【週末は女子プロレス♯79】初代IWGP女子王者KAIRIがWWEで学んだ“一流”「見せない努力と苦労の先に栄光がある」

新日本プロレスとスターダムの合同興行、11・20有明アリーナで岩谷麻優を破り、初代IWGP女子王者となったKAIRI。2012年1月にスターダム3期生としてデビューし、5年後の17年からWWEに参戦、10周年の今年、フリーで古巣に帰還し新日本が認定する女子のベルトを奪取した。新日本1・4東京ドームでは中野たむとの初防衛戦が控えている。

今年WWEから帰還したKAIRI、江の島でジムを経営している【写真:新井宏】
今年WWEから帰還したKAIRI、江の島でジムを経営している【写真:新井宏】

世界最大の団体で中心人物として活躍してきたKAIRI

 新日本プロレスとスターダムの合同興行、11・20有明アリーナで岩谷麻優を破り、初代IWGP女子王者となったKAIRI。2012年1月にスターダム3期生としてデビューし、5年後の17年からWWEに参戦、10周年の今年、フリーで古巣に帰還し新日本が認定する女子のベルトを奪取した。新日本1・4東京ドームでは中野たむとの初防衛戦が控えている。

 日本から離れていた期間が長いため「いいとこどり」のイメージもあるだろう。とはいえ、彼女は世界最大の団体で女子の地位が男子と並ぶほどの経緯をリアルタイムで体感、しかも中心人物のひとりとして活躍してきた事実は知っておく必要があるのではないか。

 例えば、ちょうど3年前の19年12月15日にはWWEのビッグイベント「TLC」でメインを務め、アスカとのカブキウォリアーズでWWE女子タッグ王座防衛という偉業まで成し遂げている。それだけに、日本の団体でも男女合同のビッグマッチで女子の試合がメインとなり、KAIRIが王者となったことは世界のプロレス史的にも重要な出来事と言えるのだ。

 現在、WWEでは元スターダムのイヨ・スカイ(紫雷イオ)が活躍中だ。スターダム時代のイオは、岩谷、宝城カイリ(KAIRI)との3人娘で団体をけん引。WWE入り後はNXTでKAIRIとタッグを組み、現在はトリプルテイルズ時代の盟友・華名(アスカ)との抗争を展開中だ。

 イヨが加入したダメージCTRL(コントロール)ではダコタ・カイ(イーヴィー)とのコンビでWWE女子タッグ王座も奪取。WWE先駆者のアスカ、KAIRIの実績にどこまで迫れるか、興味深い。

「団体は違いますけれど日本にいる頃からアスカさんはずっと気になる存在でした。フリーで新しいことにどんどん挑戦されてるパイオニア。いつか関われたらいいなとは思ってたんですけれど、まさか(WWEで)組めるとは思ってなかったですし、カブキウォリアーズで一緒に過ごした時間は貴重でしたね。プロレスのスキルは世界一なんじゃないかってくらいですよ。お客さんを沸かす力もすごいし、間の取り方とか、無駄な所作がないところ。それに、気迫。レスラーっていろんなスキルが必要ですけど、アスカさんはオールマイティーというか完成されすぎてて圧倒されました。

 カブキウォリアーズになると決まってから、私、ポール・ヘイメンさんに言いにいったんですよ。これまで海賊キャラだったけれど、アスカさん寄りでチェンジしたいって。そうしたら『やってみな』と言われて、初めてヒールキャラにトライしたんです。イオさんとはスターダムでずっとやってきてNXTでタッグを組めて、米国でも苦楽を共にしました。もともとWWEに行ったのも、このままじゃイオさん、麻優さんを超えられないとの思いがあったから。この2人との出会いは私にとってものすごく大きいです。その2人がいまWWEで争ってるのは見ててすごく楽しいし、うらやましくもありますね。そこに自分がいたらどうなったのかなとも思います」

 一見順風満帆に見えるWWEでの活動だが、そこにはさまざまな苦労、葛藤があった。まずは渡米の決断。オファーが来てから半年以上、悩みに悩んだ。当時はスターダムの選手会長で白いベルトのチャンピオン。ある意味、一定の地位は約束されていたと言っていい。しかしWWEでは新人扱い。世界的にはまだまだ無名だけに、最初はすべての面で条件が下げられる。

「怖かったですよ。スターの集まりで自分が闘っていけるのか。ひとり暮らしだし、誰も助けてはくれない。ゼロから結果を残さないといけないですからね。だけど、最終的には行って後悔するか行かずに後悔するかで考えて、だったらチャレンジしてみようって。ただ、行ってみたら最初は後悔しました(苦笑)。初めての日に控室に恐る恐る入ったら、選手にすっごいにらまれたんです。誰だコイツって感じで(苦笑)。言葉も分からないし。だったら試合で周囲を納得させていくしかなかったんですよ」

WWE時代、迷走からの転機はザイヤ・リーとの会話

 メイ・ヤング・クラシックという女子トーナメントで優勝という結果をいきなり出したKAIRI。しかし、大会後の集合写真で自分の小ささを痛感。その後、しばらく低迷の日々が続いた。

「中邑真輔さんもアスカさんもみんなそうなんですけど、実績関係なく、最初はトレーニングも初心者クラスから始めないといけないんです。それにプロモーションの練習も辛かったですね。毎回泣いてましたし、毎回日本に帰りたくなりました(苦笑)。たとえばリング上でくじを引いて、書いてあるお題についてしゃべるんですよ。あるときは『バナナ』だったりして。そしたらバナナについて1分間英語でアピールしないといけないんですね。それができないと生放送中に急にはできないですから。そこはきつかったけど、本当にに鍛えられました。また、試合が組まれない苦しみも味わいました。スターダムだったら大会があれば試合できるじゃないですか。でもWWEでは大会があっても全員が出られるわけじゃない。そこは本当に競争で、このまま消えてしまうんじゃないかと思うときもありましたね」

 では、迷走から脱出できたきっかけとはなんだったのだろう。

「転機は、ザイヤ・リーですね。『KAIRIの試合がすごく好き』と言ってくれたんですよ。彼女は中国人なんですけれどプライベートでも話しかけてきてくれて、孤独を感じていたところ、その子のおかげで自分のプロレスをもう1度信じてみようかなって思えたんです。それまでどうにかして変えなきゃと考えていたのが、いままで自分が使ってたことをもっとうまく表現するにはどうしたらいいのか考えられるようになりました。原点に戻れたというか、家でも自分の曲を流しながら、いろいろイメージしていましたね」

 その象徴が世界一とも言われるダイビングエルボードロップのインセインエルボーだ。NXT女子王座挑戦のチャンスをつかみ取り、メインロースターへの道が開けた。そしてつかんだスーパースターの座。女子タッグ王座は現時点で最長期間の保持で、抗争相手もシャーロット・フレアーやベッキー・リンチと世界のトップ。渡米前、ここまで活躍できると予想した人はいないだろう。そして、20年7月20日のベイリー戦、翌週のロウ登場を最後に帰国。今年3月、スターダムの両国大会で日本復帰戦をおこない、ここまで8戦をこなした。

岩谷麻優との会見での1枚【写真:新井宏】
岩谷麻優との会見での1枚【写真:新井宏】

現在は夫とジム経営、WWE色はゼロ

 その傍ら、神奈川県藤沢市・湘南江の島でフィットネスジム「PARA-FIT24」(パラフィット24)を経営。湘南モノレール「湘南江の島」駅直結で、江ノ島電鉄「江ノ島」駅からも至近距離にある。22年1月オープン、もうすぐ開業1周年だ。

 ジムに訪れてみると、プロレスラーKAIRIやWWEのカラーは一切感じられない。世界で知られる元WWEスーパースターの経営とは誰も気づかないだろう。

「そこはあえて出さないです(笑)。自分の名前で勝負したくないというか、地域密着でやりたかったので。というのも、大学時代にこの近くに住んでいて、藤沢とか大きな駅まで行かないとこの近辺にはジムがなかったんですね。大学のヨット部時代からずっと私はスポーツで心身ともに救われてきました。それでいつかは地域に社会貢献したいと思って、夫との共同経営でこの場所にしたんです」

 24時間営業のジムには日焼けマシンや岩盤浴も完備。現在、高校生から84歳までの会員がおり、会費も1万円以下でリーズナブル。しかもKAIRIらしく、まったくの初心者はもちろんスポーツ選手を応援する意味でアスリート会員の枠も用意した。

「ヨットの同期でオリンピック目指している子とか、プロサーファー、プロボディボーダー、トライアスロンの選手の方とかもいらっしゃいます。私は(オーナーであり)一従業員。私のことプロレスラーだと知らないで通ってる方もいらっしゃると思いますよ(笑)」

 では最後に、WWEで学んだことはなにか、聞いてみた。

「プロレスとはなにかというのを学びたくて、行ってからもずっと一流とはなんだろうと考えてましたね。ローマン・レインズ、ブロック・レスナー、ジョン・シーナとかシャーロット・フレアー、ベイリー、サーシャ・バンクス、男女ともバックステージでどんな行動をしてるんだろうとか観察してました。中邑真輔さん、アスカさんも含めてです。そこで感じたのは、一流ってどんなにプライベートで辛いことがあったりイライラしてたりしても、音楽が鳴って入場となると、なにをまとってるんだろうってくらいにオーラが違うし、人間じゃないってくらいにすごいんですよ。人間だから波があるのは誰でも同じだけれど、裏でどれだけ努力してるかは見せないんです。それでいて最高の自分を見せる切り替えの力ですよね。私もですけど、毎日、女の子が泣いてます。それでも本当は優しいし、エンターテイナー。それでいてみんなおもしろい(笑)。見せない努力と苦労の先に栄光があるってことを一流の人たちから学びましたね」

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