【工夫で乗り切る】ある検査技師は段ボールで簡易シールド開発 知恵と工夫でリスク突破

医師会の建物のエントランスなどに設置されている
医師会の建物のエントランスなどに設置されている

実は発明家の顔をもっている

 この段ボール製簡易シールドを考案・開発した山城さんは、特定警戒都道府県内の総合病院に勤務する中年の臨床検査技師。新型コロナウイルスの感染が拡大し、PCR検査の検体採取時のリスクがメディアで取り上げられ、感染のリスク対策がとれないため医療機関が検査を増やせない、検査希望者が検査を受けられない、個人防護具が足りないという報道を目にするたび、「身近にある段ボールを使えば、それらが解決するのではないか」と思っていたという。

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 4月半ば、緊急事態宣言を受けて物流資材としての段ボール出荷量が落ちた段ボール製品製造会社から、「何か新しい商品を企画したい。巣ごもり中で退屈している子供たちに向けた商品を考えてくれないか」と電話がかかってきた。そこで、山城さんは子供向けの玩具に加え、このPCR検査時の感染防止に役立つ簡易シールドを提案した。実は、山城さんは10年ほど前から特許を持つ発明家の顔ももっており、これまでも段ボールを使った玩具を考案・開発し発売したことがあった。電話をかけてきた段ボール製品製造会社とは、その際にライセンス契約をした縁があったのだ。

発明の原点は折り紙にあった

 山城さんの発明家としての原点は、実は日本の伝統文化である折り紙。幼い頃、誰に教わったか記憶もないまま自然に身に着けた折り紙を、山城さんは趣味としてずっと楽しんできた。

「1枚の紙からいろんなものができることが面白かったんです。だんだん折り紙にとどまらず、新聞紙やコピー紙を使って複雑な構造物も作るようになりました」
 
 アイデアマンでもあった山城さんは、かねてから身近にあるものを使って困ったことを解決するのも得意だった。小さな例では、固くなった瓶の蓋を開けたり、ネジ山が無くなったネジを回したり。停電した際に簡易太陽電池充電器を作成したこともある。

「工作用のA4サイズの太陽電池パネルが子供部屋のおもちゃ箱に、廃棄に困ったバイク用のバッテリーが物置にあることを思い出しました。そこで、工具箱にあった電気コードをつないで簡易太陽電池充電器を作りました。おかげでテレビを見るのは無理でも、スマホの充電ができラインやラジコアプリなどから生活に必要な情報を収集することができました」

段ボールに着目したきっかけは

 特許を取って段ボール製品を作り始めたのは、12年前、親族の集まりで座イスを作ったことがきっかけだった。

「おじいさんが畳の上にあぐらをかいて座ろうとしたので、そのへんにあった段ボールを解体し、即興で組み立てて座イスを作ってあげたんです。そうしたら、『背もたれがついていて楽で助かった』とすごく喜んでくれて『特許を取ったらいいのに』とおっしゃったんです」

 その言葉に背中を押された山城さんは、それから1年半ほどをかけて“道具を使わず紙を折りたたむだけで頑丈な構造物を作る方法”で特許を取得。製品開発をしてきた。

「病院勤務の日も病院から帰ってから、夜もあまり寝ずに試行錯誤しました。かみさんには『早く片付けて』なんて言われながら(笑)。大変ですけど、好きだからできるんでしょうね」

 今回の段ボール製簡易シールドは、少しでも早く、みんなが安心して医療に取り組めるよう、また医療を受けられるように、との思いで3週間の超ハイスピードで開発し特許も申請。「どこでも発熱外来」と名付けて販売にこぎつけた。根底に、医療の現場に身を置いているからこその熱意があった。山城さんは売り上げの一部を学校や、新型コロナウイルスで教育をじゅうぶんに受けられなくなった子供たちへ寄付することも考えているという。

 テーブルやドアノブに付着した新型コロナウイルスの残存時間が話題になるが、段ボール表面に付着した新型コロナウイルスはステンレスやプラスチックより残存時間が短いとされる。このことからも、新型コロナウイルス対策に段ボールを活用することは理にかなっている。コロナ禍を乗り切るには、個々人の知恵と工夫をフル稼働させることも役立つ好例だ。

◆私たちENCOUNT編集部では、新型コロナウイルスについて取材してほしいことを募集しております。info@encount.pressまでお寄せください。

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