(1959年)や『日本のいちばん長い日』(1967年)などで知られる巨匠・岡本喜八監督(2005年2月死去、享年81歳)だ。学生時代に8ミリ映画を作ってファンレターを送った利重に、声をかけてくれた大恩人である。1981年の『近頃なぜかチャールストン』では新人ながら主演に大抜てきされ、共同脚本・助監督も務めた。
「いなくなってからだいぶ経ちますが、未だにここにいる気がします。『準備は苦しく現場は楽しく』『あと1時間多く考えれば、あと1時間分映画は良くなるはずだ』という精神は受け継いでいます。『監督が自分から仕事を降りていい時は、相手を倫理的に許せないと思った時だけだ』とも。『今回のエンターテインメント作品をちゃんとやりきれ』という教えも、常に監督がそばにいる感じで作っていました」
本作『ラプソディ・ラプソディ』は絶対に怒らない男・夏野幹夫(高橋一生)と、彼との婚姻届を勝手に出していた破天荒な女・繁子(呉城久美)の不器用な愛を描く都会派コメディー。幹夫は過去のトラウマをきっかけに自ら生み出した「絶対に怒らない」などの決めごとに縛られて生きており、一方の繁子も「私は私が嫌いです」と手紙を残して姿を消してしまうような孤独で不器用な過去を抱えている。そんな二人の結末は……。
1981年、自主製作映画『教訓I』が、新人監督の登竜門「ぴあフィルムフェスティバル」に入選。映画作りへの深い情熱を持ちながらも、自身の肩書きについては実にひょうひょうとしている。
「映画監督も職業ではないと思っているし、俳優も専門職にしてはいけないと思っています。誰でもできると思っているので、どう書かれてもどんな肩書きでも構いません。生き方というよりは、興味を持って呼んでくれるから現場に行っているだけで、誰も呼んでくれなくなったら他に何ができるか考えるだけのことです。あまり肩書きのことは考えていないからこそ、現場にいられるんだと思います」
気負いがないスタンスからこそ、映画への純粋な愛情が際立つ。かつて監督作『クロエ』がベルリン国際映画祭で上映された際、深夜に旧東側のクラシカルな映画館で上映された際には、カップルから片言の英語で「この映画良かった」と声をかけられた。
「手をつないで去っていく2人の後ろ姿を見ながら、『俺はこの人たちのために映画を作ったんだ』と涙がこぼれました。今回の『ラプソディ・ラプソディ』も、せっかく出来上がったので次の映画のことはしばらく考えず、映画が勝手にお客さんとコミュニケーションをとって、『自分の人生を教えてくれる』ような瞬間を心ゆくまで楽しみたいです」
そう語る監督の笑顔には、映画という表現への限りない信頼と愛情がにじんでいる。肩書きに縛られず、飄々と自然体でありながら、現場に立ち続ける男、利重剛。彼が13年の時を経て世に送り出す最高に愛おしい都会派コメディは、きっとまたどこかの誰かの人生に優しく寄り添い、暗闇のスクリーンの中で新たな奇跡の瞬間を生み出していくに違いない。
□利重剛(りじゅう・ごう)1962年7月31日、神奈川県生まれ。81年、自主制作映画「教訓Ⅰ」がぴあフィルムフェスティバルに入選し、同年公開の映画『近頃なぜかチャールストン』で主演・共同脚本・助監督を務める。89年『ザジ ZAZIE』で劇場用映画監督デビュー。95年『BeRLiN』で日本映画監督協会新人賞受賞。俳優としても数々の話題作に出演し、近年の主な出演作は映画『たしかにあった幻』、など。公開待機作に『未来』(5月8日公開予定/瀬々敬久監督)、『おばあちゃんの秘密』(2026年初夏公開予定/今関あきよし監督)がある。
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