伊東純也の代表離脱、日本サッカー協会は「ずるい」 西脇亨輔弁護士が指摘「雰囲気で決めるべきでない」

サッカー日本代表は3日、カタールで行われているアジア杯の準々決勝でイランに1-2で敗れた。会場に、週刊新潮に「性加害疑惑」を報じられたMF伊東純也(30=スタッド・ランス)の姿はなかった。日本サッカー協会は1度、伊東のチーム離脱を発表しながら、判断を先送りして結局は離脱。協会側はこのゴタゴタを説明する中で、監督、選手が「伊東選手とともに戦いたい」と話したことを明かした。しかし、この対応を元テレビ朝日法務部長の西脇亨輔弁護士は「ずるい」と指摘した。その理由とは。

伊東純也選手【写真:Getty Images】
伊東純也選手【写真:Getty Images】

アジア杯準々決勝、伊東不在の代表はイランに逆転負け

 サッカー日本代表は3日、カタールで行われているアジア杯の準々決勝でイランに1-2で敗れた。会場に、週刊新潮に「性加害疑惑」を報じられたMF伊東純也(30=スタッド・ランス)の姿はなかった。日本サッカー協会は1度、伊東のチーム離脱を発表しながら、判断を先送りして結局は離脱。協会側はこのゴタゴタを説明する中で、監督、選手が「伊東選手とともに戦いたい」と話したことを明かした。しかし、この対応を元テレビ朝日法務部長の西脇亨輔弁護士は「ずるい」と指摘した。その理由とは。

 サッカーアジア杯準決勝。日本は試合終了間際イランに逆転され敗退した。この試合の間、私の胸の片隅にはもやもやとした思いが居座っていた。それは、ピッチに伊東純也選手がいなくなった経緯を自分の中で消化できていなかったからだ。

 週刊新潮は、伊東選手が都内に住む女性2人から性加害を理由に刑事告訴されたと報じた。一方、伊東選手側も2人を「虚偽告訴をした」として刑事告訴。私は先日、伊東選手の代理人弁護士を取材して逆告訴した理由などを聞いたが、事実関係が分からない以上、現時点では伊東選手の側にも女性の側にも立つことができない。

 ただ、一連の経緯を追う中でとても気になったニュースがあった。2月1日、日本サッカー協会が最初にアジア杯日本代表からの伊東選手離脱を発表した数時間後に方針転換し、いったん判断を保留すると発表した時だった。

 新聞各紙は、同協会の山本昌邦ナショナルチームダイレクターが理由をこう説明したと報じた。

「森保一監督や選手らチーム関係者に説明したところ、『伊東選手とともに戦いたい』との声が寄せられた」(2月2日付産経新聞電子版)

 私は感じた。「これはずるい」と。

 この件への対応は、協会の執行部だけで決めなくてはならなかったはずだ。「今回の報道が伊東選手の代表参加資格を止める理由になるかどうか」という問題は、選手のプレーの調子や体調など現場の責任で判断できる話ではない。協会執行部が「日本代表選手はどうあるべきか」という信念に従って、協会の責任で判断すべきものだ。それなのに監督や選手の声で結論を左右させ、決断に当事者として加わっていたかのように公表してしまうと、一体どうなるか。

西脇亨輔弁護士【写真:本人提供】
西脇亨輔弁護士【写真:本人提供】

「選手のせい」にしてはいけない

 仮に「伊東選手とともに戦いたい」というチームの声を理由として、本人を代表に残し、その後に性加害が真実だったと分かったらどうだろう。この場合、責任の一端は、「伊東選手とともに戦いたい」との声を上げて結論を動かしたチームメイトなどにまで及ぶと言われかねない。だからこそ、この件の決断は「監督や選手のせい」にしてはいけないのだ。

 チーム内からチームメイトを思う声が上がるのは当然だ。しかし、それを協会が利用して「選手の声があったから、代表に復帰させたんですよ」というエクスキューズに使うのは、絶対に違う。選手の声はあくまで私的な意見の範囲内。協会がその声に耳を傾けたとしても内々に受け止めるべきで、それを敢えて公表し、それによって協会が対応を保留したなどと説明すべきではなかった。協会としての判断は協会の基準で独自に下し、責任を取るもの。選手を巻き込んではいけないはずだ。

 確かに協会側にとっても、今回の判断はとても難しかったと感じる。法律の世界では「有罪」が確定しない限りは全て「無罪」だが、多くのファンとスポンサーに支えられているスポーツの世界では、法律の基準だけで全てを決めることはできないだろう。それでも協会は、できる限りの事実調査をした上で、協会としてのポリシーを明確に説明して判断する必要があったと思う。

 だが、二転三転して最終的に伊東選手の代表離脱を決めた時、協会の田嶋幸三会長は「サッカーに集中できる環境」を作り、「伊東選手のコンディション」も考え、「パートナーの皆さん」にも配慮して「総合的に判断」したと説明した。並べられた理由はチーム、伊東選手、パートナー(スポンサー)といった「他の人のため」に決めたというものだった。最後は「総合的な判断」という詳しい説明をしたくない場合の決まり文句が登場。「協会として今回の週刊誌報道をどう考えるか」という本質の部分は語られていなかった。

 それでは、協会自身のポリシーや価値観を示したとは言えないのではないか。

 今回の事案に正面から向き合って考えれば、「できる限りの事実確認を行った結果、まだ伊東選手に違法行為があったと判断できる段階ではないので、『推定無罪の原則』で出場してもらう」という結論も考えられたし、伊東選手の代表離脱を決断するにしても「まだ事実関係は確認できていないが、性被害という事案の重要性を考えると、もし、被害があった場合に被害者がその傷を深めるようなことは万が一にもあってはならない。そこで大事をとって、代表から離れてもらうことにした」など、今回の事案に踏み込んだ説明ができたはずだ。

 いずれにしても協会はこの問題をどう考え、どのような理由でその対応を取ったのかを、明確に説明する必要があったと思う。加えて、今後も続くであろう「疑惑」報道にどのように対応していくか、その基準を決めて明らかにすべき時期にも来ていると思う。どの範囲の報道なら処分の対象とし、どの範囲であれば対応しないのか、印象論や場当たり的な対応だけでは、不透明感だけが残ってしまう。

 どんな決断をしても、最後は誰かを傷つけるかもしれない。だからこそ、伊東選手について決断する時には、協会が全責任を負い、決断に至った信念を示して説明すべきだったと思う。

 性被害へ配慮も、選手生命の生殺与奪も、明確な信念がないままに「雰囲気」で決めるべきではない。そんな軽いものではないはずだ。

□西脇亨輔(にしわき・きょうすけ)1970年10月5日、千葉・八千代市生まれ。東京大法学部在学中の92年に司法試験合格。司法修習を終えた後、95年4月にアナウンサーとしてテレビ朝日に入社。『ニュースステーション』『やじうま』『ワイドスクランブル』などの番組を担当した後、2007年に法務部へ異動。弁護士登録をし、社内問題解決などを担当。社外の刑事事件も担当し、詐欺罪、強制わいせつ罪、覚せい剤取締法違反の事件で弁護した被告を無罪に導いている。23年3月、国際政治学者の三浦瑠麗氏を提訴した名誉毀損裁判で勝訴確定。6月、『孤闘 三浦瑠麗裁判1345日』(幻冬舎刊)を上梓。7月、法務部長に昇進するも「木原事件」の取材を進めることも踏まえ、11月にテレビ朝日を自主退職。同月、西脇亨輔法律事務所を設立。

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