葉加瀬太郎、50代でようやく見つけた演奏の面白さ「ミュージシャンなら楽器で話せ」

ニューアルバムで最高傑作の「情熱大陸」が完成した【写真:塩見徹】
ニューアルバムで最高傑作の「情熱大陸」が完成した【写真:塩見徹】

うちではご法度。他でやったらクビですよ

 30年以上かけて築き上げてきた独自のスタイルを見事なほどに破壊してくれた先輩たち。鼻っ柱をへし折られた形だが、葉加瀬はそこにこそ大切なものがあると説いた。

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「すごいのは、僕の言うことを聞かない代わりに『えっ? そんなこともありなの?』みたいな、毎回ステージで面白い演奏を考えてくれるんです。やるたびにその面白さが変化して『こんなに新鮮な気持ちで演奏できるんだ!』って彼らから学んだんですよ。豪太さんは、クリック音(※)を変更してみようと提案してくれて、それによって今までにないグルーヴがバンドに生まれました。

 等さんの演奏はとても自由で、僕のバイオリンにベースでユニゾンしてくるんです。これはうちではご法度で、他でそんなことをやったらきっとクビですよ(笑)。最初の2回ぐらいは注意したんだけど、全然聞いてくれなくて(笑)。そしたら3回目ぐらいから、なぜか僕自身クセになっちゃってね。逆に面白くなってきちゃった(笑)。そうやって僕が何かをするとみんなが僕に向かって演奏で返してくれる。30年以上やってきて初めての体験で、毎日楽しくて仕方なかった」

(※)メンバーがテンポを合わせる時に聞くメトロノームのような規則音

 経験したことのない領域に足を踏み入れた。練りに練った世界観を完成させていくこれまでのやり方を一変させ、クリームやレッドツェッペリンといった昔のロックバンドのように毎回何が起こるか分からないスリリングな演奏を楽しんでいた。そんな状況を見て葉加瀬の音楽パートナーを長年務めるプロデューサーでキーボード奏者の羽毛田丈史が「これは奇跡だ」とツアー中に漏らした。

「だからもう『ダメ出しやーめた』って。時間の無駄だったんです。ハッキリ言って自分の力不足だった。そんなもんミュージシャンは楽器を使ってステージ上で言えってね。バンドメンバーも何か違うと思ったら演奏で会話してくれていたんですよ。それを2人の先輩から教わりました。挙句の果てに『太郎は本番だけ来てそこで輝いてくれればそれでいいから、リハーサルなんて来なくてもいいよ』ですって(笑)。あっ、これだ! これ! 俺が求めていたのはこの次元なんだって」

 刺激的な毎日でワクワクの止まらないツアーだったが、新型コロナウイルスの影響は、もちろん葉加瀬にものしかかった。並行して動いていたフルオーケストラのコンサートは2年間延期となり、全国ツアーも44か所を完走するのは簡単ではなかった。

「本来ならメンバーと全国でおいしい酒を酌み交わしたかったのですが、スタッフ全員に外出禁止令を出していたから、楽しみはステージの上だけでした。みんなが協力してくれたからこそ完走できたんですが、そんな思いが1つになって、ツアー10本目くらいだったかな? みんなを集めて『このメンバーで次のアルバムを作りたい。それを持って来年また一緒にツアーをやりたい』と言ったんです。葉加瀬太郎の『情熱大陸』は、これからはこのアレンジだと言われるような、そんな最高傑作をこのメンバーだったら絶対に作れる。そう思ったんです」

 ツアーが終わり、ステージ上での熱気や躍動感をそのまま詰め込んだ葉加瀬太郎史上もっともエキサイティングなニューアルバム「SONGBOOK」が完成した。そして現バンドメンバーで2回目となる全国ツアー「葉加瀬太郎 コンサートツアー2021『SONGBOOK』」も9月から始まる。

「もう準備はできていますから。あとはステージで作り上げるだけ。ワクワクしていますよ」

(続く)

□葉加瀬太郎(はかせ・たろう)1968年1月23日、大阪府生まれ。バイオリニスト。90年「KRYZLER & KOMPANY」のバイオリニストとしてデビュー。セリーヌ・ディオンとの共演で世界的存在となる。96年「KRYZLER & KOMPANY」解散後ソロ活動開始。2002年、自身が音楽総監督を務めるレーベル“HATS”を設立。07年秋、原点回帰をテーマにロンドンへ拠点を移す。デビュー25周年の節目の年となる15年春に「KRYZLER & KOMPANY」を再結成。25周年記念アルバム「DELUXE~Best Duets~」が「第30回日本ゴールドディスク大賞インストゥルメンタル アルバム オブ ザ イヤー」に輝いた。ソロデビュー20周年にリリースしたフルオリジナルアルバム「JOY OF LIFE」は「第58回日本レコード大賞優秀アルバム賞」を受賞。17年、アルバム「VIOLINISM III」が「第32回日本ゴールドディスク大賞クラシックアルバム オブ ザ イヤー」を受賞。18年、生誕50周年記念のベストアルバム「ALL TIME BEST」リリースし、「第33回日本ゴールドディスク大賞 クラシックアルバムオブザイヤー」を受賞。デビュー30周年を迎える20年3月、パラスポーツ・バリアフリー推進応援ソング「Legacy」を含む全曲豪華オーケストラアレンジで収録した「The Symphonic Sessions」を発売。21年8月18日ニューアルバム「SONGBOOK」をリリース。9月11日、千葉・松戸を皮切りに全国ツアー「葉加瀬太郎コンサートツアー2021~SONGBOOK~」(全39公演)を開催。

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