2021年映画界の顔、濱口竜介監督 三大映画祭での栄冠は「偶然。賞は運だと思います」

2021年の映画界の顔は濱口竜介監督だろう。2本の映画が公開され、世界三大映画祭で賞に輝いた。短編集「偶然と想像」(12月17日公開)は第71回ベルリン国際映画祭で銀熊賞(審査員グランプリ)、村上春樹原作の「ドライブ・マイ・カー」(公開中)は日本人初となる第74回カンヌ国際映画祭脚本賞。濱口監督は「賞は運だと思います。大谷翔平くんのように日ごろの行いが大事」と語る。その理由とは?

短編集「偶然と想像」について語った濱口竜介監督【写真:ENCOUNT編集部】
短編集「偶然と想像」について語った濱口竜介監督【写真:ENCOUNT編集部】

短編集「偶然と想像」が17日公開、濱口竜介監督インタビュー

 2021年の映画界の顔は濱口竜介監督だろう。2本の映画が公開され、世界三大映画祭で賞に輝いた。短編集「偶然と想像」(12月17日公開)は第71回ベルリン国際映画祭で銀熊賞(審査員グランプリ)、村上春樹原作の「ドライブ・マイ・カー」(公開中)は日本人初となる第74回カンヌ国際映画祭脚本賞。濱口監督は「賞は運だと思います。大谷翔平くんのように日ごろの行いが大事」と語る。その理由とは?(取材・文=平辻哲也)

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 濱口監督は今年43歳。キャリアは長いが、商業映画デビュー作は東出昌大、唐田えりか主演の「寝ても覚めても」(18年)で、「ドライブ・マイ・カー」が商業作品2作目となる。決して多作な監督ではないが、今年2本の映画が公開された。それは偶然なのか。

「偶然といえば、偶然だと思いますね。もともと『偶然と想像』は『ドライブ・マイ・カー』より完成がずっと後じゃないかなと思っていたんです。先に1、2話撮り終わっていたんですけど、『ドライブ・マイ・カー』がコロナ禍で8か月中断してしまったので、先に3話を撮ってしまい、さっさと完成させてしまった、というわけです」

「偶然と想像」は3話からなる短編集。1話は親友同士の恋バナ(古川琴音、中島歩、玄理)、2話は大学教授に教えを乞う生徒(渋川清彦、森郁月、甲斐翔真)、3話は20年ぶりに再会した女友達(占部房子、河井青葉)という構成。偶然が巻き起こす、想像もつかない“化学変化”を紡ぎ出す。一つ一つの物語はまるで小説のページをめくるようなワクワクに満ちた傑作。今年のベスト5を競う作品だろう。

 しかし、「偶然」という仕掛けは、作者の「ご都合主義」と批判のタネにもなる。「世の中には偶然があふれている。物語の中でリアリティーを描くとすれば、偶然を入れるのは本筋だと思います。でも、偶然を入れると、語り手の手抜き、ご都合主義のように言われますよね。これをどう解決しようかと考えました。ご都合主義と言われるのは、現実に見せようとしている努力がかえって失敗しているから。これは語り手がいる作りものですよ、と言ってしまうと、観客が物語の中の偶然を受け入れやすくなるだろうと思って、タイトルにも明示してます」。

 濱口監督は、作品ごとにさまざまなチャレンジをしてきた。「ハッピーアワー」(15年)はワークシップに参加した俳優志望の卵を主人公にした、317分の大長編。「ドライブ・マイ・カー」では村上春樹の短編を179分の大長編に仕上げた。自在に時間を操り、どんな長尺でも飽きさせない。本作では、あまり例を見ない短編集という試みだ。

「短編を作る自体は気が楽であったり、楽しいことではあるんですが、単体はなかなか興行に乗らない。その出口のなさを解消するにはどうすればいいかを考え、同一テーマにしました。全体としては7話のシリーズなんです。今回はシリーズ全体の入門編となるので、観客が入りやすい形を考えました。第1話はどこにでもある恋バナから始まる関係で、誰しもが感情移入できる話から始まり、一方で偶然というものは何かを突き詰めていく。第2話はとても小さな間違いが、こんなにひどい結果になるという話で、偶然がもたらす悪い可能性を示しました。第3話はその反動みたいな形で偶然の良い可能性を見せることで、観客が映画館を気持ちよく出ていただけるかな、と」

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