警備体制に問題はなかったのか 安倍元首相の警護経験者に聞く「ちょっと考えられない」

自民党の安倍晋三元首相が8日午前、奈良市の近鉄大和西大寺駅前で不審な男から銃撃され、心肺停止状態となり、その後、死亡が確認された。

安倍元首相【写真:Getty Images】
安倍元首相【写真:Getty Images】

「そもそも360度をフリーにしない」

 自民党の安倍晋三元首相が8日午前、奈良市の近鉄大和西大寺駅前で不審な男から銃撃され、心肺停止状態となり、その後、死亡が確認された。

 凶行の舞台となったのは、大和西大寺駅前。男は安倍氏の背後から忍び寄り、散弾銃のようなものを2発射撃した。至近距離からの狙撃は破裂音とともに白煙が立ち上り、安倍氏は倒れた。ネット上には銃撃の瞬間を捉えた動画が複数投稿された。首相経験者の安倍氏にはSPや奈良県警が警護していたものの、背後からの凶弾を防ぐことはできなかった。

 そもそも安倍氏のような要人の警護とはどのようなものになっているのか。

 2019年、安倍氏が選挙の応援演説のため大阪を訪れた際、警護した格闘家のアンディ南野さんは、「(自民党以外の)ほかの政党の過激な応援者が演説中に瓶を投げたり、缶を投げたり、物を投げるということが全国の選挙演説中に実例としてあったみたいで、もしかしたら大阪でも…ということを危惧していた。公式のSPもついたんですけど、地元に顔が利いて、いざというときの立ち回りでも相手を傷つけずに押さえたりできる人を探しているというので、ボクに声がかかったんですよ」と、依頼の背景を明かした。

 演説が予定されていたのはJRの駅前。スーツ姿で待っていると、黒塗りのセダンが横づけされ、安倍氏が降りてきた。

「すぐに『すみません、周りにSPついてあげてください、みなさん』と言われて、警備につきました。演説はマイクロバスの上だったんですけど、気配り目配りして、うちのジムの選手も何人か連れて行って、リスクが高いところに配置しましたね」

 不審者を見極めるうえで、特に注意したのは目の動きだという。

「普通、演説を聞いている人は、しゃべっている人に向かって同じ動きをするんですけど、ちょっとおかしな動きをしそうな人って1人だけ視線が違ったりとか、みんなじーっと見ているのに1人だけあっちいったりこっちいったりとかって結構あるんですよ。安倍さんのときも、ボクがそばについて全体を見回して、おかしいところがあれば『ちょっと見といて』『そっちついといて』とかっていうのはやっていましたね」

 当時の警備は、「厳重でしたね」と振り返る。一方で、今回の警備については、安倍氏の位置や高さ、背後の護衛の薄さから「ニュースを見ていたんですけど、ちょっと考えられないですね。いざというとき守れるかというと絶対無理」と語った。

 安倍氏はガードレールに囲まれた場所で、地面に置かれた小さな台の上で演説していた。

「そもそも360度をフリーにしないんですね。せめて180度かなと感じます。(演説は)広くて大衆の目が集まるようなところでってなったから、あの場所になったと思うんですけど、それやったらせめて後ろに2列くらい人を立ててやったほうがよかったんじゃないかなと思います。よかれ、あしかれ、日本は平和で治安がいいからまさかそこまで徹底しなくてもという判断だったのかもしれませんけど」と指摘した。

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