【工夫で乗り切る】ある検査技師は段ボールで簡易シールド開発 知恵と工夫でリスク突破

PCR検査が増えない理由のひとつに、検査者の感染リスクの高さがあげられている。検体採取時に被検査者の鼻に綿棒を差し込むためくしゃみや咳が出やすく、もし被検査者が感染していた場合、検査者が飛沫を浴びて感染してしまう危険性があるからだ。そのリスクを回避するため、段ボールを使った簡易シールドが開発され実際の臨床現場で使用され始めている。考案・開発したのは、現役の臨床検査技師の山城尚人さん(仮名)だ。山城さんに開発の経緯などを聞いた。

臨床検査技師が考案・開発した段ボール製簡易シールド
臨床検査技師が考案・開発した段ボール製簡易シールド

感染リスク対策の段ボールで簡易シールドを考案・開発

 PCR検査が増えない理由のひとつに、検査者の感染リスクの高さがあげられている。検体採取時に被検査者の鼻に綿棒を差し込むためくしゃみや咳が出やすく、もし被検査者が感染していた場合、検査者が飛沫を浴びて感染してしまう危険性があるからだ。そのリスクを回避するため、段ボールを使った簡易シールドが開発され実際の臨床現場で使用され始めている。考案・開発したのは、現役の臨床検査技師の山城尚人さん(仮名)だ。山城さんに開発の経緯などを聞いた。

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 山城尚人さんが考案・開発した段ボール製簡易シールドは、高さ175センチ、横90センチ、奥行き182センチのサイズの段ボールで作った覆い。中間を透明の厚い建築用ビニールシートが張られた段ボールで仕切り、一方に医師など検査者が、もう一方に検査を受ける被検査者が分かれて座り検体採取を行う、という仕組みだ。

 間仕切りには、検査者が手や聴診器を被検査者側へ差し込む穴が開いている。手を差し込む部分には、市販されている長手袋(食品加工工場などで使われる肘まで覆える手袋)を張り付け、そこから手を入れれば、検査者は被検査者に直接触れることなく検体を採取できる、といった工夫もこらされている。手袋は使い捨てにするか、毎回、アルコール消毒して使用する。

座って検体採取できるのがポイント

「この製品を使えば飛沫感染などが防げて、検体を採取する医師や臨床検査技師だけではなく、手技をサポートする看護師や事務職員の不安を解消できるのはもちろん、検査者も被検査者も座って検体採取を行うことができる、という点がポイントです。検体の理想的な採取方法のひとつとして、検査者は利き手で綿棒を持って被検査者のあごに手のひらの付け根を当て、反対側の手で被検査者の頭を後ろから押さえ、被検査者が綿棒を鼻に差し込んだときに痛みで頭を後ろにのけぞらせたりしないようにして行う方法があります。それには、座ってやったほうが安定するのです」

 被検査者が痛みに驚いて頭をのけぞらすなど逃げてしまうと、鼻の奥ではなく鼻先のほうの検体を採取することになる。それでは検体としては不適切なものとなる。被検査者がウイルスに感染していた場合、ウイルスは鼻先ではなく、鼻の奥で炎症を起こしているので、鼻の奥の粘液を採取したほうがより良い検体を採取できるからだ。

「検体がきちんと採取できないと、いくら精度の良い検査法を用いても、また、高価な試薬を用いても意味がありません。検査は検体を採取するところから始まっているのです。だから簡易シールドといえども、検査者も被検査者もきちんと座って適切な検体採取ができることを重視して考案しました」

医師や看護師だけでなく事務員や清掃員も安心

 この簡易シールドは段ボール製のため軽くて持ち運びがしやすく、また組み立ては工具不要で1人でも約15分で行える。雨に濡れたりしなければ2、3か月使用できるそうだが、もし汚れたりしても解体は約3分で行えて感染性廃棄物として処理すればよい。手を入れる穴の位置や机の大きさなど改良が続けられている段階ではあるが、安全・安心で扱いやすく、首都圏の一部の医師会やその近隣地区の医院などで実際に導入されている。価格が1台4万8000(税別)と、お手頃なのも重要だろう。

「『安心して手軽に使えるので助かる』という声をいただいています。医療従事者の感染リスクが問題視されていますが、医療機関で働いているのは医師や看護師だけでなく、我々のような臨床検査技師もいればカルテを作成する医療事務員、PSR(看護補助、患者サービスを行う)、清掃員もいます。マスクやフェイスガードなどの個人防護具が足りなくなってくると、医師や看護師が優先で使用します。でも、感染が怖いのはみな同じ。すべての人が感染のリスクから守られなければならないと思って、この簡易シールドを開発しました」

 今後、唾液を検体に使う検査が承認され普及していきそうだが、簡易シールドを使って検査者と被検査者を分ける仕組みがあると、やはり安心・安全だ。

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