21歳注目のシンガー由薫「心が折れやすいタイプ」で“プチ挫折”の連続 救ってくれた図書館とギター

映画「バスカヴィル家の犬 シャーロック劇場版」の主題歌「lullaby」(ララバイ)でメジャーデビューを果たした注目のシンガーソングライター・由薫(ゆうか)。彼女の魅力は大きく分けて2つある。1つ目は透明感のある歌声だ。ささやくような繊細な歌声から新作でみせたパワフルでエモーショナルな歌声までその幅の広さは未知数だ。そして2つ目は想像力豊かな言葉が特徴の楽曲の世界観にあると思う。昨年末にインディーでリリースした「Fish」は、「あなたなら食べられてもいいわ 刺身にでもしてとって食って♪」という独特な言い回しの歌詞で揺れる心の中を表現した。そして、この2つの魅力に存在する「切なさ」と「陰」。由薫の原点を探ってみた。

曲作りの発想の原点は学校の図書館だった【写真:舛元清香】
曲作りの発想の原点は学校の図書館だった【写真:舛元清香】

由薫インタビュー、映画「バスカヴィル家の犬」の主題歌「lullaby」

 映画「バスカヴィル家の犬 シャーロック劇場版」の主題歌「lullaby」(ララバイ)でメジャーデビューを果たした注目のシンガーソングライター・由薫(ゆうか)。彼女の魅力は大きく分けて2つある。1つ目は透明感のある歌声だ。ささやくような繊細な歌声から新作でみせたパワフルでエモーショナルな歌声までその幅の広さは未知数だ。そして2つ目は想像力豊かな言葉が特徴の楽曲の世界観にあると思う。昨年末にインディーでリリースした「Fish」は、「あなたなら食べられてもいいわ 刺身にでもしてとって食って♪」という独特な言い回しの歌詞で揺れる心の中を表現した。そして、この2つの魅力に存在する「切なさ」と「陰」。由薫の原点を探ってみた。(取材・文=福嶋剛)

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「まだ慣れていないのでうまく答えられるかどうか自信はありませんが精一杯答えていきます」

 初対面の相手を前に構えることなく冒頭のあいさつから穏やかな表情を見せた由薫。撮影中に愛用のギターをつま弾きながら話しかけてくれた。

「この子はMARTIN(=マーティン)のOO(ダブルオー)シリーズのアコースティックギターでつい最近買ったんです。サニーという名前を付けたんですが、詳しい人に聞いたらこの色は日本で2本しかないって聞いてびっくりして。今まで問題児ばかりだったんですが、サニーはすごく私の言うことを聞いてくれるんです(笑)」

 ギターを自分の子どものように話す姿を見て、これまで書いてきた曲は彼女にとってごく自然の流れだったと想像した。そのきっかけを聞くと幼少期の出来事が大きかったという。

「私は、今まで“プチ挫折”ばかりでした。2歳から8歳まで海外で生活していたこともあって日本に戻ってきた時、周りの環境にうまく馴染めませんでした。誰かと比較されたりいろんな場面で優劣を付けられてしまうので『私っていったい何なんだろう?』って次第に考えることが多くなっていきました」

 そんな彼女が自分を取り戻せる唯一の場所が学校の図書室だったという。

「放課後の図書室は一番落ち着く場所でした。物語を読んでその世界に入り込んでしまえば、誰にも邪魔されないですし、想像力もフル回転できて楽しかったんです」

 子どもの頃から絵を描いたり、映像作品を作ったり、創作活動で自分を表現することが誰よりも好きだった彼女は、図書室で過ごした時間が今につながる想像力を育んだ。そして表現方法が音楽へと向かうきっかけが15歳の頃に出会ったギターだった。

「15歳でギターを買ってもらって、それから放課後はずっとギターに熱中していました。ギターを覚えるのが誰よりも遅くてすぐに心が折れやすいタイプだったんですが、最初にCとDとGの簡単なコードを3つ覚えて弾ける曲をたくさん増やしていったら面白くなって。いつの間にかギターを抱えているだけですごく幸せな気分になりました」

 YouTubeの教則動画を見ながら時間をかけて1つ1つクリアしてようやくカバー曲が1曲弾けるようになった。

「弾き語りができた瞬間、私の心の中に溜まっていた水がスーッと外に流れ始めたんです。きっと私は外に出したいという水を心の中にずっと貯め込んでいたんだって気が付きました。それから自分の曲を作り始めると今度は新しい水や光が心に溜まっていきました。もうギターが体の一部みたいな存在になって手放せなくなってしまったんです」

ドキドキしながら友達に聴いてもらった最初の曲【写真:舛元清香】
ドキドキしながら友達に聴いてもらった最初の曲【写真:舛元清香】

今の私があの頃の自分を音楽で救ってあげたい

 由薫が初めて作った曲は「雨少女」というタイトルだった。

「歌詞は『いつも1人で傘の中♪ 心の天気も雨模様♪ 今日の旅行も雨だった♪』で始まって(笑)。最後は晴れ男がやってきて虹がかかるというストーリーです。放課後みんなでギターを鳴らしながら遊んでいたら、雨が降るたびに、『私が雨女のせいだから』って冗談交じりにみんなで話していたことを曲にしました。ドキドキしながら友達に聴いてもらったら『いいじゃん!』て笑ってくれて」

 そんなずっと大切にしてきた友達についてもう少し聞いた。

「『雨少女』を最初に聴いてもらった友達が私にとって一番大切な人です。13歳の頃から一緒で私が悩んでいた時期もずっと側にいてくれて、私以上に私のことをよく知っている人物なんです。何かに迷った時は、真っ先に彼女に相談しますし、私の揺らいだ気持ちをまっすぐに伸ばしてくれる存在です。たった1人でもそういう人が自分にいてくれることに救われているんだなって思います」

 由薫にとって曲作りとは閉ざしていた心の中と外をつなぐ橋渡し役みたいな存在だという。

「みんなが認めてくれたら大きく扉を開いて、そうじゃなかったら扉を閉めてまた自分の世界に戻るみたいな。曲作りは続けましたが、人前で歌うえるようになるまでにはもう少し時間がかかりました」

 好きな歌手はたくさんいる。しかし彼女は誰かに憧れてミュージシャンを目指した訳ではないという。

「子どもの頃から心の中を閉じてしまい、素直な気持ちが出せなかったあの頃の自分を救ってあげるための自己表現が今の私の音楽なんです」

 そんな葛藤を乗り越えてつかんだメジャーデビューの切符。これから大きな旅が始まる前に「あの頃」の自分に声をかけてもらった。

「『君はそのままでいいんだよ』「今でも大切な人だよ』って言ってあげたいです。本当に小さい頃から心をいっぱいいっぱいにして生きていた子どもの頃の私に優しい言葉をたくさんかけてあげたいですし、あの頃の私を抱きしめてあげたいです」

□由薫(ユウカ)2000年・沖縄生まれ。幼少期をアメリカ、スイスで過ごす。2021年11月から、自身初となる3か月連続で「Fish」「Yesterday」「風」をデジタルリリース。22年2月、1stEP「Reveal」をリリース。6月15日、映画「バスカヴィル家の犬 シャーロック劇場版」の主題歌「lullaby」(ララバイ)でメジャーデビュー。

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