「優等生がコンプレックスだった」 女優として開眼、若月佑美にとっての転機はコメディー

女優の若月佑美が主演舞台「薔薇王の葬列」で、男女両方の性別を持って生まれたことやネグレクトなど複雑な背景を持つ役に臨んでいる。高校在学時にデビューしてから約10年。「優等生と言われることがコンプレックスだった」という少女は、自分をさらけ出す役者業を通じて「マイナスと思っていたことが自分だけの武器になる」と開眼した。「今年一番の挑戦」と定める舞台をステップに、「限界を決めずに、高みを目指したい」と飛躍を誓っている。

舞台でダブル主演を務める若月佑美【写真:山口比佐夫】
舞台でダブル主演を務める若月佑美【写真:山口比佐夫】

数奇な運命を演じる主人公に「自分の過去を見るよう」

 女優の若月佑美が主演舞台「薔薇王の葬列」で、男女両方の性別を持って生まれたことやネグレクトなど複雑な背景を持つ役に臨んでいる。高校在学時にデビューしてから約10年。「優等生と言われることがコンプレックスだった」という少女は、自分をさらけ出す役者業を通じて「マイナスと思っていたことが自分だけの武器になる」と開眼した。「今年一番の挑戦」と定める舞台をステップに、「限界を決めずに、高みを目指したい」と飛躍を誓っている。(取材・文=西村綾乃)

 物語は白薔薇のヨーク家と、赤薔薇のランカスター家が王座を巡る争いを繰り返した「薔薇戦争」を背景に、2つの性を持って生まれたヨーク家の三男・リチャードの運命を描いている。ウィリアム・シェイクスピアの史劇「ヘンリー六世」と「リチャード三世」を原案に、菅野文が書き下ろした同名マンガが原作で、テレビアニメにもなった人気作を内田裕基・松崎史也の脚本、松崎の演出で舞台化した。

「マンガは、友人におススメされて読んでいました。まさか自分が演じるとは思っていなかったので、オファーをいただいたときは驚きました。マンガを通じてリチャードが抱えている葛藤や、生き方を知っていたので『私に務まるかな』と不安がありました」

 俳優の有馬爽人とダブルキャストで向かう舞台。出演依頼はうれしさよりも、緊張感があったと振り返る。数奇で残酷なリチャードの運命を演じたいと思ったのは「過去の自分を見ているようだったから」と明かす。

 2011年に受けたオーディションに合格し、翌年歌手デビュー。凛々しい容姿、竹を割ったようなイケメンな性格も愛された。

「この世界に入った時からずっと、周囲と自分を見比べていました。私は筋肉が付きやすい体質なので、動くとすぐに腹筋が割れてしまうことがコンプレックスでした。周りから『ボーイッシュなところが、かっこいいよ』と言われても、『ワンピースが似合う女性になりたいのに』と耳を貸すことができなくて。『女性らしい曲線を持っている人がうらやましい』などないものねだりをしているうちに、どんどん苦しくなっていきました。リチャードも自分の存在を認めてくれる(羊飼いの青年として出会う、その実は宿敵ランカスター家の当主)ヘンリーがいるのに、居場所がないと思っている。自分は孤独だと卑屈に思っているところは、昔の自分に似ています。リチャードを演じるというより、リチャードに『寄り添ってあげたい』と思いました」

 周囲から寄せられた心無い言葉を、真っ直ぐに受け止め、自己嫌悪に陥っていた時期があった。「真面目」とほめられても「面白みがないのかな」とマイナスに変換し、がんじがらめになっていた。出演した2つの舞台が転機になったと語る。

「一つ目は『OLちゃん』役を務めた舞台『スマートモテリーマン講座』(17年)でした。コメディー作品に戸惑っていたとき、(同作の)脚本などを手掛けた福田雄一さんに『真面目と思われている人が、全力でバカをやるから面白いんだよ』と言っていただき、『私にもできることがある』と救われました。2作目は翌年主演した舞台『鉄コン筋クリート』(『薔薇王の葬列』と同じ松崎が演出を担当)。女性らしくありたいと思っていましたが、鉄パイプを振り回すやんちゃな男の子の役をいただき、『女性だけど、男性らしい演技ができることは武器になるのかもしれない』と感じました。福田さんには、“真面目”過ぎてダメと思っていた性格をプラスに。女性らしくないと卑屈に感じていた容姿は、松崎さんが肯定してくれたことで、前向きにとらえることができるようになりました」

 本番を目前に控え、殺陣や長台詞の稽古にも力が入る。

「シェイクスピア演劇のように、今作では独白する場面があります。相手役がいて、感情をもらうのではなく、笑ったり、怒ったり、自問自答したり……。感情の波を自分で作って進めなくてはいけない。独白のシーンはとても難しいですが、今年一番の挑戦だと思って頑張りたいです。17歳のときに上京して、10年目。限界を決めず、性別も年齢も超えて色々な役を演じられるよう、まい進したいです」

 舞台は6月10日に東京・日本青年館ホールで幕を開ける。

□若月佑美(わかつき・ゆみ)1994年6月27日、静岡県生まれ。2011年に「乃木坂46」の1期メンバー・オーディションに合格18年にグループを卒業し、ドラマや映画、舞台などで活躍している。ドラマでは「私の家政夫ナギサさん」(TBS)、「共演NG」(テレビ東京)などに出演。映画でも「今日から俺は!!劇場版」「劇場版ラジエーションハウス」など、出演作多数。身長157.7センチ、血液型O。

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