【映画とプロレス #12】「ファイティング・ファミリー」ザ・ロックが惚れたプロレス団体WAWに潜入

「ファイティング・ファミリー」(19年)は、いまや映画界ナンバーワンの稼ぎ頭となった“ザ・ロック"ドウェイン・ジョンソンの発案、プロデュースによって映画化された実話である。撮影のため訪れていたロンドンで偶然目にしたテレビドキュメンタリー「The Wrestlers:Fighting with My Family」に共感し、映画にすることを思いついたのだ。ロック様にプロレス心を思い出させたこの番組は、英国に実在するプロレス団体WAW(ワールド・アソシエーション・オブ・レスリング)と団体を運営する家族の姿を追っていた。

WAWの建物にはリングが2つある。写真はプロ仕様のリング【写真:新井宏】
WAWの建物にはリングが2つある。写真はプロ仕様のリング【写真:新井宏】

英国に実在するプロレス団体WAWと運営する家族の姿を追う

「ファイティング・ファミリー」(19年)は、いまや映画界ナンバーワンの稼ぎ頭となった“ザ・ロック”ドウェイン・ジョンソンの発案、プロデュースによって映画化された実話である。撮影のため訪れていたロンドンで偶然目にしたテレビドキュメンタリー「The Wrestlers:Fighting with My Family」に共感し、映画にすることを思いついたのだ。ロック様にプロレス心を思い出させたこの番組は、英国に実在するプロレス団体WAW(ワールド・アソシエーション・オブ・レスリング)と団体を運営する家族の姿を追っていた。

 家長リッキー・ナイトとサラヤ・ナイトの夫婦はレスラーで、3人の子どもたち(ロイ、ザック、サラヤ=のちのペイジ)もプロレスラー。つまり家族全員が現役プロレスラーという特殊な環境だ。テレビにとってはとてもおいしい企画だったと思われる。しかも家族の中から2人がWWEのトライアウトに挑戦し、末娘ひとりが契約を勝ち取る劇的展開。兄の不合格は皮肉にも、番組的には家族の物語をよりいっそうドラマチックに映し出すことに成功している。

 ロック様もペイジと同じくレスリングファミリー出身だ。国こそ違えど、身近なところに自分と似た環境からWWE入りしたスーパースターがいることに気づかされたのだ。

 ナイト一家運営のWAWは、英国東部の地方都市ノリッジを拠点とするローカル団体だ。「Mainly violence(主に暴力沙汰)」で前科者のリッキーと、薬物中毒に苦しみ自殺寸前「Not combined(ヤクを複数一緒にはやってないわよ)」のサラヤが出会ったのは89年の夏。すでにリッキーはプロレスラーとしてデビューしており、会場近くのレストランで知り合ったサラヤをマネジャーにつけた。リッキーはプロレスで更生し、サラヤも立ち直った。プロレスに生きる希望を見いだしたサラヤは、やがてレスラーとしてもリングに上がるようになる。「宗教で救われる人もいるけれど、オレたちの場合はレスリングだった」とリッキーは振り返る。2人は結婚し、地元ノリッジでWAWを旗揚げした。94年のことである。その後、ザックとサラヤが誕生する。

 WAWでは、日本の道場に相当するレスリングスクールも開設した。これは彼らの本気度の表れであり、完全更生を成功させたのは地域貢献する姿からも明らかだ。映画でも最初は地元住民から色眼鏡で見られていたが、子どもたちにレスリングを教えるなど、徐々に市民からも認められるようになっていく。いまではノリッジを代表するスター家族だ。

リッキー・ナイト(右)とサラヤ・ナイトの夫婦【写真:新井宏】
リッキー・ナイト(右)とサラヤ・ナイトの夫婦【写真:新井宏】

ジム、オフィス内部に潜入

 数年前、道場は別の場所に移設した。映画でのトレーニングシーンは、当時の道場を再現したセットである。よって道場のロケ地に行くことはできなかったが、新しいジムを見る機会に恵まれた。そこはオフィスとグッズショップも併設されており、ノリッジ中心部により近いところにあるから利用者にはいっそう便利なロケーションだ。

 入り口ではいきなり「ファイティング・ファミリー」の巨大ポップがお出迎え。劇場に置かれた宣材を譲り受けたのだろう。グッズショップは受付にもなっており、ここでサインをしてから道場に入る。セキュリティーのためか、どんなに親しい人物でもサインをしてからの入室が求められていた。ショップにはWAWやWWEのグッズが多数。街の規模からしても本当に売れるのだろうかと心配になるほどだが、そこはジム経営でカバーしているのだろう。

 内部に入っていくと、オフィスが数部屋。壁には所狭しとポスターやポートレートが掲示されている。リングはふたつ。ひとつは子ども用の小さいリングで、もうひとつがプロ仕様。実際に筆者が訪れたときは2人の練習生がトレーニングにやってきた。練習にはリッキーの孫にあたるリッキー・ナイトJrも加わった。リッキーはすでにおじいちゃんなのだった。練習場には「使ったら掃除すること」「リスペクトなしは、すべてを失う」などの訓示も。さらに、ジムではウェートマシーンが豊富。医務室までキチンと用意されている。また、実際に使われるかどうかは別にして、プレス&メディアルームまで。予想以上の充実ぶりだ。

 WAWアカデミーからは多数のレスラーが輩出された。なかでもダントツの出世頭がペイジである。女子レスラーの“フィーメルプレデター”アマゾンもWAWでトレーニングを積み、ペイジのWWE行きを空港で見送ったひとりだ。また、映画にも登場する盲目の少年は実在の人物がモデルになっている。彼は実際にレスラーデビューを果たすまでになった。その彼が、筆者の訪問を聞いてわざわざ道場に来てくれた!

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