27歳の劇団員・藤谷理子「劇団は実家のようなもの」 バレエで英留学、日本代表で大会出場の過去

映画レビューサイトでトレンド1位を記録した劇団「ヨーロッパ企画」によるタイムループコメディー映画『リバー、流れないでよ』(公開中、山口淳太が監督)。その主演に大抜てきされたのは、同劇団の期待のホープ、藤谷理子(27)だ。その素顔とは……。

演劇に目覚めたきかっけを語った藤谷理子【写真:ENCOUNT編集部】
演劇に目覚めたきかっけを語った藤谷理子【写真:ENCOUNT編集部】

映画初主演に「不安や戸惑いの方が大きかった」

 映画レビューサイトでトレンド1位を記録した劇団「ヨーロッパ企画」によるタイムループコメディー映画『リバー、流れないでよ』(公開中、山口淳太が監督)。その主演に大抜てきされたのは、同劇団の期待のホープ、藤谷理子(27)だ。その素顔とは……。(取材・文=平辻哲也)

 藤谷は京都出身の27歳。5歳からバレエを始め、英国ロイヤルバレエなどに短期留学した経験を持つ。日本代表として米ニューヨークのコンクールにも出場し、その後、演劇に目覚めた。

「中学3年生まで本気でバレエ・ダンサーになりたかったんですけど、挫折しまして、父が勧めてくれたのがヨーロッパ企画だったんです」

 高校を卒業するタイミングでヨーロッパ企画の舞台オーディションに合格。日本大学芸術学部演劇学科で学びながら、演劇を続けた。大学在学中の2016年にヨーロッパ企画『来てけつかるべき新世界』のツアー公演にも参加。これが転機になった。

「狂言回しみたいな役だったので、お客さんの前でたくさんしゃべるんです。たくさんのお客さんの前でしゃべるのはすごく緊張しました。そこで、お客さまに拍手をもらうっていう体験は私の中ですごく大きかったです」

 その後はドラマ、映画の映像作品にもフィールドを広げた。20年には本広克行監督の映画『ビューティフル・ドリーマー』でメインキャスト、21年には井ノ原快彦主演のNHK BSプレミアム『カンパニー~逆転のスワン~』でレギュラー出演も果たす。この年、ヨーロッパ企画の劇団員にも正式加入した。

「何年か前までは単発の映像のお仕事があると憂鬱だったんです。稽古もできない、お客さんもいない。そんな中でどうやって演技したらいいんだろう。みんなはどう思っているんだろうって。そんな中『カンパニー』に出演したことが大きいですね。初のレギュラー出演だったので、同世代の人たちとコミュニケーションを取りながら、関係性を作り上げていく。それは舞台と変わらないな、と。それから現場現場で楽しめるようになってきました」

 ヨーロッパ企画の長編第1弾映画『ドロステのはてで僕ら』ではメインキャストの一人、カフェ店員のアヤ役で出演。この作品は世界27か国53の映画祭で上映され、23の賞を受賞する快挙となった。

「最初の賞を取ったときは手放しで大喜びでした。2、3個目までは『すごいことが起きているぞ』、7個目くらいは『やばいやばい』。でも、23個も取ると、なにがなんだかさっぱり分からないや、と」

 そして、この初主演映画だ。『リバー、流れないでよ』は、京都の奥座敷と呼ばれる貴船を舞台に、繰り返す2分間のループから抜け出せなくなってしまった人々の混乱を描く群像劇。藤谷の役は、老舗料理旅館「ふじや」で働く仲居ミコトを演じた。たくさんいる劇団員の先輩を飛び越えての大抜てきだ。

「うれしいというより、『本気ですか?』『私で大丈夫なんですか』という気持ちでした。『ドロステ』が海外で賞をたくさんもらう中、2作目で私が主役? もちろん、一生懸命やるつもりでしたが、不安や戸惑いの方が大きかったです」と振り返る。

『リバー、流れないでよ』について語った藤谷理子【写真:ENCOUNT編集部】
『リバー、流れないでよ』について語った藤谷理子【写真:ENCOUNT編集部】

地元で撮影した初主演作「自分の中では1番大きな宝物」

 ミコトはタイムループという非常事態に冷静に対処していくが、後半部からはガラリと役割を変えていく。ほとんどの役は劇団代表で原案・脚本の上田誠による当て書きだ。

「とても覚えやすいセリフなので、やりやすいんですけど、見透かされている感じがあるんです。この役って、ちょっとメンヘラっぽい感じがあるじゃないですか。私って、そう思われているのかな。私は普段、きちっと猫をかぶるタイプなんですけど、上田さんの中ではそうじゃないんでしょうね。その点ではちょっと恥ずかしいです」

 もう一つ、うれしくも恥ずかしいことがある。舞台の貴船は藤谷が生まれ育った地元なのだ。

「幼なじみのお父さんたちが撮影を見学して、『頑張れよ』とか言ってくれるんです。そういうのは恥ずかしかったですが、どんどん喜びが勝っていきました。両親に報告したときは、母はすごく喜んでくれたんですけど、父は、『お前が主役ってダメだろ』って感じでしたね(笑)。そう言いながらも、いろんな人にポスターを配ったり、私より宣伝してくれています。すごく協力もしてもらいましたけど、結果的に親孝行になっていたらいいなと思います」

 23年1月の撮影も順調とは言えなかった。1月24日から、10年に1度と呼ばれる最強寒波直撃による豪雪で撮影中止に。2月~3月に追加撮影し、クランクアップを迎えた。劇中は同じ2分間を繰り返すという設定だが、晴れたり、雪が降ったりと、不思議な時間が流れていく。

「大雪は想定外でしたね。みんなで雪かきをしたり大変でした。でも、結果的に、この雪がなかったらダメって言えるぐらい、雪があってこその作品になったなとは思います。よく言えば、奇跡です。2分間、長回しワンカットで撮っているので、2分を超えても足りなくても撮り直しになるんです。でも、撮影を進めていくごとに、スタッフさんたちも演者も慣れていくんですよね」

 初の主演を地元で撮り終えた今、本作はどんな作品になったのか。

「地元が舞台の映画で主演させていただけた。こんなことは人生で1回あるか、ないか。自分の中では1番大きな宝物になりました。そして、自信を持って面白いと思える作品にもなりました。本当にたくさんの奇跡が起きた映画なので、公開してからも奇跡が起き続ければいいなと思っています」と自信と期待を込める。

 16年からヨーロッパ企画の作品に関わりながら、5年がかりで正式なメンバーになった藤谷。今も劇団員であることは大きな喜びであり、誇りでもある。「ずっと劇団員でいたいんですよね。劇団は実家のようなもの。そこに家族がいるみたいな。心強さを感じています」。ヨーロッパ企画と地元・貴船という2つのホームで撮った本作で、さらなる飛躍が期待される。

□藤谷理子(ふじたに・りこ)1995年、京都府出身。幼少期よりバレエを学び、英国ロイヤルバレエなどに短期留学。2016年にヨーロッパ企画『来てけつかるべき新世界』に出演。俳優として舞台、映像を問わず活躍中。21年よりヨーロッパ企画に入団。近年の出演作品に舞台『たぶんこれ銀河鉄道の夜』、『もはやしずか』、『M.バタフライ』、こまつ座『日本人のへそ』、ドラマ『ももさんと7人のパパゲーノ』(NHK)、『カンパニー~逆転のスワン~』(NHK BSプレミアム)、テレビ『ゴー!ゴー!キッチン戦隊クックルン』(声の出演/NHK Eテレ)など。

次のページへ (2/2) 【写真】『リバー、流れないでよ』初日舞台あいさつの様子
1 2
あなたの“気になる”を教えてください