「セルフレジの方がありがたい」 聴覚障がい者の女性が賛否両論のレジ問題に一石

一部の利用者や店員から「使い方が分からない」「負担が増えた」など、導入をめぐる議論が話題のセルフレジ。そんななか、「セルフレジの方がありがたい」という聴覚障がい者の投稿が注目を集めている。投稿者は10年前のある日、突然聴覚障害を発症したというあきな(@akina1015)さん。誰の身にも起こりうる障害という問題に、社会はどう向き合っていけばいいのか。あきなさんに投稿の意図を聞いた。

あきなさんが投稿したセルフレジの画面。必要な情報が一目で分かるため、聴覚障がい者にもやさしい設計となっている【写真:ツイッター(@akina1015)より】
あきなさんが投稿したセルフレジの画面。必要な情報が一目で分かるため、聴覚障がい者にもやさしい設計となっている【写真:ツイッター(@akina1015)より】

25歳だった10年前のある日、突然聴覚障害を発症

 一部の利用者や店員から「使い方が分からない」「負担が増えた」など、導入をめぐる議論が話題のセルフレジ。そんななか、「セルフレジの方がありがたい」という聴覚障がい者の投稿が注目を集めている。投稿者は10年前のある日、突然聴覚障害を発症したというあきな(@akina1015)さん。誰の身にも起こりうる障害という問題に、社会はどう向き合っていけばいいのか。あきなさんに投稿の意図を聞いた。

「聴覚に障害があると、なんでも文字で表示してくれるセルフレジの方がありがたい。わたしの耳はポンコツだけど、セルフレジは機械なのでどんなにモタモタしようが関係なく、自分のペースでできるし、第一一生懸命聞き取らなくてもいいし、聞き返さなくていいので楽。しかし聴覚障害にとってのバリアが下がる一方、セルフレジは視覚障害にとってはとてつもないバリアだろうし、なかなかどっちにもバリアにならないようにというのは難しいね」

 あきなさんが聴覚障害になったのは10年前、25歳のときのこと。当時は内耳炎と診断されたが、徐々に聴力が落ちて補聴器なしでの生活が難しくなり、5年前に聴覚障害6級に認定、身体障害者手帳を交付された。現在はさらに症状が進み、聴覚障害4級に認定。「遅かれ早かれ、補聴器使っても聞こえないときが来ると思う」と現実を受け止めている。

 発症当時のあきなさんの投稿には「風邪かと思ったら風邪ではないとのこと。流感でもないと。大学病院だからわかったのか、耳の病気だそうです。下手すると失聴の可能性もあり要観察だとさ」「なんでこんなに耳悪くなっちゃったのかなぁ。なんで私はあの時に内耳炎になっちゃったのかなぁ。どうして私なのかなぁ。なんで?」と突然耳が聞こえなくなったことへの不安や恐怖がありのままにつづられている。

 当時の心境について、あきなさんは「ただただ『怖い』という感じでした。昨日まではきちんと聞こえていたはずなのに、朝起きたら、なぜか、水の中にいるような、ガラスの板でも挟まれているような、なんとも形容しがたい聞こえ方。当時勤めていた会社に欠勤の電話連絡を入れても、電話先の言っていることが理解できない。うまく聞き取れない。その時は一方的に話して一方的に電話を切りました。人生ではじめての経験だったので、本当にただただ怖いと言う感じでした」と振り返る。

 その後、聴力は一時的に回復の兆しを見せたものの徐々に低下していった。障害者手帳が交付されるほど症状が進行しておらず「法律で定められた障害者ではないものの、健聴者でもない」という中途半端な期間も過ごした。「その時期が一番つらかったですね」。社会的な支援も受けられず、会社でも電話対応等をはじめ健聴者同然の役割を求められた。

 現在はシステムエンジニアとして働いており、日常生活で常時的な介助者はいないものの、家族やパートナーと出かけた際にはコミュニケーションの介助をお願いすることもあるという。日常生活で最も不便に感じていることは、意思の疎通ができないことで相手を困らせてしまうことだ。

「特に食堂で多いのですが、店員が注文を復唱するときに何をおっしゃっているのかさっぱり理解できず、ただただうなずいているんです。例えば、ステーキソースとかステーキの焼き具合などを尋ねられていても、ただただ『はい』と言っているので、店員も私も困った状況に陥ってしまうんです。2回聞き直してもうまく分からないときもあり、おそらく店員さんはちゃんと言おうとしてるんだろうなと思い非常に申し訳ない気持ちになります」。補聴器を修理に出したときは1日をほぼ無音な状態で過ごし、配達員が来たことにも気づかなかったといい「何度も不在票を置いていかれ、すごく申し訳ない気持ちになりました。業者が置き配に対応してなかったのですが、メールをして置いて行っていただきました」と語る。

セルフレジは聴覚障がい者にやさしい半面、視覚障がい者にとってはバリアとなっていることも

 今回、セルフレジについてのYahoo!ニュースの記事を目にし、記事やコメントの中で、慣れない中高年層や店員から「セルフレジは嫌だ」という声が多いことを知った。率直な意見には納得した一方で、聴覚障がい者にとっては非常にありがたいものであることも知ってほしいとSNS投稿。400件を超えるリツイート、1700件以上のいいねを集めた。投稿には「完全なセルフレジだけではなく、(商品のスキャンは店員が行い、会計のみをセルフで行う)セミセルフレジをもっと広めた方が良い」「聴覚障害がなくてもセルフの方が気が楽」など、共感の声が多く寄せられたという。

「すべてのお尋ねが文字で表示されているところが非常に使いやすいと思います。画面に表示されている文字を読みつつ操作していけば間違う事はないし、聞くということがないので、聞き間違いもなく、聞き返しをしなくても良いと言うのは、聴覚障がい者側にとっても、店員側にとっても非常に心が楽だと思います」とあきなさん。一方で、視覚障がい者にとってはセルフレジがバリアとなっていることも気にかける。

「国がセルフレジをある程度規格化して、メーカーごとのカードや現金挿入口やテンキーの位置などの違いを最小限にし、視覚障がい者でもセミセルフレジを使えるように、駅の券売機のように物理テンキーが配置されればいいなと思っています。セルフレジはまだまだ発展途上だと思います。さらに進化を遂げればもっと、すべての人にやさしいセルフレジになるのではないかと思っています」

 コロナ禍の2020年からは勤め先がテレワークに対応。会議がオンライン化したことで字幕支援が使えるようになり、仕事がだいぶ楽になったという。テクノロジーの進歩で、健常者も障がい者も、誰もが暮らしやすい未来が訪れることを期待したい。

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