Sareeeは「昭和のプロレスラー」 14歳から知る師匠が断言、“クソ悪魔”との決戦に期待すること

「SEAdLINNNG~8周年大会!~」(25日、後楽園ホール)で争われる、シングル王座のタイトルマッチ。この夏最後の大一番として目前に迫ってきた、王者・中島安里紗にSareeeが挑戦する一戦だが、これを前に、Sareeeの師匠でもある“伊藤道場”の伊藤薫を直撃。この一戦の持つ意味を聞いた。

出会った時から親子のような間柄の師匠・伊藤薫(左)とSareee【写真:ENCOUNT編集部】
出会った時から親子のような間柄の師匠・伊藤薫(左)とSareee【写真:ENCOUNT編集部】

「SEAdLINNNG~8周年大会!~」(25日、後楽園ホール)で争われる、シングル王座のタイトルマッチ。この夏最後の大一番として目前に迫ってきた、王者・中島安里紗にSareeeが挑戦する一戦だが、これを前に、Sareeeの師匠でもある“伊藤道場”の伊藤薫を直撃。この一戦の持つ意味を聞いた。(取材・文=“Show”大谷泰顕)

「キラキラしてましたね」

 Sareeeの師匠であり、全日本女子プロレスでデビューしてから現在も、得意のフットスタンプで会場を湧かせる女子プロレスラー・伊藤薫の言葉である。伊藤の言う「キラキラして」いたのはSareeeとの初対面の時の話。当時、Sareeeは14歳で中学3年生だった。

「初々しかったですね、若いのは当たり前だけど、汗かいて、ほっぺたを真っ赤にしてあいさつされましたよ。その時は井上京子さんが指導されていましたけど、この子はプロレスを続けられればスターになる、と思いましたね」

 それからすでに13年の時が流れ、Sareeeは晴れて女子プロレスラーになって、3年前にはWWEに行き、今年帰国してからは水を得た魚のような全力ファイトで観客を湧かしている。

「Sareeeはすごいですよね。私にとっては昔から娘のような存在だから変わりはないけど、Sareeeの出る会場に行くと、大人になったなあ、スターになったなあって思いますから」

 実際、Sareeeは今大会で、王者・中島安里紗の持つシングル王座への挑戦が決まっている。Sareeeいわく、中島は「クソ悪魔」と言いたくなるほど、その言動とファイトスタイルがエゲツないが、中島とSareeeの絡んだ試合からは、決して見よう見まねではたどり着けない、独特の“すごみ”を感じることができる。「観る側」に恐ろしさを感じさせる、まさに「痛みの伝わる女子プロレス」だ。

「それが普通の人にはできないプロレスなんですよ。最近は、自分で『プロレスラー』って名乗ってしまえばプロレスラーになれちゃう時代だけど、そこが自分から『プロレスラー』って名乗れるかどうかの境目だと思うんですよね」

 これはプロレスに限らず、どのジャンルでもいえることだが、大相撲やプロボクシングと違い、日本のプロレス界に資格制度はない。国家試験もなければ、免許制でもない。そうなると、あきらかに「心・技・体」が備わっていない「プロレスラー」と称する人物が「聖域」とされるリングに上がる光景が散見されてしまう。

25日には後楽園ホールで王者・中島安里紗(左)の持つベルトをかけて闘うSareee【写真:ENCOUNT編集部】
25日には後楽園ホールで王者・中島安里紗(左)の持つベルトをかけて闘うSareee【写真:ENCOUNT編集部】

ダンプ松本還暦興行で体験した喜び

「プロレスなので、私は“闘い”だと思うんですね。なので、キレイとかわいいとか、いいですよ。もちろんそれもいいんですけど、その前にしっかりと“闘い”をやった上で、そういうことをやっていかないと。嘘はあとからバレてしまうので。しっかり私が“闘い”っていうものを日本の女子プロレス界に。(日本に)帰ってきて、しっかり見せていきたいと思っています」(3月13日に実施された「Sareee-ISM」開催決定会見でのSareeeの言葉より)
 
 Sareeeがこの言葉を発してから5か月が過ぎたが、伊藤の話を聞いていくと、Sareeeとかなりの部分でリンクする気がしてくる。いや、伊藤らの影響を色濃く受け継いだ結果、今のSareeeができあがった、というのが本当のところだろう。

「私はどのプロレスもすごいとは思いますよ。なかには私にはないものもあるし、できないものもあるから。でも、プロレスをやりたいならできますよ、っていう誰でもできるものではないと思う。だったら、こんなかわいい顔をして、あんなことするの? こんなことできちゃうの? それでも立ち上がるんだ。すげえ! っていう、私はそういうプロレスに憧れてプロレスラーになりたいと思ったわけだから」

 そんな思いが募った結果、伊藤は2022年7月から「伊藤道場」を立ち上げた。目的のひとつは「誰でもなれるプロレス界を変えたいと思った」。

「自分がこんなこと言ったら、先輩方はどう言うかわからないですけど、私は、自分が憧れた女子プロレス全盛期の時代のプロレスができる人たちを育てたいんです。昭和のプロレスというか、見る人たちに分かりやすい、見た人たちが『あれでも立ち上がるんだ!』って思うようなプロレスラーを育てたいし、それを残していきたいんですよ」(伊藤)

 伊藤がその思いを強くしたのは、「女子プロレス 極悪祭 ダンプ松本41周年 還暦興行」(2021年10月11日、後楽園ホール)だった。同大会で伊藤は第3試合に登場。長与千種の弟子・宝山愛を相手に闘った。

「その大会には自分も関わったことのない、歴代の全女の先輩たちが後楽園ホールの関係者席にズラリと並んでいて。しかも自分もお会いしたことのない先輩方が控室にいらっしゃるから、それぞれの方にあいさつをして。そしたら試合が終わった後、その先輩たちが私たちのところに来て、『ねえ! あれは全女(の試合)じゃん!』って言ってくれたんですよ。すごい嬉しかったですね。少なくともそれを自分は残せているんだなっていうことが分かったから。歴代の先輩たちが見ても、そういうふうに感じてくれているんだなって自信も持ったし」

 伊藤はこの試合をつうじて、「やっぱり(全女的な試合を)残すしかないなって思ったし、自分がそのプロレスを教えて行っていることにもつながる」と思った。「だからSareeeたちみたいな世代の子たちのなかで、『私こそプロレスラー』って胸を張って言える選手が、もっと増えればいいなって思いますね」。

 事実、最近のSareeeの活躍を見ながら、伊藤は「もし私の下にまたそういう素材が来れば、Sareeeのように育てられる」と確信を持つようにもなった。

Sareeeから感じる「昭和」

 さて、先述通り伊藤がSareeeと出会ってから13年という月日が流れたが、伊藤は、Sareeeに関して、以前から思っていたことがある。

「なかにはプロレスが二の次な人もいるじゃないですか。その点、Sareeeはルックスのことだけを言われるのは嫌だって。そこが他の子たちと全然違ったんですよ。自分のルックスとはかけ離れた『伊藤さんや京子さんのような(激しい)試合がしたい』って言ってきちゃう」

 また、以前から伊藤は、Sareeeから「令和」にはないものを感じている。

「Sareeeは全然、『平成』だし、ゆとり世代の子なんだけど、プロレスに関してだけは『昭和』なんですよね。それ、誰かにも言われたんですよ。『Sareeeって昭和が残ってるよね』って。だからSareeeは今の時代に染まらないで、私たちの残したいプロレスを継いでくれるんじゃないかなっていう気がするし、そこには受け継がれているものがあるのかなって。もちろん、私たちのとは違うかもしれないけど、Sareeeたちが今の世代のプロレスにしてくれていると思うんですね」

 そう言って伊藤は、「令和」の女子プロレスに味付けされたSareeeのファイトに太鼓判を押す。そのSareeeが、「SEAdLINNNG~8周年大会!~」ではシングル王座に挑戦するのだ。

 ちなみにSareee本人は、間近に迫ってきたタイトルマッチについて、「緊張感はありますよね、久しぶりのタイトルマッチなので」と話しながら、「ここは必ず取りたいですね。周りの方にも期待してもらっているんだなっていうのも伝わってきますし、これはちょっと私たちにしかできない闘いっていうものがあると思うので、もsのすごい試合に、したいと思わなくても自然となってしまうと思うので、リングの上でやるだけですね」と話した。

 そんなSareeeに対し、師匠の伊藤から、何か直すべき部分があればとアドバイスをもらおうとしたが、伊藤は「とくに直すところは特にないッスよ」との答えが返ってきた。

「Sareeeは決してカラダが大きいわけじゃないけど、これは絶対に負けないっていうのをしっかり持ってやっていると思っているから。例えばエルボーの一発一発だったり、気の強さだったり。プロレス的にはしっかりやってきているので、できると思うから。だから(中島戦は)私も楽しみにしながら見に行こうかなと思います」

 決戦まであとわずか。果たしてSareeeは、“悪魔”中島安里紗を下して、さらなるキラキラを手に入れることができるのか――。

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