WWE帰りのSareeeがリコを“公開かわいがり”「終わりか、こいつ?」 令和に昭和彷彿の衝撃の光景

15日、SEAdLINNNG(シードリング)の新木場1stリング大会。事件は起こった。この日、メインで実施されたSareeeVS海樹リコ戦でのこと。今回は令和の時代に起こった、世にも珍しい“公開かわいがり”について考察する。

新王者・Sareee(上)がリング上で海樹リコに「公開かわいがり」を実施【写真:(C)SEAdLINNNG】
新王者・Sareee(上)がリング上で海樹リコに「公開かわいがり」を実施【写真:(C)SEAdLINNNG】

首を横に振っている南月代表

 15日、SEAdLINNNG(シードリング)の新木場1stリング大会。事件は起こった。この日、メインで実施されたSareeeVS海樹リコ戦でのこと。今回は令和の時代に起こった、世にも珍しい“公開かわいがり”について考察する。(取材・文=“Show”大谷泰顕)

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「久しぶりの第一試合。新鮮な空気の中で試合が出来て気持ち良かった。そして、全試合観られたのもすごくプラスだった!(ラピ&カケの入場見逃したのだけは本当悔しい) シードリング、新しい風が確実に吹いてる。でもね、その中心はやっぱりリコじゃなくちゃいけないよ。頑張れ」

 この日、Sareeeとのタイトル戦(8月25日、後楽園ホール)に敗れ、ベルトを失ったものの、新たな気持ちで第1試合に出場した“冷酷の悪魔”中島安里紗が、大会終了後に自身のSNSにそう投稿した。細かな説明は省くが、最後はメインでSareeeに敗れたリコについての記述で締めくくられている。

 15日、SEAdLINNNGの新木場1stリング大会で事件は起こった。メインで実施されたSareeeVSリコ戦。10分すぎあたりから、明らかにリコが失速しているのが伝わってきた。Sareeeとのエルボー合戦でもリコの体重が乗っていかない場面が何度か見受けられる。Sareeeの攻撃で立ち上がれないリコの背中には、容赦のないSareeeの蹴りが浴びせられた。

 まるで“公開かわいがり”の様相を呈しながら、それでもSareeeは一方的に攻め続けることはせず、リコの新たな引き出しを開こうと試みる。

 それでもリコが起き上がれない場面が続くと、リング下から、リコとともにSEAdLINNNGのタッグ王者でもある笹村あやめが言葉をかける。

「気持ち気持ち! しっかり! 負けない負けない!」

 結局、Sareeeによる、この日10発目のエルボーがリコを襲ったかと思うと、起き上がれないリコに対し、「終わりか、こいつ?」と言い放ったSareeeは、「終わりだぁ!」と叫んだ直後、得意の裏投げを炸裂させ、そのままリコの上に乗ってフォール。リコにとっては無情な3カウントが入った。

 思わず、本部席に目を向けると、南月たいよう代表が立ち上がって何度か首を横に振っている。この瞬間、リコの心がSareeeによって折られていたことが推察できた。新王者・Sareeeからすれば、もう少し見せ場を作ってからリコを料理することもできただろうが、それをせずに試合を強制終了させたに違いない。

 そんなことを考えていると、リング上ではSareeeがマイクを使ってリコに話しかける。
「おい、リコ! もうちょっとできると思っていたよ。残念だわ、ホントに。ホントにお前、悔しいのか。それ悔し涙か?」

 これに対し、まだ息も整っていないリコはマイクを使わず、こう叫んだ。

「悔しいに決まってるだろうが!」

 すぐさまSareeeも、これまたマイクを通さずに「だったらもっとできるだろ! なんだよ、今日の結果は!」と返答する。

 再びマイクを持ったSareeeは、「お前だろ、このベルトを取りにこなきゃいけないのは。分かってるのか、お前。もっともっと強くなれ。私はお前がこのベルトを取りに来るのを待っててやるよ」と言葉を発した。

ノーコメントのリコはSNSで心境を告白

 Sareeeは中島との令和女子プロレス史上に残る壮絶試合を制し新王者に就いたが、新王者として初となるSEAdLINNNGのリングで何を見せるのか。そこに注目が集まっていた。

 そのために用意されたのが、中島と並び二人しかいない所属選手のリコだったが、結果的にリコにとっては“非情なSareee”を見せつけられるとともに、自身の不甲斐なさを思い知ることになった。

 ちなみに試合後、Sareeeはリコに足りないものに関して、以下のようにコメントしている。

「リコはドロップキックもいいし、ホントにいいものを持っているんですけど、なんだったんだろう今日は。分からない。気持ちで負けてる。はじめっから。気持ちがないですよね。プロレスって技術がなくても気持ちがあればなんとかなるものだと私は思っているんですけど、闘いだから。魂を込めて闘えよって思いましたね。そこが一番の課題じゃないですかね」

 一方、リコはノーコメントで会場を後にしたものの、日付は変わっていたが、深夜1時48分、自身のSNSには以下のように投稿した。

「強くなります。何度この言葉を言ってきたんだろ。何も変わってない何も出来ない自分のまま。そのベルトへの気持ちは一切変わりません。Sareeeさん、待っててください。あんな試合をして、何も響かないと思うけどあなたの所まで行きます。私が必ず行きます。ベルトは私が取り返す。そして南月さん、安里紗さん、こんな姿を見せてしまいすみませんでした。必ず変わってみせます。成長します。SEAdLINNNGに相応しい選手に、SEAdLINNNGの顔になれる選手に必ずなります、おふたりの全てを吸収して私がいちばん強い女子プロレスラーになる。これからも宜しくお願い致します」

 リコが公開した文面からは、SEAdLINNNGに対する使命感や責任感がつづられていたが、行動が伴わない自分に不甲斐なさを感じていると、あくまでも表面上からは窺い知ることができた。リコはデビューしてわずか3年、弱冠21歳だが、そんな彼女に団体を託すのは少々荷が重いのかとも思いつつ、世界で活躍する女性アスリートを見渡すと、あり得ない話どころか決して珍しい話ではない。

 例えばテニスプレイヤーの大坂なおみは、グランドスラム初優勝を果たしたのが20歳の時だったし、五輪で活躍するトップアスリートが10代、20代前半なんて話はあちこちに転がっている。逆に日本最高齢の金メダル保持者は、2020東京パラリンピックの自転車競技に出場した杉浦佳子が50歳で獲得した例もある。

 要は結果を残す人は年齢やキャリアに一切関係なく結果を残す。

 また、リコにとっては幸か不幸か、Sareeeが「お前がこのベルトを取りに来るのを待っててやる」と公言しており、それまでベルトを防衛し続ける旨を口にし、「調教してやろうと思う」とも話していたが、そのSareeeとて、いつまでも待てるわけではない。

 そうでなくともアイドルレスラー全盛といわれる昨今の女子プロレス界において、SEAdLINNNGが“強さ”を全面的に打ち出している以上、早急にリング上で「殺し」を打ち出せる“絶滅危惧種”を増やさなければ、他団体との差別化が維持しにくくなる。

 それを踏まえて南月代表はリコに叱咤する。

「こういう潰される経験は今の人にはできないと思うので、リコはこういう、人にできない経験をいっぱい積んでいると思うので、その分、やっぱりめげずに、タッグのチャンピオンでもあるので……」

試合後のインタビュースペースでのSareee
試合後のインタビュースペースでのSareee

“強さの象徴”を目指すということ

 さらに南月代表は、“強さの象徴”であるSEAdLINNNGのベルトに挑戦することの意味を説く。

「ホントにベルトを目指すということは、“強さの象徴”を目指すっていうことは、リコのなかに新たに刻み込まれたと思うので、ここで終わっちゃあレスラーじゃないと思うので。まあ、何度でも立ち上がっていくしかないですね。何も周りにできることはない。自分で、どうやってこの壁を突破していくかっていうところを皆さんに見守っていただけたら」

 たしかに南月代表の言う通り、「何も周りにできることはない」。結局はリコがどれだけ腹をくくって意識改革に挑めるか。改善の道はそれしかない。

 最後に、今のリコと似たような心境を、かつて経験した人物の話を披露する。

「私がこのプロレス人生の中で1番怖かった、ツラかった試合っていうのが豊田真奈美選手と組んで、下田美馬選手・堀田祐美子選手っていうタッグマッチ。ホントにもう試合中に“もう立てない、立ちたくない”って初めて……唯一ですかね、思った試合で……」

 これはデビューしたての新人レスラー・中島安里紗が2006年5月に経験した「トラウマ級の試合」を振り返った際の言葉だが、今や女子プロレス界において“悪魔”“野蛮人”と呼ばれる中島に「あの映像は見ないでほしいし、誰にも見てほしくない」と言わしめるほど、「あれが私の唯一のプロ失格というかそういう試合」だった。

 改めて中島が当時の様子を振り返る。

「あの試合はホントに序盤から『もう無理! 』と思って。だって1ミリも歯が立たないんですよ。それはそうですよね、こっちはデビュー数戦で、向こうは大ベテランの方々で。元全女(全日本女子プロレス)だからカラダも大きいし、逆エビをされているだけでも吐きそうだし、痛いし重いし。息もできないし。でも私がやられそうになると、必死で豊田さんが助けようとしてきて、タッグマッチだからカットに来るじゃないですか。その豊田さんを『もう触らないで!』って恨むくらいの、『もう早く終わりたい!』みたいな試合だったんですよ。本当にツラかったです。試合中に泣いてたし。そこはもう一生頭から離れないですね」

 しかしながら、いかにして中島がそのトラウマを“悪魔”にまで昇華させたのかといえば、「そこがホントにしんどかったので、それ以上ってないじゃんって思ってますけどね」(中島)とのこと。つまりこの時の中島が経験した怖さや不甲斐なさがリコにも巡ってきたのだとすれば、中島同様、それを経験した以上、怖いものは何もない。

 いずれにせよ、Sareeeが中島戦を経て、中島以上のキラーエルボーを体得したことを満天下に示しただけで終わったのであれば、日本の女子プロレス界にとって単なる各論で終わってしまう。それはそれでアリかもしれないが、やはりそれではもったいない。

 ともあれ、これは勝手な思い込みかもしれないが、この日のSEAdLINNNGは、これまで以上に各選手の存在感が際立ち始めていたように思う。それをもたらすトリガーの役目を、中島VSSareeeの壮絶試合が果たしたのだとすれば、彼女たちが心身を削って勝ち取った世界観の次なる効果は、リコの覚醒になることを強く望む。頑張れ(中島風)。

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