Apple「コーダ あいのうた」は映画界を変えるのか 配信会社初オスカー作品賞の意味

第94回アカデミー賞授賞式が日本時間28日、米ロサンゼルスのドルビー・シアターで行われ、作品賞には音楽の道を志す少女と耳の聞こえない家族の葛藤と愛を描いた「コーダ あいのうた」(Apple、日本では劇場公開中)が輝いた。配信会社としては初の作品賞受賞。オスカーの歴史が動いた意味とは……。

トロフィーを手にした「コーダ あいのうた」のシアン・ヘダー監督【写真:AFP/アフロ】
トロフィーを手にした「コーダ あいのうた」のシアン・ヘダー監督【写真:AFP/アフロ】

8作品がノミネートされた作品賞で栄冠

 第94回アカデミー賞授賞式が日本時間28日、米ロサンゼルスのドルビー・シアターで行われ、作品賞には音楽の道を志す少女と耳の聞こえない家族の葛藤と愛を描いた「コーダ あいのうた」(Apple、日本では劇場公開中)が輝いた。配信会社としては初の作品賞受賞。オスカーの歴史が動いた意味とは……。(文=平辻哲也)

 濱口竜介監督の「ドライブ・マイ・カー」を含む8作品がノミネートされた作品賞。プレゼンターのレディー・ガガとライザ・ミネリから告げられたのは、大本命と言われたNetflixの「パワー・オブ・ザ・ドッグ」(ジェーン・カンピオン監督)ではなく、「コーダ」だった。個人的には候補作の中で一番好きな作品だったので、うれしいサプライズだった。

 上映時間112分の半分は涙、涙、涙。こんなにも涙をしぼり取られた作品は記憶にない。それくらい胸を打たれた。両親と兄の4人家族の中で、一人だけ耳が聞こえる高校生のルビー(エミリア・ジョーンズ)の成長物語。幼い頃から家族の“通訳”となり、家業の漁業も手伝っていたルビー。新学期、ふと入った合唱クラブの顧問が歌の才能に気づき、名門音楽大学の受験を強く勧める。しかし、耳の聞こえない両親(トロイ・コッツァー&マーリー・マトリン)は娘の才能を信じられず、「家業の方が大事」と大反対する。そんな中、ルビーの選択は……。

 原題「CODA」は“Child of Deaf Adults”の略で、ろうの親を持つ子供の意味。楽曲や楽章の終わりを意味する音楽記号でもある。21年1月、新人・新鋭監督の登竜門であるサンダンス映画祭ではグランプリ、観客賞など史上最多4冠に輝き、Appleによって、映画祭史上最高額の約26億円で落札された。日本では、GAGA配給によって劇場公開されたが、米国などでは昨夏から劇場とApple TVで配信されている。

 下馬評では「パワー・オブ・ザ・ドッグ」が大本命、二番手がケネス・ブラナー監督の自伝的な作品「ベルファスト」か「コーダ」ではないかと言われていた中での逆転。それには、2010年に変更された投票方式がカギとなったのだろう。

 ほかの部門は、1候補者に対して1票を投じる形だが、作品賞に限っては順位をつける。開票では1位に選んだ人が少なかった作品が除外され、その分を繰り上げて再集計して、最終的に一つの作品に絞られる。この方式では、万人受けの映画は有利で、好き嫌いが分かれる作品は不利。「パワー・オブ・ザ・ドッグ」はカリスマ性を持ち高慢な牧場主(ベネディクト・カンバーバッチ)と、彼が冷たく当たる弟一家の物語。芸術性が高く、同性愛、人種差別など多彩なテーマ性を持った異色の西部劇だが、万人向けではなかった。

 一方の「コーダ」は見た人すべてをとりこにする感動作。原作は15年に日本でも劇場公開されたフランス映画「エール!」だが、牧場を営む家族の物語を、マサチューセッツ州の漁港に置き換えるなどアレンジを加えている。夢見る少女が、家族との障壁を乗り越えて、かつ愛を育む姿はアメリカ受けする要素がある。それが脚色賞(シアン・ヘダー)受賞にもつながった。

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