渡辺いっけい、名バイプレイヤーへの軌跡 自己中心だった20代…転機となった思い出の舞台

ベテラン俳優の渡辺いっけい(60)はテレビ、ドラマ、舞台で脇から主演まで幅広く活躍し、特に名バイプレイヤーとして知られる。しかし、若い頃は、イキった芝居を見せ、演出家や共演者を引かせたこともあったと語る。渡辺はいかに名優になったのか。

インタビューに応じた渡辺いっけい【写真:ENCOUNT編集部】
インタビューに応じた渡辺いっけい【写真:ENCOUNT編集部】

“オレ様芝居”を変えた三谷幸喜氏の舞台との出会い

 ベテラン俳優の渡辺いっけい(60)はテレビ、ドラマ、舞台で脇から主演まで幅広く活躍し、特に名バイプレイヤーとして知られる。しかし、若い頃は、イキった芝居を見せ、演出家や共演者を引かせたこともあったと語る。渡辺はいかに名優になったのか。(取材・文=平辻哲也)

 最新映画『オジさん、劇団始めました。』(8月18日より東京・池袋シネマ・ロサほか公開、監督・山本浩貴)では、家族との絆を取り戻すため、突如、劇団員になる主人公のサラリーマンを演じた。もともと、劇団プープージュースが2020年10月に上演した舞台が原作で、劇団の主宰、山本浩貴が脚本・監督を手掛けた。

「映像作品の経験がほとんどない劇団の若い俳優たちがとても魅力的なんですよ。そこを見て欲しいんです。でも、昔の自分だったら、周りの人たちを面白いと思う余裕はなかったと思います。誰でも、そんな時期はあるとは思いますが、『オレがオレが』と思っていました」

 渡辺は、大阪芸術大学時代「劇団☆新感線」で活躍し、卒業後に上京し、唐十郎が主宰する「状況劇場」に参加した。

「正直、どの劇団でも良かったんです。最終的には、一枚看板の役者として独立するのが目標でした。状況劇場は新感線とは真逆の世界だったと思います。でも、その真逆のことがやりたくて入ったんです。でも、唐さんには、オレがこの劇団に浸かりきっていないことを見抜かれて、『渡辺は、この稽古場になじんでないよね?』って言われて、本当に驚きました。それから、『舞台を自分で完成させるつもりがなく、演出家に任せている』とも指摘されました」

「劇団☆新感線」時代は、主宰のいのうえひでのり氏に徹底的にしごかれた。渡辺の芝居は、評価も高かったが、いのうえ氏の演出通りに演じた結果だった。

「いのうえさんに仕込まれた分、最終的には演出家が何とかしてくれるものだ、と思っていて、自分で完成形を作ろうとはしなかった。演技プランが甘々だったんです。同じ時期に、新感線から第三舞台に参加した筧利夫と落ち合って、飲んで慰めあったことがありました。昔の新感線の舞台のビデオを見ながら、『この芝居はいのうえさんが作ったんだよな。オレたちが一人でやっていくには、このレベルまで自分たちでやらなきゃいけないんだよな』と言い合いました」

 1988年、28歳のときに状況劇場を退団。スタッフ・キャストを各所から集めて、一つの舞台を作り上げる「プロデュース公演」や野田秀樹演出の舞台に主要キャストを務めながら、29歳からテレビドラマにも出演するようになった。

「多くの名前の知られた俳優たちと共演しましたが、まだ自分はそれほど知られていなかったので、『彼は誰だ?』と言われる芝居をしなきゃいけないと思っていました」

 ただ、周囲の評判はよくなかったと自覚している。

「当時は自分のことしか考えずに行動していました。先輩俳優からは『お前は雰囲気を壊しているぞ』と指摘されたこともありました。そんな時期が2年くらい続くんです」

 そんな“オレ様芝居”が変化したのは、三谷幸喜氏の舞台を見たのがきっかけだった。

「最終日に滑り込んで、階段に座って観ました。最初は、『大したことないな』と思いながら、次第にストーリーに引き込まれ、最後には心から感動しました。スタンドプレーではなく、見事なチームプレーで見せる舞台だったんです。その経験を通して、作品がお客さんを引きつける力、そして作品自体が大切であることを痛感しました」

 この体験が名バイプレイヤーへの道につながっていく。92年にはNHK連続テレビ小説『ひらり』の医師役で注目を集め、ドラマ出演が相次いでいく。

「作品というものは、人と一緒に作っていくもの。多分、人生もそうなんです。相手をどのぐらい受け入れるかっていうのが大事になってくるんですよ。年齢とともに疲れてきて、自分に飽きちゃうと、周りが面白く見えてくるっていうか、その人を生かすにはどうすれば、いいのかを考えるし、その人が輝くことで、自分も一つ上のレベルに上がれるんだと考えるようになりました」

 俳優としてのキャリアは40年以上。昨年10月には還暦も迎えた。

「50代後半は自分でも元気も出なく、コロナ禍も重なって、ダメダメな時期があったんですが、還暦を迎えて変わったような気がします。自分で気をつけて体を整えていかないと、調子がいい日は訪れないぞ、と。豊川市にいる父は91歳、母が84歳。両親の介護も心配する時期になってきましたが、役者というのは潰しが効かない職業なので、やめて田舎に帰るわけにもいかない。そういう経験も役者には役立つはずと思っています」。今後も円熟味を増した味わいある演技を見せてくれそうだ。

□渡辺いっけい(わたなべ・いっけい)1962年10月27日、愛知県出身。1992年NHK連続テレビ小説『ひらり』にて人気を博して以降、数々の作品に出演し、名バイプレーヤーとして活躍。若い世代にも『ガリレオ』シリーズでの福山雅治演じる湯川学の助手役として馴染みが深い。映画では2018年『いつくしみふかき』にて初主演。人気アニメシリーズ『おしりたんてい』では声優も務めるなど、活動の幅は今も広がり続けている。大阪芸術大学在学中の劇団☆新感線への参加や、卒業後に唐十郎を主宰とする状況劇場へ入団など、劇団とも関わりが深い。

トップページに戻る

あなたの“気になる”を教えてください