王者・Sareeeに挑むウナギ・サヤカに“悪魔”がまさかの助言「プロレスってなんでもありなので。5秒以内なら反則OK」
“令和女子プロレスの悪魔”と呼ばれた中島安里紗が引退試合(8月23日に後楽園ホール)を終えてから、早くも2週間以上が経過した。次なる焦点は、1年前まで中島の腰に巻かれていた“強さの象徴”SEAdLINNNGのシングル王座を巡って、王者・Sareeeに対し、ウナギ・サヤカが挑戦を表明したタイトル戦に移っている。今回は“絶滅危惧種”でもあった中島が引退した後の風景について、中島に見解を求めた。
「言わなきゃはじまらないし、動かない」(中島)
“令和女子プロレスの悪魔”と呼ばれた中島安里紗が引退試合(8月23日に後楽園ホール)を終えてから、早くも2週間以上が経過した。次なる焦点は、1年前まで中島の腰に巻かれていた“強さの象徴”SEAdLINNNGのシングル王座を巡って、王者・Sareeeに対し、ウナギ・サヤカが挑戦を表明したタイトル戦に移っている。今回は“絶滅危惧種”でもあった中島が引退した後の風景について、中島に見解を求めた。(取材・文=“Show”大谷泰顕)
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「中島安里紗がいなくなって、私がここ( SEAdLINNNG)を一番盛り上げてやるよ。つまりお前のベルトを取ってやるって言っているんだよ!」
中島安里紗の引退興行で、SEAdLINNNGのシングル王者・Sareeeに挑戦を表明したのが、“宇宙に翔ける傾奇者”ウナギ・サヤカだった。
引退興行といえば、感傷的な気分に陥る雰囲気のなかで、中島とそこまで接点がなかったはずのウナギが、なぜそんな発言を口にしたのか。もちろん、そんなことはウナギにしか分からないとは思いながら、その理由を中島に訊ねると、案の定、「知らない。私はウナギじゃないから」と答えた中島だが、以下のようにその言葉を補足した。
「でも、ああいう言葉をわざわざ発してくれる人がいないので、ありがたいですよ、SEAdLINNNGをやる身としては。プロとしてやっている以上、そういう嗅覚っていうのもあるんじゃないですか? 今何を言うべきか、どう動くべきか……」
たしかに、中島がいなくなった今、次なる焦点はいったい誰が“悪魔”の抜けた穴を埋めるのか、代わりに誰が飛び出すのか。そこに移っている。
となれば、当然のように両者のタイトルマッチ(9月23日、カルッツかわさき)に注目が集まることになる。
事実、Sareeeは“強さの象徴”とも呼ばれるSEAdLINNNGシングル王座に就きながら、今年7月にはMARIGOLDの初代ワールド王座のベルトも腰に巻き、現在、二冠王として飛ぶ鳥を落とす勢いにある。裏を返すと、Sareeeの勢いに誰も手がつけられなくなっているのが正直なところ。
そんな状況に対し、中島は持論を述べる。
「今、Sareeeに誰もケンカを売れなくなっている状態って、すごくつまらないと思うし、そこに食いついてったウナギはやっぱ持っているなって思うし、分かっているなって思うし。ファンの人とかいろんなところから、『お前が言うな』って、『実力が見合ってない』とかって言われるかもしれないけど、それを言い出したら誰も何も言えなくなるし。そしたら、女子プロレスってすごくつまらなくなると思う」
中島はそこまで話すと、かつての自分を引き合いに出しながら、さらに持論を展開させた。
「私も若手の頃は、『お前が言うな』とか『口だけ番長』とか。すごくたくさん言われてたので。でも、言わなきゃはじまらないし、動かないし。っていう思いもあるので、全然私はそれでいいと思います。だって実力がつこうがつくまいが、言えないヤツは言えないし。好きにやってったらいいと思う。実力はついてくるから、絶対…と思います」
そう言って、中島はウナギにエールを送った。
Sareeeと中島の“神・悪魔タッグ”は1度の不戦敗を除けば黒星はなし
振り返ると、中島安里紗が引退を決めたのは、王者として臨んだSareeeとのタイトル戦(2023年8月28日、後楽園ホール)に敗れたこと。これがひとつの大きなきっかけだったが、実は中島に勝ったSareeeもまた、中島戦が大きな転機になったことを明かしている。
「悪魔との死闘があったから今自分に自信が持ててる。私が”強さの象徴”だと胸張って言える。同じ時代にプロレスラーとして出会えて心からよかった」(引退興行翌日に投稿されたSareeeのXアカウントでのポストより)
ちなみに両者の「死闘」は、昨年の女子プロレスにおけるベストバウトに間違いないと個人的には思っているが、それはさておき、Sareeeは中島との一騎打ちの直前あたりから、自身が「太陽神」と呼ばれていることを引き合いに出しながら、中島を「悪魔」と呼び出した。
面白いことに中島は、Sareeeから「悪魔」と呼ばれることに対して、当初は目の色を変えて否定してきたが、引退の6日前に当たる8月17日には、自身のXアカウントに「なんか最近『悪魔』って呼ばれても突っ込めなくなってきた。あまりにも自然に言ってくるから。出会って13年だって。やっぱり振り返ってみると長かったんだなあ」とポストしている。
これに関して中島は、「Sareeeがあまりにも普通に言ってくるから。通常の会話の中でも言ってくるので。気づけない。だんだんそうなってきちゃいましたね」と話した。
結局、中島とSareeeは、昨年10月には、本人たちに記憶がないことから実は3度目にもかかわらず、「生涯初」のコンビを結成したが、そこから無敵の快進撃を続けつつ、今年1月に中島がリング上のアクシデントで緊急搬送された直後の不戦敗を除けば、それ以外は一度も黒星を喫したことはなかった。
そして4月に中島が引退を宣言したことで、Sareeeと中島の“神・悪魔タッグ”も終焉を迎えるわけだが、奇妙なことに両者が組んだ一戦は、「これが最後」と言いながら、結局それから3度か4度、「これが最後」が続き、正真正銘の「これが最後のタッグ」は、たまさかMARIGOLD(8月19日、後楽園ホール)での奈七永、後藤智香戦になった。
実は奈七永は、中島が所属しているSEAdLINNNGの創設者(2015年6月に旗揚げ)でありながら、紆余曲折あって去っていった(2021年12月)ことから、両者の関係はひと言では言い表せない険悪なものだった。
実際、試合は両軍ともに感情をぶつけ合う激しい闘いの末、Sareeeが後藤に勝利したが、中島は「見た人がそれぞれ答えを探したらいい」とコメント。今回、MARIGOLDの印象を聞いても「私は自分の試合をやっているだけだから会場がどことか関係ない」と答えた。
それより、中島としては「最後最後詐欺がやっと終わった試合」という認識が強かったのか。
それにしても当初、中島はSareeeとのタッグ結成は本意ではない雰囲気を口にしていた記憶がある。改めて中島にそう告げると、中島は「最初はそうでしたけど、最後最後ってやっているうちに情が湧くじゃないけど、っていうのはありましたよ」と笑った。
「(中島VS奈七永のタッグ戦は)緊張感が半端なかった」(Sareee)
たしかにSareeeは、奈七永戦の翌々日に当たる21日に、自身のXにおいて、「この試合はリングに上がった者しか分からない緊張感が半端なかった。私が悪魔を守るって気持ちと、うちらが組んでるんだぞって自信しかなくて。最後、初めて心が一つになった気がした! ありがとう」とポストしており、リング上がいつもと違っていたことを吐露しているが、中島はそんなSareeeの告白に対し、「すごい面白かった。Sareeeがちょっと大人になってた」とあくまで上から目線を忘れず、「私は最初から大人ですけど」との姿勢を崩さなかった。
そう考えていくと、もうすでに終わったことではあるものの、さまざまな意味で中島とSareeeは似た者同士でもあり、死戦を潜り抜けてきた意識が見え隠れする関係性が興味深い。
ちなみに前述通り、中島はSareeeによって“悪魔”扱いされたが、これはプロレスラーにとって、それだけ異形の者が集まる世界を象徴した、最大級の褒め言葉でもあると思う。
問題はこれ以降、“悪魔”予備軍であるはずの“小悪魔”たちが、いつ本物の“悪魔”に覚醒していくのか。具体名を挙げれば、 笹村あやめや青木いつ希といった、中島の後輩がいつ本格的に大化けするのか。実はこれこそがSEAdLINNNGはもちろん、女子プロレス界における最大の課題になる。
そういった次なる大展開を含めた上での最初の違和感を抱けそうなのが、冒頭に掲げた、王者・Sareee対ウナギによるタイトル戦なのだ。
そんな状況を踏まえた上で中島に対し、Sareeeのここを気をつけろ、という点があればと、身勝手ながらウナギへのアドバイスを求めたところ、「分からない」と話しながら、中島は独自の「Sareee対策」を口にした。
「Sareeeは強いし、“強さの象徴”をしっかり引き継いでくれていると思うけど、怒らせたらいいんじゃないですかね、Sareeeを。結構、Sareeeは頭にカッと血が登るタイプなので。そこで隙が生じる可能性がなきにしもあらずって感じだと思う。正直言って、ウナギがSareeeに勝つのって、そういうことじゃないかなって思います。正攻法で行っても、正直、今の現状ではSareeeには勝てない。じゃあなにをするか。プロレスってなんでもありなので。5秒以内なら反則OK。そういう部分を考えて、いい試合をしようじゃなくて、勝つための試合をしてくれたら、このタイトルマッチに意味が出るし、面白くなるんじゃないかと思います」
そう話す中島に「ウナギを弟子入りさせればいいのでは?」と伝えると、「いや、ダメですよ」と答えた中島は「私はただの一般人ですから」と語気を強めた。
女子プロレス界のトップを張った人間が、しかもそのなかで“絶滅危惧種”とまでいわれた稀有な存在を貫き通した人物が、そう簡単に「ただの一般人」になれるとは決して思わないが、おそらく、この言葉そのものが“虚実皮膜”を信条とするプロレスラー特有の言語として捉えるべきものだと思っている。