Vaundy、父親世代を夢中にさせる革新性と普遍性 “令和ポップス”の魅力を作曲家が分析

スガシカオのブレーク前夜に重なるVaundyの“希望成分と絶望感”のバランス

 さて、Vaundy。サブスクリプションで彼の楽曲をすべて聴き、ぼくはすっかり彼の音楽のファンになってしまいました。何と言ってもバランス感覚が抜群なんです。キャッチーなサビと内省的なリリックのバランス、シンプルなトラック(オケ)に時折見せるドキッとするギミックのバランス、ラブソングとそれ以外のバランス、希望成分と絶望感のバランスが、実に。

 Jポップの歴史の中で、Vaundyをもし誰かに例えるとするなら、デビュー当時のスガシカオ、それも「夜空ノムコウ」(SMAP/1998年)の「作詞家」としてブレークする直前の「1997年のスガシカオ」をあげます。

 当時のスガの音楽は、すべての楽器を1人でプレイする密室性を持ちながら、ライブでの盛り上がりも予感させる肉体性と楽曲のポテンシャルがあり、自虐的とすら言えるヒリヒリしたユーモアと、それでも希望を失わない歌詞に「新しい何かの始まり」を感じさせてくれました。

「夜空ノムコウ」のスガによる歌詞は、デビュー当時の彼が持つ「ヒリヒリ感」をそのままに、Jポップの王道に引きずりこんだところが大変に痛快だったのですね。

 ぼくは68年(昭和43年)生まれの53歳。21歳のVaundyは完全に息子世代。そんな「父親世代」まで夢中にしてしまう彼の魅力はどこにあるのか、じっくり考えてみました。

 Vaundyのインタビューを見聞きし驚いたのは、彼自身の音楽のルーツが小田和正であるという発言です。山下達郎の名もあげていました。そのてらいのなさを筆者はとてもまぶしく感じます。

 我々の世代のアーティストなら、まずは洋楽のアーティストを挙げるのではないでしょうか。それも、いい塩梅のマニアックな名前を。例えばですがぼくが同じ質問を受けたなら、「エルヴィス・コステロ」と答える、と言えば分かっていただけるでしょうか。

 てっきりVaundyもそんな“尖った”音楽性を持つ現代のアーティストの名を挙げると思ったのですが。

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