社員食堂の定食900円、1300円の鰻丼も…出社率38%なのに“集まるオフィス”新装のワケ

自慢の社員食堂、作りたて定食は900円――。株式会社リクルートがこの夏から、本社リニューアルの一環で、“本気”の社食(ダイニング)をオープンした。リモートワークの全面導入で、「出社を前提としない働き方」を推進する中で、現在の出社率は平均38%。働き方改革の先端を行く一方で、本社オフィスは公園をコンセプトに「集まる」をテーマに仕上げたというのだ。そんな新発想のオフィスの秘密に迫った。

豚のしょうが焼きとヒレカツのあいもり定食は大満足のランチだった【写真:ENCOUNT編集部】
豚のしょうが焼きとヒレカツのあいもり定食は大満足のランチだった【写真:ENCOUNT編集部】

東京駅に隣接の超一等地、株式会社リクルート カフェ施設のコーヒーは250円で「大手チェーンより少しリーズナブル」

 自慢の社員食堂、作りたて定食は900円――。株式会社リクルートがこの夏から、本社リニューアルの一環で、“本気”の社食(ダイニング)をオープンした。リモートワークの全面導入で、「出社を前提としない働き方」を推進する中で、現在の出社率は平均38%。働き方改革の先端を行く一方で、本社オフィスは公園をコンセプトに「集まる」をテーマに仕上げたというのだ。そんな新発想のオフィスの秘密に迫った。

 東京駅周辺の眺望を見下ろすことのできる広々とした空間。豚のしょうが焼きとヒレカツのあいもり定食は、夏にぴったりのオクラの小鉢が付き、満点のボリュームと味わい深さを楽しめた。担当者は「出来たてアツアツを実現したかったんです」と声を弾ませた。

 本社機能が入る東京・グラントウキョウサウスタワーの22階。ランチタイムに多くの従業員で埋まった325席のダイニングに加え、夕方からバータイムでアルコールも提供されるカフェ、中央には壁をなくして開放的に設計されたパーゴラと呼ばれるテーブルのスペースやセミナー向けのガラス張りの会議室など、「リアルな対面コミュニケーション」の活用を見据えた多様な施設がそろっている。

「お腹でつながる」がダイニングのキーワード。毎朝、昆布とカツオで取っただしから作るみそ汁や、かまどで炊いたご飯、そして食材や調理に工夫を凝らしたおかず。ランチは2種類の定食に加え、丼、麺メニューも。この日はあいもり定食は900円、麺のトムヤムラーメンは680円で、おむすびセットは650円だった。作りたてで提供する定食は注文が入ってから調理を始め、フードコートで使用されるブザー機器が鳴ったら取りに行くスタイルだ。

 7月12日からオープン(本社リニューアルは2022年5月から第1弾を展開)。平日のみ利用可能で、ランチは1日800食ほどが出るといい、「基本は1000円は超えません。近くの八重洲地下街の値段感よりはお安いかなと思っています。先日、1200円のマグロ丼、1300円の鰻丼を提供してみたのですが、結構出ました。ここでも売れます! それに、『今日はステーキがメニューだから出社した』という社員もいました」と担当者。一般開放はされていないが、同社のビジネスパートナーが入館した際は社外の人も利用可能という。社食としてはやや高価格帯と言えなくもないが、こだわりの味や豪華なメニュー内容で勝負しているという印象だ。

 ちなみに、カフェはコーヒーのショートサイズが250円で、「大手チェーンより少しリーズナブルな設定です」。若手男性社員には意外にもジェラートが人気という。また、本社41階は個人利用を想定したリフレッシュ設備やオンライン配信ができるイベントスペースを設けている。

 社員食堂への力の入れようには、リクルートが社を挙げて進めてきたオフィス改革が背景にある。

 同社は、2000年代中盤から働き方改革を推し進め、新型コロナウイルス禍前の2010年代中盤からリモートワークを実験的に導入。21年4月に会社統合、さらに人事制度のアップデートを実施していった。10年後の働き方を見据えて、週5日の固定時間勤務から働く曜日・時間を自分で選択する、オフィス勤務から働く場所を自社オフィス・自宅・外部のサテライトスペースなどから自分で選択する、といった理念を掲げている。実際に、年間休日を130日から「145日」に15日分を増やし、その一部をフレキシブル休日として、取得する日を個人で決められるようにした。定期代についても、1日上限5000円の実費支給に変更。さらに、昨年度から東京都心部のオフィス拠点の再編を進め、23拠点から、メインとなるグラントウキョウサウスタワー(従業員在籍数約1万2000人、座席数は約5000席)、九段下、田町の3拠点に集約。“出社しない”環境整備を着実に整えている。

“公園のように人が集まる”がコンセプトのリクルート本社【写真:ENCOUNT編集部】
“公園のように人が集まる”がコンセプトのリクルート本社【写真:ENCOUNT編集部】

「オフィス回帰は望んでいません」 “集まってよかった”と思える場所づくりを重視

 こうした中で、一見逆行するような、「集まるオフィス」の強化。どのような狙いがあるのか。

 同社の人事部門の担当者は「弊社には、『価値の源泉は人』という人材マネジメントのポリシーがあります。『いろいろな人との出会いがあり、交わって、楽しく遊ぶように取り組みながら社会の価値を見いだす』という考え方の下で、『CO-EN(公園、Co-Encounter)』をコンセプトにしたオフィスを設計しました」と説明する。

 同社の全社的なオフィス出社率は、2022年度の全国平均で38%。今年に入ってからも出社率の数字はあまり変わっていない。それでは、働く場所をどう捉えるか。カギとなるのは、「選択肢と自律的」だという。

「まず、会社はオフィス回帰を望んでいません。オフィスで仕事という指示や強制もありません。とはいえ、従業員がチームで集まりたい時に集まるチョイス、集まれる場所があることも大事だと考えております。従業員の働く場所について、優先順位はありません。自社オフィス・自宅・外部スペースのどこを使うのか、個人やチームがその時の状況に応じて自律的に決めています。仕事のクオリティーを上げるためにリアルの場が必要な場合、従業員同士の関係性の質を高めることは重要になります。それには、責任を持った従業員の判断が求められていますし、会社の役割は生産性が高まるような場所を提供することだと考えています」。例えば、新入社員にとって最初に仕事に取り組む際は、対面でやりとりをした方がいいこともあるだろう。リアルなコミュニケーションが必要になる際に、“集まってよかった”と思える場所づくりを重視したとのことだ。

 本社オフィスは、働く場所なのか、集まる場所なのか。同社は試行錯誤を続けながら、従業員ファーストの環境づくりをさらに向上させていくという。

 担当者は「今回、オフィスを作っていくときに分かったことがあります。オフィスに来るのはたまに、という従業員でも、来たら1日過ごす人が多いです。オンライン会議がいくつか入り、本社でリアル会議が予定されていて、合間に個人の仕事をするというパターンです。オフィスはみんなで集まる場所というコンセプトの一方で、従業員が1日を快適に過ごすための場所を用意したいと考えています。よりよくなるよう議論していきたいです。それに、ダイニングについても、食は重要な要素なので、従来の社員食堂のイメージを超えるように磨いていく考えです。どんどん改善を行っていきたいです」としている。

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